第十二節 〜急転〜
ハヤテはふわふわ浮いていた。
エメラルド色に包まれている、暗くて深い闇の中。
胸の辺りが強い金色に光っている
ペンダントだろう。
誰かの話し声が聞こえた。
「たすけ…「めざめろ」もど…し」「ざめろ「…ねむい」…けて」
5、6人だろうか。沢山いる。何が?
身動きの取れない身体をなんとかねじり、後ろを覗いた。
影。
五つの大きな真っ黒い影が、陽炎のように揺れる目を光らせ、闇から私を見下ろしていた。
声が、うるさくなっていく。どんどん、耳へ
「たすけて」ろせ」ろ」
身体へ
「めざめ「やめてくれ」「ねえ」
骨へ
「たす」いやだ「めざめ「ろして」ざめろ」
脳へ
足を引かれた。下を見れば、小さな子供のような影が。
「みんなまってるのに。」
前を見る。真ん中に立っていた一際背の高い影の目が、すぐそこまで迫っていた。
「めざめろ。」
「…ッ!」
朝の日差し、鳥の呼び声。ソファの上、寝ぼけて白むいつものリビング。
似つかわしくない心臓の鼓動と冷えた汗の垂れる感触、圧迫された息と時計の針が刻む音だけが部屋に響いていた。
「…っはぁ、っはぁっ……はぁ………… …っ……言いたい事があるなら、はっきり言ってください……!!!!!」
そこかよ。
小休憩___
街中。人々が闊歩し、数多の店の賑わう通り…その一角の街路樹の下。
「ってな事があって撮影ちょっとだけ遅刻しちゃいましたぁ…ごめんなさい、ウルさぁん……」
「大丈夫。ってか、わざわざ遅刻するほど気になっちゃった?その夢…」
「…はい。なんか…なんか、言語化するのが難しいんですけど、こう…“脳に直接語りかける”ような…なんなんでしょう、テレパシーともまた違う気がして…水の中にいるような感触さえ、頭にこびり着いて離れないんです……」
「…………ふぅん。
…受け止めれるといいね。」
『…?』
「受け、…?」
後ろからキリンさんが口を挟む。
「どうせただの夢です。働き過ぎれば悪夢を見る事だってしばしばありますし、気にしない方が得ですよ。ね、ウル?」
俺に対する脅しの目線だ、めちゃくちゃ怖い目で微笑まないでくれ…はい黙っておきます………
「あ、そうそうハヤテさん。すいません、あの時は大惨事だったのに援軍のひとつ送れず。いかんせん被害は甚大とはいえ範囲が限定的過ぎて、”わざわざこちらの助けを送る必要はない”と各所からお断りが…」「いえいえ、良いんです!むしろ私も気が動転してたっていうかそんな他の世界のお偉いさんに直接頼む事でもなかったですし……」『ほぉらっ、二人とも余計な話はしないで下さい!今日の企画は“全部の魔法、一気に青龍にぶつけてみた”ですっ。発動できる時間帯とかの都合もありますし、何より青龍さんが飽きる前に行かないと!』
「あぁ、はいっ!………って…」
そんな風にわちゃわちゃしていた中、私は見覚えのある人影を見つけてしまった。
「…ねぇウルさん。あれって………」
「ん〜…?どうした………あ。」『?』
ひょこっと彼の肩からゼロが顔をだす。
その視線の先にいたのは、カフェの前でメニュー表を難しい顔して見つめているゴシック調に身を包んだ、幼い少女。
素顔は見ずとも服装で分かる。たぶん、あの人は…
「げ、リフェリア……」
相手も、こちらを見つけて
「げっ。」
全く同じリアクションである。『あの人が!?』とゼロが驚き、どこか間の抜けたぴりぴり空気が二人の間を包む中……
「『「ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………」』」
ウルさん、ゼロ…そしてリフェリアのお腹が一斉に鳴った。
「『「…あ。」』」
「……あの、奢りますので…宜しければ、一旦カフェ寄ります?」
キッとした顔で因縁?の二人がキリンさんの方を向く。
「「賛成!!!!!」」
案外気が合うのかもしれない。
カフェ店内。二階建てでもないのに天井は広く、ベージュ色と白に塗り分けられた壁紙と天井から吊るされた数個のランプがおしゃれな雰囲気を醸し出している。
「ハヤテさんは?」「ないです…」「お二人は?」『「ココアのグランデ!あとチョコトッピングのワッフル!!!」』「おぉこれまた容量が……で…」「…」
ウルさんとは反対側の席に座り、むっとしているリフェリア…ちゃん。
「……カフェモカ。」「はい、了解です。」
微笑みながらキリンさんが席を立ち、メニューを注文しに行った。
「…リフェリア、だよな。」「そうですよ〜、隠したところで何になりますか…?」
「なんでここに?」「休暇ですよ〜。今日はドグマ様から珍しくお休みの提案をされたので、自由気ままに。」
『布教活動…っていうか、無差別な洗脳にもお休みってあるんですね…』「あの人、道具の手入れは欠かさないみたいですし…」
「『……その扱いされてそうなの、自覚あるんだ…』」「当たり前ですよ〜…共感とか、まずは理屈から…とか、そんな手順すっ飛ばして民衆をゴリ押し洗脳してくるカスが手下の事道具扱いしないわけないでしょう馬鹿馬鹿しいですね……」「手下にも嫌われてるんだ…かわいそ……」『ですね…』
「そもそも自分を“悪の組織”って自称してるんですよアイツ!おかしくないですか!?」「『たしかに………』」
キリンさんが頼んでいた飲み物を持ってくる。
「お待たせしました〜。全員分、はいどうぞ。」「…あ、キリンさんはコーヒーなんですね…」「今日も帰れば徹夜ですので。」「うわー…」
届けられた飲み物を私以外のみんなが飲む傍ら、やっぱり気が合うな………と微笑ましく眺めていると。
私にふと、ある疑問が生まれた。
「…あの……」「…何ですか。」
「……リフェリアちゃんとレフティスさんは、どうして自我が残ってるんですか?」「…!………」
「私、今まで見てきた神徒とあなたたち…言わば幹部クラスの違いが気になって。…他の人たちはまるで操り人形みたいに主導権を奪われてるなかで、どうしてあなたたちは“自分”でいれるのかな………って。」
「…免疫、そうアイツは言っていました。」
「免疫…?あれは、ウイルスみたいなものだと……?」「…うん。むしろ、なんか…粉?のような……」
その時だった。
轟音が店の外から鳴り響き、閃光が一瞬私たちを照らし出した。
『なんですッ、敵襲!?』
慌てて外を見に行くと、そこには無数のつむじ風。道路を挟んで反対側のビルの頂上、下半身を風で覆い空を悠々と舞う、鎌を持った単眼の怪人が。
「…今日の企画、おじゃんですね。」
「なんでっ……なんの報告も、命令も無かった!!!」
リフェリアが、焦り始めた。
「まさか、ついさっきまでリフェリアさんは時間稼ぎを…!?」
「違います。今日、私休日です。」
『こんな可愛い娘で引き付けとくだなんて、なんたる卑怯な!!』
「嬉しいけど違いますって。」
「ちくしょう覚えてろ、大進化教め!!!」
「あなた達、人の話聞いてます???」
悪ノリだ。
「とにかく、行くしかありません!!!」「だね。…で、どうする?リフェリア。邪魔したきゃ相手するが。」
彼女は、その問いに答える事なく曇天を見上げている。
「…行きましょう、ウルさん。……あ武器ってありますか?」「ずこッ……大丈夫だって、ちゃんと保管してるよ。…ゼロ!」『了解です!』
そういうと、ウルさんが何もない虚空に手を伸ばした。同時に、ゼロが蒼緑に光り出す。
途端に電子回路じみたゲートが宙に開き、いつもの弓が中から出現する。女子会のときにちょっとばかし聞いていたのだが、どうやら初めて受け取ったときもこの手法で出してたみたい。勿論繋がっているのは土産街だ。
「ありがとうございます!…私が尖兵、道路から気を引きますので…三人はその隙をついて後ろからお願いします!」「「『了解!!!』」」
みんな避難していったのか、車通りの無いだだっ広い路地。黒黒とした空、弓をつがえて引き放つ!
発射数、五発。なんでこんなのが効くのかは未だ分からないけど、中三発をわざと外して残二発を両手の甲に命中させた。暴れてても元人間、勿論貫通はさせない角度だ。
「……………あ…あ゛ぁ…っ!」
やった、こちらに注意が向いた。ぐるりと向きを変え、つむじ風を従えつつ高速でこちらに向かってくる。
「頼みました!!キリンさん、ウルさん!!!」
私に向かってくる。向かってくるんだ。残り…8m、5m、4m、3m………
残り40cm。動きが止まる。背後から、キリンさんたちが腕を押さえつけている。ならばと脚を動かそうとしても、既にゼロに凍結されていた。
「…痛くはしません。」
申し訳なさを心から感じつつも後ろに回り、コアを矢で引き剥が_________
「助けてくれぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」
聞こえた。声。その場にいる神徒から、声が。
教祖に操られているとも思えない、心からの悲鳴。
時が止まった。全員の時が止まったのだ。なんで?どうして?一瞬の思考の末、神徒が腕を振り解く。
反応出来なかった。神徒は鎌を生成し、今私を切り刻
「何やってるんですかッ!!!」
キリンさんが間一髪、私を連れて遠くへ引き下がる。
「何やってんですか馬鹿ですか死にたいんですか貴女!!!!!」
「だってっ!!!キリンさん、いま!!!声が!!!!!」「聞こえてましたよ!!私にもッ!!!はっっっきりと!!!!」
どういうこと?どういうことなの?今にも泣きそうな声で、私の中の私が呻いている。
「……私たちと、同じ…?いえ……主導権は、ドグマ様…?」
遠くで見ていたリフェリアが、ぽつんとそんな言葉をつぶやく。
最早誰の目にも、希望はなかった。あるのは、疑いと、目を背けたい気持ちと、恐怖と、憎悪だけ。
再び向かってくる。キリンさんの腕の中で弓を構えて矢を撃つも、その直前で私が争う。戸惑い、撃っていいのか?と手が緩み…結果、矢は刺さる直前でU字の円弧を描いて曇天に消えた。
「…ハヤテさん………」「……わからない、どうすればいいの…?」
「…私たちが今できることは、あの人を助けることだけです。」「…キリンさん……」「一瞬の戸惑いが戦場では命取りなんです。…………苦しいですが、再び取り押さえますよ。」「…はい。」
斬りつける鎌を躱し、防ぎ、切り抜けていく。風のせいで身動きがうまく取れない。
「…今……助け!ます!!!絶対に!!!」
ゼロの氷は再び脚を縛りつけ、ようやく再び体躯を抑える。
「助けてくれ!お願いだ、もう!!!やめてくれ!!!!!」
その声に頷き、今度こそ首に矢をかけた。
かけた、ハズだった。
瞬間、先程の風が比にならない程の衝撃波が私たちを襲った。
『何事___っ!?』
白い触手に神徒が包まれ、肉が隆起し、山吹色の光の中で、元の体を押し潰すように巨大なシルエットが形成されていく。
「…なに……………あれ…………………」
音楽の授業で習ったことがある。いや、美術だったろうか。分からない。今となっては関係ない。
14mはあろうか、双頭の鶏。背中には、神話の建造物か…捻れた御伽噺の産物か、三角屋根の建物のような器官が中心のコアを光らせて重々とした雰囲気を醸し出していた。言わば“鶏脚の上に建つ楼閣”。まさしくその体躯は______、
「魔老の小屋…!!!」
ウルさんが呟く。それと同時に、怪物が咆哮する。耳をつんざく悲鳴のような、憎悪と悲哀に満ちた声。
もはや人間から逸脱したソレは、私たちの方を睨んで周囲の建物を破壊しながら走り寄ってきた。
逃げるしかなかった。あまりにも、大きすぎる。
「なんなんですかアレ…なんなんですか!!!アレ!!!!!」
「知るわけねぇだろうが!!!何が、どうなって………!!!」『意識が…消えた…?』
つっつく。光弾を辺りに放つ。目的もなく暴れ回る様、意識があった頃の面影は皆無に等しくなっていた。
『…来る!来ます!!!』
狭い路地、十字に光る怪物の口元。終わった………そう、命を諦めかけた。
「あぁもうしょうがないッ!!!緊急事態です、ハヤテさん!!!ペンダント借りますよッ!!!!!」
「ペンダントぉっ!?えっ…わぁっ!!!」
急にキリンさんに首のペンダントを掴まれる。息が一瞬苦しくなるも、なんとか体勢を立て直す。
「何を…」「何があっても、今は質問しないでください!!!!!」
ペンダントを、強く握られた。その瞬間、私の内側から金色の光が迸る___
「星盾っ!!!!!」
輝きが収束する。一瞬のうちに、あの日見た星の盾が形創られた。
(私?なんで、あの力はキリンさんのじゃ_________)
なんて疑問はすぐに轟音で掻き消された。放たれた光線を、盾は悠々と分散していく。まるで最初からなかったかのように、辺りに静けさが戻った。考えてる暇はなかった。
「…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!」
泣きじゃくった顔で、相手の核を射抜く。
決着は、一瞬であった。
大規模な爆発、それすらも私たちの方には届きはしない。
扇形に、街の一部が護られた。
空は今ので雲が晴れ、恐怖さえ覚えるようなコバルトブルーの晴天が広がっている。
「……これが、ハヤテさんの…」
ウルさんがそう呟いたが、最早私には聞こえていなかった。
「人はぁ!!!ひと…はっ、います…かぁ!!!!」と泣きながら、爆破跡より素体となってしまった人を探す。
いない。いない。どこにもいない。人影はひとつもなく、ただ不気味なほど真っ白い肉片が飛び散っている。
皆、信じたい可能性をまだ排除したくない。無言で俯き、立っていた。
すると…
「いないよ。いないんだ、この場に人間ひとりっぽっち。」
知らない声。でも、聞き覚えのある声。前に、あの神徒から発された声。その声を聞き、私は振り向いた。
「二度目だね、チームブルードラゴン。楽しんで頂けたかな?“本気の蹂躙”は。」
金のラインが入った真っ黒なローブを身に纏い、顔は純白の不気味なお面で隠している。その上に飾られたわざとらしい鉄の後光、ただならない雰囲気。この人が“教祖”だ。そう誰もが確信した。
「…ドグマ、なんですか……?」「うん!いかにも、ボクがドグマだ。宜しくね?」
そう淡々と返し、亡骸からひときわ真っ白な…殻?なのだろうか、山吹色の液体が滴った丸いものを抉り出す。
「…嘘です。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!何処かに、人は、」「居ないよ。」
「キミが、殺したんだよ?」
手にべっとりの赤い血を幻視した。脳にべっとりのあの悲鳴を幻聴した。絶望に染まり、立ってすら居られなくなった。すかさず、ゼロが身体を支える。吐き気とめまいが、ぐるぐるしていた。
「あははっ!!まっさか、そこまで弱いとはねぇ!!!」
「貴様…ふざけやがって……!!!」
ウルさんが一歩足を踏み締めた直後。天から、一対の流星がドグマを穿つ。
青龍さんと、ジンさんだ。
ぶつかった衝撃で、辺りの瓦礫が垂直に飛び上がった。
「…おや、なんだい。」
2人のミズチと紫刀を、地面から生やした触手で受け止めている。だがダメージは大きいようで、どちらの傷跡も深く刻み込まれていた。
刀を支点とし、宙に止まっていた2人が地に足を付ける。
「まさか、キミたち。こんな一つの命に怒ってるってのかい?ははっ、まず戦ってすら」
「黙れ。」
「…ん?んん?」
「ソイツは知ったこっちゃねぇ。」「ってか知らねぇ。街もまた直せばいい。」「……けど、俺は…」「…コイツはさ。」
「「死なせたくないモノを殺して…楽しむ奴は、許せない。」」
物凄い気迫。普段の動画を見てきても、“誰かの為にここまで怒る”彼等は居なかったハズだ。
それがどうして?
「…くくっ、お前、馬鹿か?直接殺したのはあの娘」「殺したくなかったろうが…見りゃぁ分かんだよ。お前さ、死ぬ覚悟は出来てる?」「ちっぽけも?」「じゃあそうか…」「「死ねぇぇぇぇッ!!!!!!」」
ああ、遊びだったんだ。本当に。
“人の死”という現実を前に、私の日常は終わりを迎えた。
彼らの怒りが、そんな気持ちを加速させる。
強く踏み出し、2人同時に土煙を上げながらドグマに突進する。
勿論ドグマは触手で応戦、だがしかし青龍さんも地面から水で出来た触手を出して妨害、自らの水ごとミズチで斬って威力を増大させ、掌に浅い傷を負わせる!その一瞬に気を取られた隙に青龍のやや左側からジンさんが紫刀を顔面に斬りつけるも、もう片手で防がれて形勢を立て直す……
「……」
絶句する事しか出来なかった。一瞬のうちに、物凄い攻防が繰り広げられている。
怒りが、伝わってくる。恐ろしい怒りが。哀しみが。
斬りつけ、生やし、死角を、躱す。回って、撹乱、全方位、上から。また躱し、刃と触手を交えていく。
辺りには水や瓦礫だけでなく雷も飛び散り、正しく“青天の霹靂”と言ったような情景が展開されていた。
早い、とにかく速いのだ。2人とドグマを目で追っているうちに、筋肉が疲れてしまうほど。
2分が経ったろうか…ドグマの掌以外、三者に傷は一つもない。
「…無駄だね。」「あぁ、怒りで本気を出せてねぇ。」「…疲れる。」
三者武器を収め、睨み合ったのちに両陣営踵を返す……
ワケがなかった。最後の悪あがきとばかりに、背中から細い触手を素早く伸ばす。
いつの間にか、青龍さんの手には再びミズチが。死角からの攻撃にも、ノールックで対応していたのだ。
「…良いのか、青龍。」「…いずれは、殺す。」「…そう。」
呆気に取られて去ってく三者を見て、疲れたのか…ほんの少しさっきの感情がぶり返したのか、またふらりと倒れそうになった。ゼロが無理矢理起こし、ウルさんがソレを支える。
「………立てますか?」
「…はい。」
瓦礫のなか、私たちはただ立ちすくんでいた。それしか、今の現状を受け止める方法が無かったのだ。
店の前。リフェリアが、崩れるように膝をつく。
「…道具と言ったのは、自分…その扱いな自覚も、あったんですよ………」
「…けど、こんなのって…私も?…まさか、私も!?………そう考えるだけで、こう…何故、こうも何故……涙が、止まらないんでしょうか……………守、守れ……なかった……ぁァッ……!!!」
ただ、少女は泣いていた。いずれ来る恐怖と、目の前の人間の死に。
同時刻、ある人影が暗い部屋の中でライブ中継を観ていた。配信主は、TEAM BLUE DRAGON 。
高校生くらいの身長だろうか、紫一色の髪と黒いパーカー。遠い目の前で起こった出来事に、唇をただただ噛み締めていた_______________。