第十三話Part4⑥
無尽蔵に下りてくる天使もどき達を相手に、地上では残されたブライド達が闘っていた。
神造天使達の数はあまりにも多すぎる。精霊の助けがあろうと、わずか十二人で相手取れるわけがない―――という天使達の予想を覆し、ブライド達は疲れも見せずに神造天使を次々破壊していっているのだ。
最初のペルドッサの指示通り、ブライド達は二人一組のペアを基本とし、あるペアは堅実に一体ずつ、またあるペアは踊るように激しく動き、そしてまたあるペアは好き勝手に暴れて殲滅していた。スピルナスの観察と検証で、神造天使は単純にブライドの生命反応を探知して襲い掛かっているだけと結論が出た。ブライド達の動きを学習する能力はないと判り、心置きなく破壊を続けていた。
そしてその中の一組、タンザニオとアメイジアこと小波と紫織のペアもまた、それぞれに拳と金棒を振るって次々に神造天使を破壊していた。
「一体一体はザコなんだけど、何なのこの数!」
タンザニオの強烈な拳を受け、群がる神造天使が次々に砕けていく。彼女の肉体は浄化前から遥かに強化され、音速の拳を繰り出しても腕が砕けることなく闘っていた。むしろそれだけ強烈な技に十分耐えられる、ブライドでも有数の頑強さを持っている。
「き、キリが無い、です…」
「安請け合いするんじゃなかったよチクショー!」
アメイジアも大ぶりの金棒を軽々と振るい、神造天使達を上下真っ二つにしていく。金棒を振る速度の凄まじさから、破壊でも粉砕でもなく、神造天使達は鋭利な断面を見せながら切断されているのである。もはや刀を振り回しているに等しい。
しかし二人が言う通り、神造天使は途切れることなく天上の『通用口』から降りて来る。その数は既に千を超えているのでは…と二人は疑っていた。実際に数えたわけではなかったが、積み上がっていく神造天使達の残骸は少しずつ高さを増し、小さな子供が転んだら埋もれてしまうほどになっていた。超人とはいえわずか十二人の少女たちが破壊した数とは思えないほどだ。
「んっでもまァ、アキラ達が頑張ってるんだし。ウチらもがんばろうよ!」
「はっ、はハイ!」
文句を言いつつも、二人は要所要所で気合を入れ直し、拳と金棒を振るい続けた。
それを見ながら苦々しい表情をしているのは、天使の長女ダシルヴァである。自身が設計と開発を手掛けた『通用口』へはあまりに無茶な手段で侵入され、神造天使たちはその手段として文字通り足蹴にされ、さらに今はブライド達に次々と破壊されている。そもそも神造天使に戦闘能力を持たせなかったのは、彼女たちの主こと神、ディセイヴィアが地上の平和を優先したからであった。それが今、全て裏目に出ていた。
「どいつもこいつも脳みそが筋肉でできてるような真似を…くそ、この私の発明を愚弄しやがって…」
せめて『ピュリファイア・スパークル』を受ける前であれば、と彼女は悔いた。膂力や頑丈さまでがただの人類と同程度になったため、戦闘の中に飛び込むわけにもいかず、物陰に隠れてブライド達の闘いを見ていることしかできなかった。ディセイヴィアから遣わされるかもしれない迎えも、この状況では期待できない。そんな彼女の周囲に並ぶ妹達は、達観した顔の次女ゴルディエ、無力感の漂う三女アグレア、そしていつになく真剣な眼差しで闘いを見つめるロゼルが並んでいた。ちなみに戦闘開始前にアキラにインタビューしていたテレビ局のスタッフは、闘いが始まった途端に悲鳴を上げて逃げ出した。
ゴルディエがダシルヴァの肩に手を置いた。
「お姉ェ、いい加減諦めろよ」
「諦めろだと!? お前らのように任務も何も放り出してか!」
「―――そうだよ、ダシルヴァ姉様」
力なく壁にもたれかかり、アグレアが長女の怒りの声にこたえた。
「何回も言っただろう。私達にできることは最初から無かった。この闘いを見届けるくらいしかできないんだ、今はもう」
「腑抜けどもめ…脳筋だとは思っていたが、こんな見下げ果てた連中とは思わなかったぞ」
「そういうお姉ェもよ、紅茶呑んでご満悦だったよな」
ゴルディエに指摘され、ダシルヴァはぐむっと口をつぐんだ。確かに、天使の肉体では味わえない上質な甘みには魅了された。だがそれがディセイヴィアから離反する理由にはならない。彼女の忠誠心は、妹達には意外だったがしっかりとディセイヴィアに向けられているのである。
「…戻ってから再現すればいいだけだ」
「戻る、ね。…こっちは戻る気無さそうだな」
半ば呆れながらゴルディエが見ていたのは、一秒たりとも闘いを見逃すまいとしていたロゼルだった。変わる時が来た…と最初に行ったのは彼女だ。恐らく、その『変わる時』を見逃すまいとしているのだろう。それを受け入れられぬダシルヴァに殴られはしたが、確執というほどには関係は悪化していないようだった。というより、ダシルヴァが一方的に怒りを向けているだけであった。
「…変わる時か。管理の仕方が変わるのか。それとも」
アグレアが独りごちた。ロゼルの視線の先では、先ほどから続いてブライド達が神造天使を破壊し続けている―――が。その上空に、一つの気配が生まれた。一瞬、ブライド達の動きが止まる。否、神造天使達すらも動きを止めていた。
「何か来る」
誰がつぶやいたか。その小さな声をかき消すかのように、戦場の上空から一つの影が落下し、地面を粉砕しながら着地した。白い詰襟の服。頭にはめ込まれた黄金の輪。背中には翼の形をした光。青みがかった灰色の『オーラクリスタル』、そして同じ色の髪…特徴は天使四姉妹のそれと合致していた。だが、その体格は姉妹たちの一回りも二回りも大きい。全身が筋肉の塊のような巨躯であった。地上に立てるということは、すなわち受肉したということだ…通用口を通るだけでできたのだから、ダシルヴァの説明はこの天使によって証明されたことになる。
巨躯の天使が顔を上げると、髪と似た色の唇が開いた。
「ふんン…こいつらか、わが主に逆らうのは」
低い男性の声だ。ここに来て初めて、男性の天使が現れた。彼は周囲を見回し、ダシルヴァ達四姉妹を見つけて歩み寄った。止めようとしたブライド達は神造天使の群れに阻まれる。天使の全身からは強烈な殺気が放たれているが、それに気づかずにダシルヴァが立ち上がり、彼を迎えた。
「誰か知らんが、天使、だな。迎えに来てくれたのか」
だが、巨躯の天使は彼女に答えようとしなかった。侮蔑の目でダシルヴァを見下ろし、鼻で笑う。
「わ、私はダシルヴァ。今でこそ人間の肉体になっているが、もともとは我が主ディセイヴィアに使える天使だ。お前と同じ…」
「はっン」
巨躯の天使の回答は、どこまでも冷酷だった。
「わが主ディセイヴィア、見つけましたァ…これより裏切者を処分いたしますゥ」
ディセイヴィアには届かぬであろう宣告と共に、巨躯の天使が拳を振り上げた。ダシルヴァはそれを呆然と見上げている。背後から妹達が呼ぶ声が聞こえた気はしたが、天使の言葉に受けた衝撃で、彼女は目の前の現実を受け入れられずにいたのだ。
(裏切り? …処分? わが主が、私を…)
「わざわざブライドどもに情報を売り渡しおって…この世界から失せろ。下衆めらが」
天使が拳を振り下ろす。あ、死ぬ…と、ただ起こる事実だけをダシルヴァの脳は認識した。ショックで呆然とした彼女の頭では、もはやまともな思考もできなかった。駆け寄る妹達の叫び声が、遠くに聞こえ―――
そして四姉妹の体は急激に横に押された。彼女たちがいた地点で爆音が轟き、深さ数メートルの大穴が開いていた。姉妹を抱えて恐るべき破壊力から救い出したのは、ブライドのうち二人、タンザニオとアメイジアだった。
「あっぶなァ! 天使のお姉さん達、だいじょぶ!?」
「…………」
タンザニオは抱え込んだダシルヴァとゴルディエに問うが、二人とも何が起こったか理解できずに呆然としていた。特にダシルヴァの方は目が虚ろだ。これでは逃げろと言っても逃げることはできまいと、タンザニオはゴルディエ達にダシルヴァを預けた。
「こいつらの相手はウチらでする。お姉さん達は逃げて」
「…ちょ、ちょ待てお前ら。こいつ、絶対やべぇぞ」
我に帰ったゴルディエが忠告するが、それも聞いても躊躇せずにタンザニオとアメイジアが天使の前に立ちはだかった。幸い、神造天使は他のブライドの相手にかまけていた。邪魔をされることはなさそうだった。二人は天使達に避難を促す。
「だ、だ、だいじょぶ、です。私と、師匠なら」
「そゆこと。さ、早く」
「…ご武運を」
「死ぬなよ」
ロゼルとアグレアの声援を受け、四姉妹が避難したのを確認すると、タンザニオとアメイジアが巨躯の天使と向き合う。天使の実力は既にほかのブライドから聞いていた…幸か不幸か、家族の避難を優先させて二人は四姉妹と闘う機会は無かった。だが、命を懸けてなお勝てるかどうかという強さであったとは聞いていた。緊張に二人の額から汗が流れ、他のブライドは不安げな視線で見守っていた。
「郡上さん、雁井さん!!」
ガルナが不安に耐えられず、友である二人を呼んだ。だがタンザニオは、サムズアップでそれに答えるだけだった。
「―――やったらぁ!」
「小虫がよくほざく。まあ良かろう、わが主の教えを叩き込むいい機会だ」
天使が両腕を構えると、金属音と共にガントレットが出現し、左右の手から肘近くまでを覆った。戦闘準備だ。
「わが名は『アンジェ・ゴズマリア』。己の薄汚い劣情を後悔し、懺悔しながら死ね」
「ヤだね。そもそもウチらにそんなキタナイ欲は無いし。ね、紫織さん!」
「うん、師匠と私。ベストフレンドだもん!」
「ぬかせぇっ!!」
ゴズマリアが両手を組み、二人の頭部に振り下ろした。タンザニオは左へ、アメイジアは右へ回避して一旦距離を取る。拳が瓦礫を粉々に吹き飛ばし、また一つ地面に大穴を穿った。タンザニオは十分に距離を取ると、一気に踏み込んで拳を突き出した。小さなビルなら一階丸ごと破壊するほどの威力を誇る、超音速の突進からの拳打だ。
「だぁっしゃァアア!!」
腹の底から叫び、タンザニオは拳を叩き込む。すぐに態勢を立て直し、ゴズマリアがそれを掌で受けた。衝撃波で周囲の瓦礫が吹き飛び、大地が震動する。少しは痛い顔でもさせられたかとタンザニオは期待したが―――ゴズマリアは微塵も揺るがず、笑みを浮かべてタンザニオの拳打を受け止めていた。両者は一見すると拮抗しているように見えるが、ゴズマリアは鼻でもほじらんばかりの余裕を持って、少しずつタンザニオの拳を押していた。
「こんにゃろっ…!!」
「ああ、惰弱惰弱…所詮友情とやらに生きるだけの、この世界に何の利益ももたらさぬ駄生物よな。強くあれるわけも―――」
ゴズマリアは一度言葉を切り、後ろを振り向きもせずに拳を上げた。その手の甲に、フルスイングで振られたアメイジアの金棒が直撃する。ガントレットと激突した金属音が甲高く響いた。
「無い!」
両目を見開き、ゴズマリアは左右の手を振るってタンザニオの拳とアメイジアの金棒を払った。ただ払っただけではない、恐るべき剛力で弾き飛ばされたことで、二人の姿勢は大きく崩れた。その隙を見逃さず、まずは後ろ蹴りでアメイジアを吹き飛ばした。
「ふんンン!!」
「どぉぉあっ!!」
直撃を受け、アメイジアは背中でアスファルトを抉りながら転がっていった。
「紫織さん!!」
「ハハッハハハァ、他人にかまっとる場合かァァ!!」
口が裂けんばかりの凶暴な哄笑とともに、ゴズマリアの拳がタンザニオの腹にめり込んだ。
「おぐぇっ…!」
「フンンンン!!」
重い一撃で浮き上がったタンザニオの後頭部に拳を振り下ろし、顔面から地面にたたきつける。バウンドする体を踏みつけ、体重をかけた。
「ぐぇぇぇぅ!」
「ハハハ、なぁにが友だ! 種族の存在意義を忘れ、遊びにうつつを抜かす盆暗どもめが! 有難く思うがいい、殺す前に矯正してやる!!」
ゴズマリアが踏みつけていた足をあげ、再び振り下ろされる直前、タンザニオは転がって脱出した。どこかの骨にヒビでも入ったか、胸か肩のあたりが痛む。だが天使はそれを見逃さない。すぐさま踏み込み、タンザニオの左肩に拳を振り下ろした。激痛と共に鎖骨と上腕骨が砕けた。
「ぐぁああああっ!!」
「良いか! 我が主ディセイヴィア様は、地上の平和を望んでおられるのだ!!」
立て続けに顔面を蹴り上げられ、吹き飛んだタンザニオは倒壊した建物に激突した。無事に残った右腕で瓦礫を押しのけ、どうにか体を起こして脱出する。
(何言ってんだこいつ…矯正ってなに!?)
「地上は雄と雌のつがいで命に満ち溢れ、文明を繁栄させ、未来へと命を残し、歴史を重ね知恵と経験によって争いをなくすゥ、すなわち平和だ! しかるにィッ!!」
飛び掛かってきたゴズマリアが左右の足をタンザニオに叩きつけようとする。その瞬間、両者の間に一つの影が現れた。金棒を構えたアメイジアだった。アメイジアは天使のドロップキックを金棒で受け止めた。だがその瞬間、金棒は砕け散った。ゴズマリアの剛力は、金棒の耐久力を容易く上回ったのだ。
「ししょ…ぁがああっ!!」
二人そろってドロップキックを受け、瓦礫の山を吹き飛ばして地面に叩きつけられた。その真上から落下してきたゴズマリアが、重なって倒れた二人を串刺しにするように拳を突き下ろす。重々しい衝撃が二人の体を突き抜け、地面を粉々に破壊した。
「しかるにッ!! 貴様らブライドはその使命を放棄し!! 享楽にふけり種族の未来を閉ざす!! まさに存在自体が害悪ァァ!!」
アメイジアを蹴飛ばし、ゴズマリアはタンザニオの右手を踏みつけた。足の下で少女の腕が砕け、つぶれる。
「ぎぁああああっ!!」
「師匠ぉ!」
「雌同士の劣情などと、命ひとつ生み出せぬくせに、あああ汚い! 汚い汚い汚い! 穢らわしい!!」
激痛に悲鳴を上げながら、タンザニオはゴズマリアの発言で彼の本質を見抜いた。狂信者にして、狂信的宣教者である。自分が狂信する教え、すなわち神が唱える『平和』を妄信し、他者の全てを否定し、そして矯正と称して力でねじ伏せる。その末にブライドを殺すつもりなのだ。
「まして友情など無益! 無駄! 無駄なのだ貴様らは!!」
重々しい足が、今度はタンザニオの左脚を踏みつぶした。
「おあぁあああ!!」
「師匠から離れろォッ!!」
胴体を踏みつけようとしたゴズマリアの背中にアメイジアが飛びつき、首に手をまわした。気管や頸動脈を直接締め付けるチョークスリーパーで、常人なら首が千切れるほどの腕力を込めて締め上げる。だがゴズマリアの首の筋肉がアメイジアの腕を押し返し、数秒で腕をほどいてしまった。ゴズマリアはアメイジアの髪を掴み、持ち上げて顔面から地面に叩きつけた。顔面が地面を砕き、すさまじい衝撃で脳震盪を起こす。額が割れ、大量に血が流れた。
「ぐぶぅっ!」
「紫織、さん……!」
「…特に貴様だよ、青い方」
肩を砕かれ、片手片足を潰されてなお、タンザニオは起き上がろうとした。ゴズマリアはその隣で倒れたアメイジアを蹴飛ばすと、タンザニオの胴体を踏みつけた。骨が砕けるほどの力は籠められず、しかし体を動かすだけでは押しのけられない絶妙な力加減だ。
「う…ウチが、どうしたって…?」
「その目だ。サフィール達が我が主の許に土足で踏み入ったのを見たがな。そいつらのことをどこまでも信じている目だ」
どうやらアキラ達は無事に神の世界に乗り込めたようだ。だが、だとしたらゴズマリアは何故ここにいるのか。不意に浮かんだ疑問は、彼の凶暴な…否、サディスティックな笑みと振り上げたこぶしですぐに解消した。
「その目が潰えれば―――サフィール達も辛かろうなあ!!」
ゴズマリアはタンザニオに馬乗りになり、顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐぶぉっ…!」
「あ奴らは我が主の手で消され、貴様たちはただの肉塊となって死ぬ!」
拳は再び振り下ろされた。何度も、何度も何度もタンザニオの顔面に叩きつけられた。仲間達がタンザニオを救おうとするが、襲い掛かる無数の天使もどきに阻まれた。
「わが主の理想を穢す汚物どもが! 罰だ! 罰だ! 罰だ罰だ罰だ!!」
口から唾を吐き散らし、狂信者特有の虚ろな目を見開いて、ゴズマリアは叫び、タンザニオを殴り続けた。殴られながら、彼の目的がブライド全員を殺し、サフィールらを絶望させるたことだ理解した。しかもそれを嬉々として行っている。今は親友として彼らを信ずるタンザニオを標的にしているだけで、彼女を殺せば他のブライドも狙うことだろう。
そして身を隠していた四姉妹の長女ダシルヴァは、その光景を見て唇を震わせていた。顔色は蒼白を通り越し、最早蝋のような無機質な白に染まっていた。
同僚であるはずのゴズマリアの姿が、あまりにもおぞましかったのだ。地上に平和をもたらすべく、かつて天使四姉妹もブライド達を殺そうとした。決して容赦はしなかった。ブライド達の体を砕き、呵責なく命を奪おうとした…だが、目の前で繰り広げられる行為は、それとは全く異なる暴力であった。
果たしてダシルヴァの胸に去来したのは、恐怖ではなく―――それは両親に裏切られた時のアキラと同じ、喪失感だった。
「……なあ、妹達」
「どした、お姉ェ?」
ゴルディエが心配そうに姉の顔を覗き込む。ダシルヴァはその視線に気づかず、ゴズマリアが拳を振るい続ける光景を見ていた。
「私達も、あんなことを、していたのか。あんなおぞましいことを」
「……お姉ェ」
「ブライド達の事はどうでもいい。でも、あいつは…あの男は…あいつは、私達とは違う。違うよな、違うって言ってくれよ」
ダシルヴァは妹達の方を振り向いた。その時、数日ぶりにロゼルと目が合った。それを気にする余裕すらも無い程に、ダシルヴァの胸の内は空虚さ、そして大切なものを傷つけられた屈辱で満たされていた。
「あんなの…あんなのは、違う…!」
ダシルヴァは立ち上がり、地面に転がる石を手に取って、妹達の制止も聞かずに駆け出した。その目からは涙が流れていた。
「―――何のために我々はここに来たのだ。地上の平和のために、降りてきたはずなのに…!」
そして彼女は、ゴズマリアに向けて石を投げつけた。天使の身体能力を失い、その威力は普通の成人女性による投石と全く変わらない。すなわち天使であるゴズマリアには全く効果が無かった。だが、彼の拳を止めるには充分であった。
―――〔続く〕―――




