第十三話Part4①
変身ヒロイン百合アクション、第十三話パート4。
何日かに分けて投稿します。
早朝の日差しがカーテンの隙間から差してくる。ベッドの上で緋李はその眩しさに目覚め、数度まばたきをしてから目を開けた 頭だけ起こして枕元の目覚まし時計を見ると、午前六時前。既に七月も中旬に入っており、室内は冷房こそ効いているが、窓に近づけば鼻先に暑い空気が触れる時期だ。再び枕に頭を置き、緋李は隣に眠る人物を見た。
隣には、アキラが安らかに眠っていた。
葵家から出た後、二人は一度アキラの祖母の家に立ち寄った。一度アキラを落ち着かせ、その後はブライド達に事の顛末を説明し、しばらく緋李のアパートで二人で暮らすことになった。祖母らのアパートにも空き部屋はあったが、自室に住まわせることは緋李のたっての希望であり、仲間達や祖母も二人暮らしを大いに勧めた。新婚バンザイ、人類の尊厳ここに極まれり、と何人かが口走った。
一方で天使四姉妹の長女ダシルヴァも運び込まれたが、二人分の『ピュリファイア・スパークル』を撃ち込まれたためか、その日は目覚めなかった。また一人芽衣の紅茶か祖母の玄米茶に心打たれるのだろうと、その場の全員が予想した。
ちなみにアキラが再び連れ去られたと聞いて、小波を筆頭とした過激派ブライドがホームセンターで工具を携え武装蜂起しようとしたが、晴が無事全員説得して事なきを得たとのことで緋李は一安心した。しかしいくら晴でも本当に全員を説得できたのかと疑って確認しようとしたところ、横からアキラの祖母が『あれほど美しいジャーマンは見たことが無い』などと言ったので真偽を問いただすも、結局晴は答えなかった。本当に全員を説き伏せたのか、それとも全員を投げたのか、真相は闇の中である。
ともあれ、二人暮らしを始めて一週間ほどが経過した。スマートフォンの着信設定はとうに変え、アキラの両親の連絡先も削除し、メールやSNSメッセージも一切ブロック。警戒はしていたものの両親とは全く遭遇せず、二人は平和に暮らしていた。アキラは毎日一緒のベッドに眠ることをせがみ、緋李も快く了承していた。たまに夜更かしして二人で動画サイトを見たり、レシピ動画を見ながら料理をしてみたりと、まさに新婚生活の様相を呈していた。いずれ母に会ってほしいと緋李が言うと、アキラは快く承諾した。
先ほど緋李が見た枕元の目覚まし時計は、脱出の時にアキラが持ち込んだものだ。緋李はどちらかと言えば犬より猫の方が好きだが、犬が嫌いというわけではない。この目覚まし時計も、アキラが選んだことを抜きにしても可愛らしいデザインだと思っている。
緋李はアキラの寝顔を眺めた。後のことは一切弟に任せ、両親とのつながりは断ち、二人で暮らす幸福な日々の中で、アキラは以前の活力を完全に取り戻していた。
「ん…むゃ…」
アキラの瞼が動き、小さな声が漏れた。目が覚める頃だろうか。ゆっくり目を開けたアキラの視線が、緋李を真正面から見つめる。目元をこすり、数秒間緋李を見つめ、やがてはっきりとアキラは目覚めた。
「アキラ。おはよう」
緋李の目覚めのあいさつを聞くと、アキラの顔がふんにゃりと緩んだ。緋李がこんな気の抜けた顔を見られるのは、正に恋人としての特権であった。
「おはよお…」
アキラは挨拶を返すと、緋李に抱き着いた。
「緋李ちゃんがいるぅ……んへへ」
「ちゃんといるわ。アキラのそばにいる」
緋李もアキラの体を抱きしめた。頬と頬が触れ合い、胸から胸へと心臓の鼓動が伝わる。このように抱き合って幸福感に浸るのもまた、朝の恒例行事と化していた。
机の上で目覚めたプルとパミリオが、あきれ半分にそれを眺めるのも恒例だった。
「ボクたちもいるんだけど…」
「シアワセそーだからほっとこうゼ!」
ジュエル・デュエル・ブライド:
第十三話「Paradise in flames」
Part4:”We bring you the stars”
小波と紫織がそれと最初に遭遇したのは、ダシルヴァのクリスタルを浄化した日の夜だった。アキラの祖母のアパートにあつまり、アキラ奪還の報告を聞き、帰路についていた頃。小波の自宅のマンション付近で、金属的な足音を立てて歩く姿を発見し、二人はその音の素を探してみた。そこにいたのは、全身が銀色に輝く、人間の形をしたロボットだった。二足歩行がうまくできず、体を前後に揺らしながら、ぜんまい仕掛けの玩具のように歩く姿が不気味だった。
小波と紫織は銀のそれを尾行し、そして見たのである―――ロボットが、夜道を歩く女性を襲うのを。
二人はすぐさま変身し、女性を助けて戦闘に入った。紫織が変身したアメイジアが金棒の一撃で胴体を両断、機能停止したところをタンザニオこと小波の鉄拳で叩き潰して粉砕し、事なきを得たのであった。ウミミとパップの分析によれば、全身を構成する物質こそ地球上に現存しないが、ロボット自体は完全なる機械であり、破壊しても何ら問題ないということだった。
そのロボットの背中には翼の形をした光が明滅し、頭部には黄金のリングが嵌まっていた。仲間達から聞いた天使の特徴と合致している。だが天使たちは、『受肉』によって人間と同質の肉体を持って地上で活動する筈であった。合致する特徴を持ちながら姿が異なるそれは、まるで天使を真似た人形のようでもあった。
しかし二人が特に怪しんだのは、もっと別の事だった。
「気味が悪いのはさ、その人はブライドでも何でもない、フツーの人だったんよ」
小波はそう説明した。まさにその通り、襲われた女性はなんら特別なことが無い、ただの一般市民だったのだ。天使もどきが一般市民を襲う理由に思案をめぐらせる一方、これは一度きりのことではないのかも知れない…と、アキラは危惧した。その不安は的中したのである。
小波達が天使もどきと遭遇してから一週間後の朝。あるアパートの一室、二人の女性がニュース番組を見ていた。連日の災害の中、中心市街地からやや離れたそのアパートは、隕石による被害を免れていた。否、既に隕石以外の要因であることは、現地の住民たちには周知の事であった。現場に隕石を採取しに来た、採取していったというニュースも無く、真偽不明の証言は『妙な服を着た少女がいた』でおおむね一致している。メディアが訴える隕石災害など、もはや誰も信じていなかった。
そんな中、ある一つの映像が放送局に届いたと前置きされ、テレビの画面に映った。ネットニュースで公開されてから一週間ほど後のことだ。住人の女性二人はまさにこの映像を見ている最中だった。
振り向くと、部屋に突然天使もどきがいたのである。
「……!!」
人の顔型を彫り込んだだけの無機質な顔面、おぼつかない足取り。未知の金属で作られた体は痙攣し、眼の無い顔は虚空を見上げて左右に揺れている。その顔がガクリとうつむき、二人の方に向けられた。存在しない眼球が二人の女性を見ている…明らかに人工の体を持ちながら、天使もどきは機械とも生物ともつかないグロテスクな姿で二人に迫る。突然のことに状況が理解できず、二人は逃げることも忘れて呆然と天使もどきを見上げた。痙攣する鉄の手が持ち上がり、指先に電光を走らせてもなお、二人は呆然としていた。その手が振り下ろされようとした、その瞬間。
何かがベランダの窓ガラスを割って部屋に飛び込み、背後から天使もどきの首に巻き付いた。金属の光沢を放つそれが鎖だと、住人の二人はすぐに気が付いた。天使もどきは鎖で引き寄せられ、窓を割りながら屋外に飛び出し、虚空に浮かぶ。
「紅林!」
「はいッ!」
誰かの苗字を呼んだのは、ベランダの手すりに足を掛けていた菫色の髪の少女だった。住人の二人はその装束に見覚えがあった。今しがたテレビで見たばかりだ。そして名を呼ばれたらしいもう一人…ワインレッドの髪の少女が上階の壁を蹴り、空中に飛び出して天使もどきの胸板を蹴った。蹴り足は金属の胸を貫通、天使もどきは一撃のもとに空中で爆発四散した。ワインレッドの少女は菫色少女の鎖を掴み、引き寄せられて二人でベランダの手すりにしがみつく。二人は天使もどきが沈黙したのを確認すると、手すりを乗り越えてベランダにおり、一礼して女性二人の部屋に上がりこんだ。プリマ・スピルナスとプリマ・ガルナ、藤井 菫と紅林 楓だ。
市内に出現する天使もどきを撃破するため、ブライド達はこの一週間、二人一組の当番制で外を見回っている。この日の当番は菫と楓。ジュエルの発熱と精霊の探知能力を頼りに、このアパートへと駆けつけたのである。
「失礼します。お二人ともご無事でしたか」
「は、はい…」
「窓を割ってしまったわね…ごめんなさい、修理代はあとで支払うわ」
「あっいえ、気にしないでください、やむを得なかった…んですよね?」
スピルナスとガルナはが見知らぬ相手、かつ髪や瞳の色から年齢を察することができないからか、住人女性二人の口調は丁寧語であった。床に飛び散ったガラス片を掃除し、二人の女性の無事を確認して帰ろうとした所、背後から呼び止められた。
「あの、もしかして」
「関係者の方ですか…?」
「関係者? 何のよ」
訊き返したスピルナス、そしてガルナの視線の先のテレビに映像が映った。朝のニュース番組だ。駅の隣のショッピングセンターの防犯カメラの映像で、紳士服店のフロアにうずくまる子供たち…そしてガラスの向こうの駅コンコースには、青いポニーテールと銀色の髪が揺れている。ポニーテール少女は二人とよく似た装束、銀髪の長身の女性は詰襟の服を着ていた。コンコースと紳士服店の間のガラスが砕けると、ポニーテールが子供たちの方を向いた。
(―――葵!?)
つい先日の、プリマ・サフィール・Mとアンジェ・ダシルヴァの戦闘が撮影されていた。子供たちが逃げ出し、サフィールMが紳士服店の壁に叩きつけられた。そこからダシルヴァがサフィールMの背に乗り、妨害する赤い光、すなわちルビアM…緋李が登場。サフィールMとルビアMが見つめ合った所でナレーションが入り、映像が切れてスタジオのキャスターの映像に切り替わった。
「…服とか、似てますし。そうですよね」
「……ええ」
隠しても仕方あるまいと、ガルナもスピルナスも諦めて肯定した。
とうとう『デュエルブライド』の存在が公に知られてしまったのだ。しかもある程度顔が判る映像で、全国ネットのニュース番組で報道された。挙句、サフィールMとルビアMの情報を集めているとまでキャスターが発言した。放っておいてやれないのかと、ガルナとスピルナスは番組のアナウンサーらに対して嫌悪感を抱いた。目の前の女性二人もそれを問うのかと思ったが、女性達の言葉は予想と全く異なるものだった。
「何もできませんけど、応援してるって、伝えてくれませんか」
「応援、ですか?」
「はい…今の映像の、見つめ合ってる二人…」
二人の女性が視線を交わしながら手をつなぐ。そういうことか、とガルナとスピルナスは理解した。
「とても、素敵だと思いましたから」
「…そうね、伝えておくわ。ありがとう」
「では、私達は失礼しますね」
住人女性二人に礼を言うと、ガルナとスピルナスは再びベランダから跳び、付近のビル屋上に降り立った。そのまま他のビルへと跳び移りつつ、アキラの祖母のアパートへと向かう。
「どーいう意図での応援かは判らないけど、マスコミみたいなゲスどもばかりじゃないのは心強いわ」
「嬉しい話です…ところで藤井さん。あの天使もどき、無作為に人を襲ってると思いますか?」
ガルナのみならず、ブライド全員が気にしていることだった。天使もどきが出現する地点には、市内であること以外に全く共通点が無い。対策を練るブライド達が頭を悩ませていたのはそこで、どこに出るか判らない天使もどきを逐一探して撃破する…という手間に苦しめられている。
「あんまり。さっきの二人の関係からするに、恐らく…」
そこで『どんな人の所に現れるのか』と、アキラが発想の転換を唱えた。出現地点の特定にこそつながらないものの、相手の狙いは見える可能性がある。そして今回狙われた女性達の関係から、二人はある程度相手の狙いを絞る仮説を立てていた。
「ええ。あの天使もどき、ブライドになり得た人たちだけを狙ってますね」
「そーよ、よりによって私達が見過ごせない人たち」
最初に小波と紫織が発見して以降、ブライド達が対処したことで死傷者は一切出ていない。というのも、どの出現地点もアパートにほど近い場所だったからだ。むしろわざと間に合うように出現させているのではないか、とも彼女たちは疑っれていた。加えて女性を愛する女性…すなわち、精霊が封印されなければブライドになったであろう女性達の危機を、アキラが見過ごせなかったのも一助となった。
ガルナとスピルナスはアパートの芽衣の部屋の前に到着、変身を解除し玄関の呼び鈴を押した。返事を受けてドアを開けると、すでにブライド全員と天使四姉妹が揃っている。リビング中央のテーブルをはさんでアキラがダシルヴァと向き合い、なにやら説明を受けていた。
「―――あれは『神造天使』、要するに神が作った天使型ロボットだ。あれもこの私が設計と開発を手掛け…」
「藤井様、紅林様。おかえりなさいまし。救助は間に合いまして?」
「パオ!」
出迎えた黒絵に答えたのはパオレだった。その元気な返答から、今回も襲われた女性達の救助が間に合ったことが黒絵にもわかった。ただ、返答を聞いた彼女も、そして救助に成功した菫と楓も、顔を曇らせていた。
「そう…一週間のうち一日に一体か二体。毎日連続で、今日も無事救助できましたのね」
「パオ?」
「ダメでしゅのん?」
好反応が見られず、パオレと黒絵の肩に乗ったクロノンが首をかしげる。そうなのよ、と言いつつ苛立った菫は靴を脱ぎ捨て、わざとらしく足音を立てて上がり込んだ。
「こっちの被害が全く無いのが却って怪しい、ということです」
「絶対わざとよ。私達を疲労させるか、出現させること自体に目的があるかのどっちかだわ」
「良いように踊らされているわけですクム?」
「と、考えて間違いないと思います。倒せたところでまた出るのなら、こちらにメリットが無さ過ぎますし、向こうにも同様です」
天使もどきは一日一体か二体というハイペースで地上に送り出され、ほぼ抵抗なく破壊され続けていた。にもかかわらず彼女たちの推理が正しければ、いわば消耗品…ブライド達に破壊されることが前提の、半ばゴミも同然の兵器である。それを送り出すことに何の意味があるのか。
そこまで話したところで菫は思い出し、スマートフォンを取り出して動画サイトのニュース映像を黒絵に見せた。
「大墨達は見た? 葵と堂本が映ってたこれ」
「ええ。ちょうどお二人が出動した後、残り全員ニュースサイトでそれを見てましたわ。あと上空から撮った映像も」
「葵さん達は何と言ってました?」
「…だれも何も。皆さま、青ざめていましたわ。次女以下の天使さん達も」
もし映像が解析され、アキラと緋李の顔や住所まで知れれば、マスメディアがゴキブリの如き足の速さで二人を追ってくることだろう。最終決戦直前に厄介なことをしてくれる、と全員が思っていた。仮に二人が追われないにしても、市街地での戦闘が増えてきた現在、誰かに見つかる可能性は高い。仮に最後の決戦を街中で行うとすれば、そこをメディアに狙われるかもしれない。その時こそ公衆の面前に姿をさらすことになる。邪魔になるなら叩きのめすか、と一部の過激派ブライドは考えているところであった。
ニュース映像の話は一旦終わり、すぐに天使もどきの話に戻った。全員の視線がアキラとダシルヴァに戻る。
「ちょうど今、長女様に天使もどきと『通用口』の事を聞いているところですわ」
―――〔続く〕―――




