第十三話Part3④
翌朝、アキラは朝の薄明りで目を覚ました。隣の布団はすでに片づけられており、緋李の姿は影も形も無かった。少しだけ寂しさを感じつつ、アキラは起き上がった。朝食の匂いが閉めたふすまの間からわずかに漂ってきた。未だ心は全快とは言えないが、それでもだいぶ頭の中がすっきりしていた。
枕元の時計を見ると、朝の十時近くだった。ふすまを開けてリビングに出たアキラを、祖母とステラと雪、そして晴と小波と芽衣が出迎えた。
「おはようアキちゃん。早速来てくれたわ」
「アキラ! 生きてた!」
「おぅっぷ」
全力で小波に抱き着かれ、布団の上に再び転倒するアキラ。その二人を晴と芽衣が呆れ気味にほほ笑んで見下ろしていた。
「みんなで心配してましたよ。しかも小波さんが殴り込む気満々で、紫織さんが押さえるのに苦労してました」
「あったり前じゃん。ウチの親友にひどい事した奴なんか、たとえ親だろーとぶん殴ってやるんだから」
「ホントにやったらもっとひどいことになってたよ…」
呆れつつ、アキラは小波をなだめた。
「雪さんに至っては、話しを聞いた途端に怒り出したんですよ」
「そ、それ、今言わなくてもいいでしょお!?」
「照れんなよユキ坊。いい子だいい子だ」
「もおー!」
怒りながら照れる雪の頭を、芽衣と小波が撫でる。そこで晴が自分のスマートフォンのLINUの画面をアキラに見せた。
「アキラ、緋李から伝言。アキラの服を買ってくるから待ってて、ですって」
「出かけたの? 一人で?」
「や、イヨっちと桃っち連れてった。服の事はあの二人に任せれば完璧つってさ」
ファッションセンスにおいてはブライドでもトップクラスの二人である。アキラの服のサイズは緋李と同じくらいのため、三人いれば服選びは完璧と言えた。アキラにしがみついていた小波も顔を上げ、伝言を伝える。
「リオっちもついてった。バイト先の花屋さん見に行くって」
「そっか。じゃ駅前?」
「うん。あの辺は特に被害とか無いから、大丈夫だと思うよ。ジュエルの警告も無かったし」
「うみゅぅ…」
小波は安全だというが、ウミミが神妙な顔をしているからか、その声音には若干の疑いがあった。
「いつ出てくるかわかんないから、早めに帰ってこいとは言ってあるけどさ」
「ならいいんだけど…」
本当に何も起こらなければよいのだが、とこの時は全員が思っていた―――起こらないとは誰も思っていなかったのである。
警戒しつつ、アキラは遅めの朝食を採り始めた。体力が欲しいため、白米を少し多めにして、おかずは卵焼きとウインナーソーセージ、切ったトマト。そして味噌汁。主に祖母が作った物だが、卵焼きは緋李が焼いたものだった。レンジで温め直したものだが、予想以上の美味にまた一つ心が満たされる。恋人の卵焼きという特別な料理であった。
アキラが幸福な朝食を噛みしめていると、そこで呼び鈴が鳴った。祖母が出て見ると、そこにいたのは長身の美女三人だった。髪はそれぞれ薄桃色、水色、金色。ブライドがクリスタルを浄化した結果、人類と同質の肉体になった天使の姉妹たちだった。ゴルディエが靴を脱いで何も言わずに上がり込み、続くアグレアとロゼルが祖母に断りを入れて部屋に上がった。
「…へェ。てめェがサフィールかよ」
小馬鹿にしたような視線で、ゴルディエが食事中のアキラを見下ろした。見覚えのない金髪の美女に突然絡まれ、アキラはキョトンとした顔でゴルディエを見上げる。
「死にそうなツラしてるっつってっから、どんな奴かと思ったら。ただのマヌケ面したクソガキじゃねェか」
「…ああ、あなたがゴルディエ?」
「だよ。そっちが妹のアグレア」
雪から聞いていたロゼルの姉二人だった。ゴルディエが不遜な態度であるのに対し、アグレアはどことなく気まずそうな雰囲気だった。特にステラ、雪と目を合わせた時がそうだ。そしてそのゴルディエも、晴がいると気づいた途端に怖気づいてしまった。
「あら。ゴルディエじゃない」
「てッ…めェ」
「アキラがメシ食ってんだから。睨み合いはよしておくれよ…」
小波のボヤキと祖母が持ってきた玄米茶の香りで、天使の次女と三女もリラックスした。どうやら何度か祖母の部屋には出入りしているらしく、すっかり顔見知りになってしまったらしい。
「おいババァ。おかわり」
さっさと玄米茶を飲み干してしまったゴルディエが、祖母に二杯目をせがんだ。祖母は何も言わず、むしろにこにこ笑いながら淹れて湯飲みをゴルディエに手渡した。
「なんだか嬉しいわねえ。天使さんがお茶を好きになってくれるなんて」
「初めて飲んだときは狂喜乱舞していましたね、ゴルディエ姉様。アグレア姉様に至っては滂沱の涙を」
「…別に、いいじゃねェかよ」
「やめろ恥ずかしい」
どうやら天使の三姉妹は祖母のお茶が気に入ったらしく、並んで座って玄米茶を飲む姿はほほえましさすら漂っていた。容易くねじ伏せられるであろう祖母に手を出さないのは、お茶にくわえて祖母自身が醸し出す穏やかな雰囲気にのまれ、手を出す意思がなえてしまうためもあるのだろう。いかにも乱暴者という雰囲気のゴルディエが、わざわざ靴を脱いで上がることからもそれが察せられた。そんなのどかな光景を見つつも、未だに三姉妹を信用していないらしい小波がゴルディエを訝りながら尋ねた。
「そいで、天使様は一体何しに遊びに来たのかね」
「遊びに来たんじゃねェよ。黙れクソガキ」
「ゴルディエ姉様、いちいちクソクソ言わないでくれ。喧嘩を安売りしては話が進まない」
「皆さま、ずいぶんのんびりしてらっしゃいますが。良いのですか」
今にも言い争いに発展しそうな二人の間に立ち、アグレアがゴルディエをなだめた。無表情な妹と暴力的な姉に挟まれて苦労しているようだ。その間にロゼルが全員を見回して問う。訊き返したのは小首をかしげたステラだった。
「どういうこと?」
「ダシルヴァ姉様が既にいらしています」
その一言でアキラ達の背筋に寒気が走った。ジュエルの発熱は無く、ロゼルに言われるまで全く思い至らなかったのである。芽衣と雪がベランダに出て周囲を見回すが、爆音もなければ煙も上がっていない。精霊達に探させてもその姿はまったく見えないようだ。
「芽衣様に雪様、わたくしどもには全くわかりませんですぞ」
「恐らく気配を消して地上に来たのだす…」
アキラは急いで朝食を食べ終え、歯磨きと洗顔を済ませてから祖母が用意してくれた服に着替え、ロゼルに尋ねた。
「どこにいるかわかる?」
「いえ。落下後の動向は我々にも全く感知できません」
「あたしを殺しに来たのならとっくにここに来てる。…緋李ちゃん達が気がかりだ。あたし、行ってくる」
「私達も行くわ」
アキラは玄関で靴を履くと、同行しようとする晴とステラを制した。
「晴さんとステラはここにいて。もし誰か怪我したら連れて来るかもしれない。その時の治癒のために」
「判ったわ。おばあ様も、悪いけれど布団の用意とかしていただけますか?」
「構いませんよ」
「それから念のため、他のメンバーも呼びます」
晴の機転と祖母の理解力が、アキラにはありがたかった。アキラは玄関を跳び出し、すぐさま変身する。
「エンゲージ、『プリマ・サフィール』!!」
一瞬だけ姿が消え、再び現れたのはサフィールMであった。どうやら『マリアージュ・リング』の前のサフィールの姿にはなれない、不可逆の強化であるようだ。サフィールMはそれだけ理解すると、すぐに階段を駆け上がり、屋上から駅の方へと飛び出した。以前のサフィールより遥かに速く、高く、遠く跳んでいく。晴達はベランダからそれを見送ると、床に座って引き続き玄米茶を飲む三姉妹に問う。
「アンタら、前も緋李っちゃんが訊いてたけど…何で教えてくれる気になったのさ?」
「変わるときが来たのだと、思いまして」
小波に疑いの目で見られながら、ロゼルが答えた…と、思いきや、その続きをアグレアが更に引き受けた。
「ということを、ゴルディエ姉様がな…どうしたことか」
「ゴルディエが? どういう風の吹き回しかしら」
ゴルディエがどのような人物か、対面してある程度知っている晴が続けて問う。ゴルディエは口元に持っていった湯飲みを下ろし、うつむきながら訥々と話し始めた。
「ちょっと、考えることがあってよ」
先日の戦闘からは想像もできないゴルディエの顔に、隣に座る妹たちもわずかに驚きの表情を見せた。ゴルディエはステラの顔を見ながら話を続ける。
「サフィールがどうして生まれたのか、ってことだ。聞けば精霊が一人だけ逃げのびたって?」
「うん…」
「ホントだったのか…オレ達の主から逃げられたのか…やっぱりな」
ゴルディエは空になった湯飲みを祖母に渡し、三杯目の玄米茶を飲み始めた。その隣でアグレアが、ゴルディエを疑わし気な視線で見ていた。
「姉様、何が言いたいのだ?」
「エメルディ、言ったよな。神様じゃどうにもできない奇跡って」
「ええ。あなたもそう思うの?」
「……ああ。もしかして、それだったのかなってよ。サフィールとルビアが出会って、何だかの気持ちが生んで、オレ達の主すらも巻き込んだ、巨大な運命っつうか」
要約すると、アキラと緋李の出会いと恋があらゆる運命を動かしたのではないか、というのがゴルディエの説であった。愕然としたのはアグレアだ。彼女の言葉はすなわち、この世界の全てを統治している神が、その世界にいる人類より格下だと言っているに等しいのだ。アグレアはゴルディエの胸倉を掴み、詰め寄った。
「彼女が強大な力を持ったのは必然だったと? 我らが主に刃向かう者の存在が!? そんなバカな!」
「そのバカなことが起こったんだ。この世界を治める神様さえ、どうにもできなかった」
ゴルディエの目は虚ろで、すべてを諦め、それでいてどこか達観していた。わずかに顔を引きつらせながら、しかしアグレアは姉の言葉が冗談や自棄ではないことを悟り、手を離した。横からロゼルがゴルディエの顔を見つめていた。
「本気ですか、ゴルディエ姉様?」
「ああ。…アグレア、ロゼル。オレ達なんかの手には負えねェんだよ、ハナっから。手を出したのが間違いだったんだ」
その場が沈黙に包まれた。ゴルディエが最後につぶやいた言葉が、神に向けた彼女の諦観を現わしていた。ステラには、それがかつて自身が抱いた神への疑念…神は人を愛してくれないという疑念を、天使たちもまた抱いたように見えた。
アキラが目覚める一時間ほど前。
駅前に買い物に来た緋李、伊予、桃、リオの四人は、アパレルショップで買いそろえた服を抱えて店から出ると、駅前広場や駅ビルを見渡した。四人が訪れた店は奇跡的に朝から開店していた。少しでも安全な時に商品を売ってしまおうという算段のようだ。朝の曇り空の下、まばらに人が歩くだけの静かな街…七月の高い気温に対し、あまりにも寒々しい光景に桃がつぶやく。
「隕石災害のニュースばっかりだもんね。そりゃあみんな家にこもるよね」
見渡す限り、殆どの店が臨時休業の貼り紙を店頭に貼って閉店していた。シャッター商店街もかくやというほどのうら寂しさだ。リオがアルバイトしていた駅前の花屋も同様で、四人が屋外からのぞき込むと、しおれかかっている花が見えた。リオがしょんぼりとうなだれる。
「てんちょサン…だいじょぶカシラ…」
「電話してないのか?」
「したけど、出てくれなかったのヨ。だから心配で」
「心配ならご自宅にうかがうしか無かタイねえ…」
町の寂しさに四人はため息を吐いた。他に立ち寄れる店も無く、緋李と伊予は二人の背中を押してアキラの祖母の家に向かおうとした。
「はやいとこばーちゃん家に行こうぜ。アキラが出かける服無いって言いだす前によ」
「そうね。いつ天使が出るか判らないし…」
緋李がそう言い終える直前。突如、服のポケットに入れているジュエルが発熱した。高い温度から天使が接近していることがわかった。緋李以外も同様だったらしく、四人は集まって周囲を見回す…だが目に映る景色には何の異常もなく、天使の制服である白い詰襟の姿も無い。
「おまえら気を付けロ!」
「パム、天使はどこ!?」
「気配はあるんだけど、姿が見えねえんだヨ! ちっきしょお、どこに隠れてんダ!」
精霊たちが頭上で見張ってもなお姿は見えない。ふと周囲を見回した緋李の視界の隅で、何かが銀色に光った。薄暗い陽光を反射した、金属質な光だ。薄暗い駅舎の中に、わずかな光が見えただけだった。だが金属質の反射光には覚えがあった。同時にパミリオも気づき、視線を緋李と同じ方向に向けた。天使の胸に輝く『オーラクリスタル』の反射光だ。距離が離れているせいでよく言えないが、確かに白い服を着た姿にも見えた。
直後、その姿が動いた。
「みんな伏せて! 『エンゲージ』!!」
桃達を突き飛ばし、同時に緋李はプリマ・ルビアに変身した。衝撃がルビアに襲い掛かったのは、その直後だった。
「ぉああああッ!!」
突如ルビアが吹き飛び、ガラスを派手に破壊して、先ほど買い物を済ませたアパレルショップに飛び込んだ。店員の悲鳴と警報装置のサイレンがけたたましく響く。周囲を歩いていた通行人も、同じく悲鳴を上げて逃げていった。だがサイレンは間もなく止んだ。警報装置の破損かと思って店舗を見上げた桃達は、愕然とした―――ショップのビルを真っ二つにして、上から下まで縦真一文字に割られていたのだ。その断面は恐ろしく鋭利であった。リオが普段の朗らかさからは想像できないような、恐怖の表情を浮かべていた。
「ナニ、コレ……!!」
「やべぇぞ…おい、緋李!」
伊予が真っ先にビルの中に飛び込む。幸いにして店員はカウンターの陰でしゃがみこんでおり、ガラスの破片を多少浴びる程度で済んでいた。桃が店員を助け起こし、伊予とリオがルビアの傍に駆け寄る。店員を逃がした桃も合流したが、仰向けに倒れたルビアの姿を見て、三人はさらに戦慄した。
ルビアの左腕と左脚が、肘と膝から断たれていた。すさまじい量の血が流れ、ガラス片で埋もれた床を濡らしていく。
「アカリちゃん!!」
三人は血にぬれるのも構わずにルビアを助け起こした。切断された手足は何メートルか先に転がっていた。リオが拾って断面同士を合わせ、シーヤンの治癒能力で応急処置をほどこさせた。ルビアの脇腹には手足の切断以外にもに巨大な傷があり、こちらも大量の血が流れだしていた。伊予と桃は自身の上着を脱ぎ、傷口に当てて止血しながら、精霊達に治癒を施させる。
「全然気配も無かったワ!」
「この破壊の状態からするに、恐らく正面。駅の建物の中からタイ」
「でっかい飛び道具でも出して来たのかよ!」
ルビアに止血の処理を施しつつ、三人は店外を注意深く観察していた。真っ二つにされたビルの破片がいつ落下するかも判らないが、手足を切断されたルビアを迂闊に動かすこともできない。ルビアは激痛と出血によって意識が朦朧としていた。パミリオも同じく、吹き飛ばされた衝撃で気を失っているらしい。
誰かに助力を頼むしかないと見て、伊予はスマートフォンを出し、ブライドの仲間達に連絡をしようとしたが、突如目の前でスマートフォンが真っ二つになった。ビルと同じく鋭利な断面を見せ、内部の機械が露出する。通話を初めていれば頭部が真っ二つになっただろうことを想像し、伊予の額から冷や汗が流れた。だが、これで一つ確かになったことがある。ピッキィが断面を見て、確信を持ってつぶやいた。
「…飛び道具だっピ。イヨが言った通りだっピ!」
「目に見えないわヨ?」
「そうだよ、飛び道具だ。マンガにあるんだ、刃物みたいな衝撃波を飛ばす技ってのが。それだ」
リオの疑問に伊予が答えた。非現実的な、などとは考えなかった。相手は天使なのだ。
ふと店の外を見ると、三人に視線を送る白い詰襟の服を着た長身の美女がいた。銀色の髪、胸には銀のオーラクリスタル。背中には明滅する翼型の光。確かに天使だった。銀の天使は白々しく手を叩き、三人をせせら笑う。
「ご名答ォ」
「……ダシルヴァだね、あなたが」
桃に指摘され、天使…『アンジェ・ダシルヴァ』の笑みが深まった。
「おぉ、妹たちから聞いていたかな。そうさ、私が長女のダシルヴァだ」
「…汚ねぇ笑い方だな。ロゼルたちの方がだいぶまともだぜ」
「研究や開発の仕事もしているからね、自然に目つきがわるくなってしまうのさァ」
伊予の挑発にも乗らず、ダシルヴァはへらへらと笑っていた。ここで三人はダシルヴァの性格をある程度判断した。相手を見下すように物を言い、悪口雑言などは軽く受け流す。恐らく、天使たちの中でも最も相手にしにくいタイプだ。
「君達が『デュエルブライド』か。まあ思った通り、実に下卑た顔をしている。ドブをさすらうケダモノのごとき汚らしい顔だ」
ダシルヴァはそう言いながら、指先まで伸ばした左の手をゆっくりと上げた。同時に三人はジュエルを取り出し、変身して散開した。
「『エンゲージ!!』」
「はっはァ!」
目にもとまらぬ速度でダシルヴァが手刀を振り下ろした。ビルは幾つかの破片に切り刻まれ、次々と地面に落下しては轟音を上げる。まさに紙切れのように容易く切断され、ビルはものの数秒で瓦礫の山と化してしまった。かろうじて三人のブライドは脱出し、ヘリオールがルビアの体を抱えて庇い、モルガナスとアクアルマはその前に立って、ダシルヴァと向き合って身構えている。
切断されたルビアの手足は変身前に着ていた服で強引に結び付け、脇腹の出血もどうにか押さえた。だが尋常ではない量の出血でルビアは意識を失っている。放っておけばこのまま死んでしまうだろう。モルガナスは視線だけをヘリオールに向けた。
「イヨちゃん、アカリちゃんを連れて逃げて。この中で一番動けるのはイヨちゃんだから」
「でもお前ら!」
「イヨ、だいじょぶヨ。ワタシたちだって死にたくないモノ」
食い下がろうとするヘリオールに、アクアルマが気丈に笑って見せた。二人は恋人同士として交際を始めたばかりで、付き合い始めてから一か月ていどしか経っていない。二人とも成し遂げたいことがたくさんある筈だ。絶対に死なせてはいけない―――ならば、自身が為すべきことは一つだと、ヘリオールは心に決めた。
「その言葉、信じたからな…」
「まっかしてよ、イヨちゃん!」
「待ってろよ。アキラの奴でも連れてきてやる、絶対死ぬんじゃねぇぞ!」
ヘリオールは腰のリボンでルビアを自身に縛り付け、街へと走り出した。ビル街を休みなく走ることに関して、いかなる障害物をも越えて走る野獣のごとき運動能力をもったヘリオールは、この場にいるブライドの中で最も秀でていた。
―――〔続く〕―――




