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第十三話Part2⑦



 一方でゴルディエもクリスタMには警戒している。アグレアが破れたということは、自分が打倒される可能性もまた存在するからだった。

 《お、おねーしゃんが、し、し、しんじゃうでしゅのん…うぅぅ、しんだらダメでしゅのん…!》

 《クリスタ様、お願いでございますノン! どうか、どうか我らが友を…》

 オネスキアとオベスティアのパートナーの精霊達が姉妹の助命を必死に懇願する。助けねばならないことはクリスタMにもよく判っていた。

 クリスタはこの場にいる全員を見ながら、エメルディ達三人を助けられる方法を探し―――最大にして唯一の可能性を見つけた。

 「ハル!」

 ゴルディエにとらえられているエメルディに、クリスタMは呼びかけた。何のつもりかと疑うゴルディエ。だが、エメルディの目がわずかに開いたことには誰も気づかなかった。そして答えた者がもう一人。

 《ステラどの…》

 (ペルテ…お願い。今はステラに任せて)

 《…わかったモフ》

 クリスタMは一度深呼吸をすると、エメルディに語り掛ける。決して大声を上げず、とても穏やかな声で。

 「―――ハル。あのね。ステラ、ハルのことが好き。恋の『好き』、だよ」

 突然の告白にゴルディエはクリスタMを訝る。だが、そんなゴルディエをクリスタMはまるで見ていない。あるいはオネスキア達すらも。ステラと晴、二人だけの世界がそこに生まれつつあった。

 「こっちに来てから初めて、ハルと目が合った時…その時にはもう、恋してた。知らないうちに」

 思い返すのは、アキラに連れられて初めて晴と出会ったその時。知的で、穏やかで、大人びていて…それでいてどこか冷めた雰囲気を漂わせる晴が、信じられないほど美しく見えたことが、今のステラにははっきりと思い出せた。虐待ですり減らされ、ジュエルの呪いによって封じられた心は、あの時確かに動いていたのだ。

 「ステラの心はハルが取り戻してくれたんだよ。それからずっとハルのことを見てた。だから……だから、ハル」

 わずかにうつむいていたクリスタMが顔を上げ、エメルディを見た。その瞬間、確かに目が合った。エメルディは残されたわずかな命で、クリスタMの言葉を全て受け止めようとしている。聞こえている。エメルディには、クリスタM…ステラの(・・・・)言葉が聞こえている。クリスタMは正面からエメルディを見つめ、告げた。

 「お願い、応えてハル。ステラの事を無視しないで。ハルの答えを聞かせて。ハルがステラをどう思ってくれてるか。嫌われても構わないから、だから、お願い…!」

 クリスタMの必死の懇願に、エメルディは一度目を閉じ、もう一度クリスタMの顔を見た。その顔は、その口元は、とてもあたたかな笑顔を浮かべていた。その装束の表面に、わずかに銀色の光の線が走った。

 「……ステラ」

 「うん」

 「…ごめんなさい。今は…今すぐは…あなたの恋に、こたえられ、ない…」

 嫌われたかと一瞬思い、クリスタMの目に涙が浮かぶ。だがエメルディの装束の表面に走る銀色の線…サフィールやクリスタと同じ、『マリアージュ・リング』の前兆が、それを否定した。銀の光は少しずつ数を増やし、一つ、二つ、三つ…と増しながら、やがて数えきれないほどの線が走り、装束に銀のラインを刻み込み始めた。いつしかエメルディは生命力を取り戻し、声に力が戻っていた。

 「今は、やることがあるから…私達の間に割り込む…この天使を…」

 エメルディは、自らの頭を掴むゴルディエの右手首を、ガントレット越しに掴んだ。今にも命尽きんとしていた者とは思えぬ強靭な握力…それこそゴルディエと同等以上の握力で、天使はほどくことができなかった。銀色の光線はやがて周囲の空間を走り、エメルディの全身を包む。

 「この邪魔者を…こいつを……ぶちのめすッ…」

 「てッ……てめェ…ッ!」

 「んぬぅぅぅッ―――あぁッ!!」

 数秒間握っただけでガントレットにひびが入り、砕け、破片がはじけ飛んだ。のみならず、そのまま手首すらも握りつぶした。硬質の破砕音と自身の腕の変形を理解できず、ゴルディエは一瞬だけ呆然としたが、やがて走る激痛に脂汗が額を流れる。天使の手から解放され、エメルディは自身の両足で地面に立った。恐るべき力に満ちた着地の衝撃が、どしりと地表に響く。ゴルディエの声は恐怖に震えた。

 「あ…あ、ァ、ああああ…ああああ!! この握力…てめェ、まさか…てめェもか!」

 「見ていてステラ! これが私の……あなたに捧げる、私の愛、全て!!」

 恐慌状態になったゴルディエの眼前で、エメルディは胸のジュエルの前に両手をかざした。強烈な閃光が周囲を照らし、光を浴びたオネスキアとオベスティアの傷が一瞬で完治して、姉妹はそろって意識を取り戻した。光の発生源であるエメルディを見て、姉妹は驚愕と歓喜を顔に浮かべる。

 「ハッ…あれは緑川様ですのね! それにあの光!」

 「話に聞いた、アキラどのの奴とおんなじじゃ!」


 「―――『マリアージュ・リング』ッッ!!」


 エメルディが叫ぶと、装束のシルエットが変わり始める。右肩のプロテクターは消失し、替わって左の肩から上腕を覆う盾のような、大きな肩当てが出現した。更に両腿を覆う新たなプロテクターが、右目には細い鎖を下げたモノクルが現れた。そして一回り膨張した胸のジュエルを取り囲み、銀のリングが出現。大弓を左手に握ると、分割してトンファーに変えて両腕に持った。


 プリマ・エメルディ・(マリアージュ)。己の恋を受け入れ、初恋の人に心を開き、エメルディもまた新たな進化を遂げたのである。


 「ふぅンッ!!」

 大地を揺るがす踏み込みと共に、トンファーを持つ左拳のボディブローがゴルディエの腹にめり込んだ。その威力は周囲の大気を揺るがすほどで、衝撃波すら感じたクリスタMが僅かに身を縮こませたほどだ。拳の速度は天使の動体視力を遥かに上回り、拳打の重さによって一瞬だけゴルディエの体が宙に浮く。浮いた高さは三十センチ程度だが、滞空する時間は異様に長い。天使を上回る異常な腕力。そして故意か偶然か、ゴルディエと同じく破壊力を周辺に一切散らさない技法。膂力と技量の両方を兼ね備えたエメルディMにしかできない一撃だった。

 「うぐっ…ぶぇえええ!!」

 「むんンッ!!」

 嘔吐にも似た叫びを上げるゴルディエの首を、今度はトンファーを持った腕でのラリアットが直撃した。直前でエメルディの胸のジュエルが明滅し、ラリアットを叩き込んだ腕が一瞬だけ筋肉で膨張したのが、クリスタMにははっきりと見えた。高速、剛力、二つがまとめてゴルディエの首一点に集中する。気管が一瞬つぶれて呼吸が停止し、首を支点に逆上がりの要領でゴルディエの体が回転した。破壊力の余波が衝撃波となって周囲に散る。エメルディMは上下逆さになったゴルディエの背中を両腕で抱え、頭上に高々と持ち上げた。そしてジュエルを再び明滅させると、力任せに地面に叩きつけたのである。

 「どぉッせェェい!!!」

 豪快な叫びを上げて、超高角度からの投げっぱなしパワーボム。地面が激震し、瓦礫が爆散する。ゴルディエは悲鳴も上げられず、延髄から地面に落下してめり込み、首の骨折を錯覚した…それほどの破壊力であった。

 『ハイプレス・インパルス』。胸のジュエルが明滅した直後の極めて短い時間、エメルディMの全身の筋力が五十から百倍ほどに増強される能力である。発動せずとも天使を上回る彼女の筋力が、発動すれば最早天使にとっては絶望的な格差となってしまうのだ。

 ゴルディエを地面に思い切り叩きつけたエメルディMは、一息ついて髪をかき上げた。

 「ふぅ、スッとした。いきがってる乱暴者を思いっきり投げるの、本っ当いい気分だわ」

 「くッ…クソ…何なんだ、てめェ…てめェら、サフィールも、クリスタも……人類なんぞが、そんな力…!」

 どうにか起き上がり頭を振って目を覚まし、めり込んだ地面からゴルディエが飛び出して、エメルディMに襲い掛かった。エメルディMはトンファを両手に構え、油断なく天使を見据える。その目に警戒はあれど、不安や恐怖は微塵も無かった。

 「ッだりゃァアア!!」

 ゴルディエの左手の手刀突きがエメルディMの首に突き出される。右のトンファで弾き、お返しとばかりに繰り出した左のフックは右の肘撃ちで弾かれ、そのままゴルディエの肘はエメルディMの頬にめり込む。だが痛みこそ感じはすれど、エメルディMはひるまなかった。すぐに向き直ると、立て続けに側頭部に放たれた強烈な上段蹴りを敢えて頭で受け、それでいて微塵も痛がる様を見せない事でゴルディエの焦りを誘った。予想通り、ゴルディエは驚愕に顔をひきつらせた。一瞬動きが止まる。

 「フンッ!!」

 その一瞬を見逃さず、エメルディMの横蹴りがゴルディエの顎を直撃した。一撃一撃が天使の強靭な肉体をもってしてなお耐えきれず、それでいて吹き飛ばされない代わり、一発で意識を失いかけるほどの威力が一打に込められる。

 「クソが…なめた真似してんじゃねェぞッ!!」

 踏みとどまったゴルディエの左の拳に、黄金の閃光が集まる。天使たちの必殺拳『デトネイション・フラッシュ』は、彼女の場合相手の体内で直接爆発を起こす技だ。常人ならかすめただけでも体の半分以上が砕け散り、直撃すれば全身が爆散する。『デュエルブライド』の肉体はそれに耐えるほどには頑丈だったが、それでも体組織が破壊され、エメルディも先ほどまでは動けなくなっていた筈だった。これさえ当たればと、ゴルディエは半ば博打に打って出た。普通のブライドでは気配すら感じられぬ、ゴルディエの超高速の左ストレートが、エメルディMの顔面を狙い繰り出される。

 「『デトネイション―――」

 「フンッ!!」

 だが頬に当たる寸前で、エメルディMのトンファーの一打が拳を逸らした。必殺の一撃は軌道を完全に変えられ、あろうことかゴルディエ自身の顔面に直撃し、爆発を起こした。

 「ぶぐへぁッ!!」

 拳が当たる直前でかろうじて爆破の規模を押さえ、大傷こそ免れたが、それでもゴルディエは顔面に火傷を負い、脳震盪を起こしてふらついた。のみならず、必殺の技をただの打撃で逸らされたことで、あまりの衝撃に呆然としていた。

 エメルディはトンファを結合させて大弓に戻すと、今度は思い切り振り上げてゴルディエの腹に叩き込み、真上に二メートルほど浮かせた。上下逆さの姿勢で落下してきたゴルディエの首を抱え込み、跳躍する。この瞬間にまたも胸のジュエルが輝いた。

 「でぁりぁああッ!!」

 全身に力を籠め、体重をかけて背中から落下して、抱え込んだゴルディエの頭部を地面にたたきつける。跳躍からの垂直落下式DDTだ。地面を揺るがせて激突したゴルディエの顔面が、直撃した地面を叩き割った。エメルディMが離れると、そのままうつ伏せに倒れこむ。

 屈辱に身が震えた。天使としてブライド達を駆除しに来たはずが、死にかけた姉妹には針で一泡吹かされ、自慢の腕力はエメルディMに下され、それどころか必殺の一撃を自らの顔面へと返された。

 地上に落ちてくる少し前、妹のロゼルがサフィールMの実力に恐怖したのを彼女は見ていた。恐れるほどのことは無いと思っていたが、妹の恐怖、そして主が警戒した理由を、ゴルディエは今まさに自身の肉体で思い知っていた。

 エメルディMはどうにか立ち上がったゴルディエを宙返りで跳び越え、地響きを上げて着地した。背後から両腕を廻し、腹を抱え込む。

 ゴルディエが心底打ちのめされている間に、いつしかペルドッサ、パルルス、そしてロゼルとアグレアもここを訪れていた。オネスキアとオベスティア、そしてクリスタMも含め、全員が固唾をのんで状況を見守っている。

 ペルドッサがつぶやいた。

 「決まる」

 その言葉に答えるがごとく、エメルディMはゴルディエを持ち上げた。

 「あなた達が今まで、私のステラに施した教育(・・)の分よ―――覚悟なさい!!」

 エメルディMの胸のジュエルが連続して明滅した。全身のすさまじい筋力を以って、恐るべき速度で自ら体を反らし、抱え込んだ天使の頭を地面にたたきつける技。大地を激震させ、無数の瓦礫を宙に舞わせて、必殺のジャーマンスープレックスが決まった。

 「ご……ぁ………」

 エメルディMが体を起こすと、最早叫ぶこともできず、ゴルディエは仰向けに倒れた。その目に最早戦意が無いことを、見下ろしたエメルディMは悟った。例え傷を完全に癒し、あるいはどれだけ戦闘能力を鍛えたところで、天使の心は既に折れているのだ。これ以上叩きのめしても無駄であることは、誰の目にも分っていた。

 エメルディMは右の手に銀の矢を出現させ、矢じりをゴルディエのオーラクリスタルに向けて大弓につがえて引き絞った。槍か棍棒と見紛うほどに長く太く、どう見ても普通の弓で引く矢ではなかった。打撃なり刺突なり、手に持って直に行っても充分に耐えうるであろう。その巨大な矢の表面に電光が走る。

 「…クソ。何が愛だ」

 仰向けになったゴルディエが、負け惜しみとばかりにつぶやいた。

 「そこのガキはな、サフィールを殺しに来たんだぞ。オレ達の主様が送ってきた殺し屋だ。てめェはだまされたんだよ」

 「天使のくせに語彙が貧弱ね」

 気分を害してやろうとして逆に一言で切って捨てられ、ゴルディエは間の抜けた顔でエメルディMを見上げた。

 「私がステラと会えたのは―――友達がブライドになったおかげだわ。つまり神様じゃどうにもできない奇跡だったのよ。送り出されたのも含めてね」

 ゴルディエは少し考えて理解し、その事実に打ちのめされた。ステラ達を地上に送り出したのは神だが、サフィールが生まれなければそんなことも無く、恋に落ちることも、当然『マリアージュ・リング』を発動することも無かったのだ。まさに、サフィールの誕生が起こした事態である。これ以上の皮肉は無かった。

 最早何を言う気力も無くして天を仰いだゴルディエに、エメルディMは容赦なく矢を放った。


 「…ピュリファイア・スパークル」


 オーラクリスタルに直撃した矢じりが電流を放ち、表層のバリアを破壊する。浄化の光がオーラクリスタルに吸い込まれ、直後天に向けて巨大な閃光の柱が立ち上り、光に紛れて白い炎が空中に霧散した。ゴルディエの体の傷は完全に癒え、元の健康的な姿を取り戻していた―――だが、クリスタルは灰色のただの丸い石と化していた。これはアグレアのクリスタルも同様だ。

 ゴルディエとアグレアの襲撃は退け、ほんのつかの間の休息が訪れた瞬間だった。エメルディMは肩に弓を掛けるとクリスタMの方に向き直り、両手を広げた。その仕草にクリスタMは一瞬戸惑うが、エメルディMは暖かな笑顔を見せる。

 「ステラ。いらっしゃい」

 「ハル…」

 「私に会いに来てくれたんでしょう。神様の国から、この地上に」

 エメルディMの言葉に、クリスタMの瞳が潤んだ。ほら、とその背をパルルス達に押され、駆け出してエメルディMの胸に飛び込んだ。

 「ハルっ! ハル、好き! 好き!!」

 「ステラ。私も好きよ、私のステラ。愛してる!」

 愛をささやきながら抱き合う二人を、ブライド達は温かく見守った。

 そして、ここで一つ謎が解けた。『マリアージュ・リング』を発動するきっかけだ。二人がそれぞれに発動したのを、パルルス達は見ていた。その時クリスタMとエメルディMが何を、あるいは誰を想っていたか。『エターナルジュエル』が恋心を形にした石だということさえ忘れなければ、その答えは驚くほど簡単だった。

 「きっと、恋や愛なのでございますよ」

 ペルドッサの頭上に現れたラムリンが、全員が考えた回答を口にする。愛しい人への強い想い、そしてその恋と愛を神から守ろうとする強い心に答え、ジュエルがアキラ達に新たな力を授けたのだと、誰もが思った。恋、誓い、献身、それらを全て包括した愛。それを実らせた、婚姻の銀輪(マリアージュ・リング)なのだと。

 「ともあれ、二人がくっついてよかったぷきゅ」

 シプルゥとペルテが、それぞれクリスタMとエメルディMの背中にすがりついた。精霊達も二人の関係が気になっていたらしく、すっかり安心した顔だった。それを見ると、エメルディMとクリスタMは再び笑顔で見つめ合った。

 「これからよろしくね、ハル!」

 「もちろんよ、ステラ!」

 愛を誓いあう二人の笑顔は、とても晴れやかだった。

 そしてその傍らで、倒れたゴルディエの横にロゼルとアグレアがいる。アグレアは座り込み、ゴルディエと同じうつろな表情でうなだれていた。いつのまにか目覚めていたゴルディエは、起き上がる気力すら喪失して仰向けになって天を仰いでいた。ロゼルはそんな二人を無視して、ブライド達の方を見ていた。

 「ゴルディエ姉様。我々はもう……」

 「…ハハ。大丈夫だよ、ダシルヴァ姉ェが何とかしてくれらァ」

 落ち込むアグレアに対し、彼女たちの更に上の姉の名前がゴルディエの口から出た。実力者であったゴルディエがそのように言うのだ、間違いは無い…アグレアも同じく、二つ上の姉である天使ダシルヴァを信頼している。しかし末の妹ロゼルは、姉二人に懐疑的な視線を向けて尋ねた。

 「本当に、そう思いますか? 姉様方」

 その問いに籠っていたのは、嘲りでも疑いでもなく、純粋な疑問だった。ゴルディエが顔をしかめ、上体を起こしながらロゼルを睨みつけた。

 「あンだァ? てめェ、ダシルヴァ姉ェを疑うってのかよ」

 「いえ。ゴルディエ姉様、私は姉様達のお考えを伺っているんです」

 「私達の、だと…」

 「はい、アグレア姉様。ダシルヴァ姉様が絶対に勝つと、姉様達は(・・・・)本気でお思いでしょうか」

 妹に問われ、姉二人は顔を見合わせた。内心にはわずかに疑いがある…それをお互いに見抜いていた。原因はクリスタMとエメルディMだ。二人は目の前で進化し、そして天使を上回る実力を発揮した。ならば、一番上の姉を超えるブライドが出現する可能性も、全く無いわけではない。

 「…てめェはどうなんだよ。あ?」

 「判りかねます。…判りかねる、のです。ダシルヴァ姉様の実力は我らと桁が違います。しかし」

 「あり得ると、お前は思っているのか。ダシルヴァ姉様の敗北が」

 「はい」

 アグレアに問われ、ロゼルは自身でも意外なほど素直に答えた。彼女もまた、サフィールの進化を目の前で見てしまったのだ。

 『エターナルジュエル』はあらゆる願いを叶える。ならば、何が起こってもおかしくはないのだ。身にしみてわかっている筈のことを、もはや全否定する材料はどこにも無い。主ことディセイヴィアの味方であったはずが、いつの間にか自身がブライドに少しでも歩み寄ろうとしていることに、ロゼルは気づいた。自分でも不可思議な心情だった。肉体が人間になったからというわけではない、何か別の理由があるはずだ。

 「……何がなのかはわかりませんが…変わる時が来たと、思います」

 「変わるとき…?」 

 「ただ一つだけとはいえ、『エターナルジュエル』が生まれたのです。我らが主の力を跳ねのける宝石が」

 だからこそ自分たちが『デュエルブライド』を駆除しにきたのだと、ゴルディエもアグレアも、判っていながら言うことができなかった。

 「何かが変わると。姉様たちも、思いませんか?」



 天使達の破壊活動によって、芽衣のマンションとアキラの祖母の家は崩壊した。仲間達の住居がなくなったことは、ブライド達の心に少なからぬ影を落とした…特にアキラの祖母と暮らしているステラ姉妹のショックは大きかった。瓦礫の中からどうにか見つかったのは祖母のスマートフォンくらいのもので、芽衣のスマートフォンや大墨姉妹のタブレットPCは爆破によって粉々になっていた。それでも祖母は笑いながら言った。

 「みんなが生きているのよ。大丈夫、何とかなるわ」

 街が消失するほどの災害は過去に幾度もあったが、人間はどうにかして立ち直ったのだから、大丈夫だ…と祖母は言う。彼女自身も過去の災害に幾度も遭い、ずっと住んでいた家を粉々にされてしまったにもかかわらず、命があることを喜んでいた。その言葉に救われた者もいれば、より深く悲しむ者もいた。

 芽衣はやむなく父に頼んで、大通りからほど近い別のアパートを借り、祖母とステラ姉妹、そして大墨姉妹もそこに移り住むことになった。環境はだいぶ異なる物の、とりあえずの対応はできた。ちなみに元天使たち姉妹も同じアパートに入居したが、ブライド達に敗北したショックを次女と三女が引きずっているためか、少々憂鬱そうではあった。

 その一方で晴とステラが両想いであり、天使との闘いに打ち勝った末に結ばれたことは、ブライド達にとって大変な朗報であった。祖母とステラ姉妹の部屋にぎゅうぎゅう詰めに集まり、全員で二人を祝福した。壁越しにその声を聴いた天使たちが居心地悪そうにしている(特にゴルディエとアグレア)ことは、誰も知らなかった。

 そしてこれを機に、ブライド達はアキラの祖母にだけは事態の詳細を打ち明けた。女子高校生や同等の年齢の少女たちが十六人、神の呪いを相手に痛々しい戦いを二か月も続けていることを知って、祖母はやはりショックを受けた。しかし晴とステラ、大墨姉妹以外にも深い愛情で結ばれた者達がいることを知り、そしてアキラの願いのための闘いであることを知って、彼女たちを支えることを宣言した。ブライド達も祖母を受け入れ、その仲はより深まった。祖母には精霊の姿こそ見えなかったが、それでも存在は理解した。この闘いは決して辛い事だけではないと、全員が改めて感じた瞬間であった。なお、トラ猫が再び現れてアパートに入り浸るようになったのも、ちょっとした喜びであった。



 だが、その中にいるべき人物の姿が無いことに、全員が…壁の向こうの天使たちも含め、全員が気づいていた。それを尋ねたのは、彼女の恋人となった緋李だった。

 「アキラは?」

 ブライドと精霊はそれぞれ十五人。ブライド達が集まる場に、リーダーであるはずのアキラと、そのパートナーのプルだけがいなかった。誰もアキラから連絡は受けておらず、祖母にすら何も伝わっていないのである。アグレアかゴルディエと闘ったわけではなく、現場にもいなかった。晴達が闘っているとき、他のブライドは家族から外出を止められたり避難していたりで集まることはできなかったが、連絡は取り合っていた。その中でもアキラにだけは誰も連絡していなかった。LINUのメッセージにも返答は無い。

 不穏な空気がその場に漂った。アキラに何かが起こったのだ。誰とも連絡がつかなくなるような何かが。

 嫌な胸騒ぎに、緋李はアキラの無事を願うのみであった。


 

―――〈ジュエル・デュエル・ブライド:第十三話Part2 END〉―――

怒りのトンファープロレス炸裂! やはりプロレス技は書いていて楽しいですね。

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