第四十二話
講堂を後にした俺たちは両脇に護衛の騎士が立っている部屋に連れてこられた。
普段はそこまでの体制は引かれていないのだが、それだけ今回のノモマの一件を重く見ているのだろう。
そして案内してくれた兵に連れられノックの合図と共に部屋の中へと入る。
「──ダグラス様、こちらにレックス、コンフラット、ディアの三名をお連れ致しました」
「ああ、ご苦労だった。君は下がってくれたまえ」
「なっ! しかし……」
「聞こえなかったのか? 私は下がれと言ったのだ」
「──申し訳ありません、失礼致しました」
まだ若いであろうその兵は慌てた様子で部屋を出て行く。
それを見届けてから俺はダグラスに近寄る。
「おいおい、何もそこまで脅す必要はないんじゃないのか、ダグラス?」
「何を言う、ケジメはしっかりと付けねばならん。それにお前たちは既に騎士団を辞め、立場が違うのだ。他者の目があれば話難いこともあろう?」
「そうか……気を使わせてすまないな」
「何、今更そんなことを言うような間柄でもあるまい……よく来てくれたなレックス」
「ああ、結局は俺には#戦場__ここ__#でしか生きられないみたいだしな」
お互いに歩み寄り握手をする。
「ちょ、お二人は仲が悪いのでは無かったのですか!?」
その様子を見てディアが驚きの声を上げるが、そう言えば二人に騎士団を辞めなければならなくなった本当の経緯を話してはいなかった。
「別に仲が悪いわけではないんだがな──」
ということで何故に俺が騎士団を辞めるに至ったのか、ディアとコンフラットに経緯を説明することにした。
俺が騎士団を辞めることになった最大の理由は、騎士団内に出来てしまった軋轢を無くす為だ。
前騎士団長の退役が決まったことを機に騎士団はコンフラットやディアを筆頭に俺を慕ってくれる者たち、そしてグランを始めダグラスを支持する者たちで二分化されていた。
俺は戦場に出ることのみにしか興味を抱かず、内政に興味を示さなかったことのツケとして俺の預かり知らぬ所で次の騎士団長を推す声が高まり、両陣営の小競り合いは増す一方で看過出来ぬ状況に陥っていたのだ。
「……すみません」
「コンフラットとディアが謝る必要はない、悪いのは自身の影響力を鑑みず戦いに呆けていたこいつだ」
「……まぁ、そういうことになるな」
何とかしなければいけないと分かった所で俺は騎士団長の座に就くつもりは無かったし、その座に就くに相応しい人物がいたのだから譲るつもりであった。
たが俺が騎士団内に留まり続けると火種が騎士団内に燻り続けるということで、責任をとって団長の座に就かぬのであればとダグラスに追い出されてしまったのだ。
騎士団長の座を譲るとはいえ個人的には大きな借りを作ってしまった形になり、事あるごとに小言を言われるので正直会うのは避けたい所ではあったが……。
「何がそういうことだ。大体だなお前は昔から──」
「ああ待て待て、今はその話をしにきた訳ではないだろ? ノモマ教団にどう対処するか決めるのが先決ではないか?」
「それもそうだな…………お前たちは実際にノモマ教団と戦ったのだろう? まずはその話を聞かせてくれ」
「ああ、それは構わないが……逆に騎士団で掴んでいる情報を教えてもらうからな」
俺はオークエンペラーと戦って得た情報を伝え、ダグラスからは現状で知り得ている情報を伝え聞く。
概ねジャンから聞き及んでいた内容ではあるが、細かい部分は直接聞いた方がよく分かる。
そして今回の作戦に至るにあたって重要な、ノモマ教団の拠点をどうやって突き止めたのかだが、貴族が手に入れたという眉唾な情報であるらしい。
しかし国王からの厳命がある以上はその情報に従って、騎士団長自らも動かなければならないそうだ。
「……ということはまさか、騎士団が不在の間に俺たちに王都を守れということか?」
「察しがいいな……だがそういうことだ。騎士団は王命に逆らうことは出来ぬが、既に騎士団を辞めているお前たちなら問題無い。こう言うのも何だが、信のおける者をここに残しておかなければいけない状況なのでな」
ドワーフ兵の裏切りについても報告が上がっているだろうし、その他にも懸念すべき事案が発生したのだろう。
確かにその状況下で王都を不在にしなければならないと言うのは、騎士団長として不本意でしか無いのかもしれない。
「……良いのか? もしかすると俺たちがノモマに内通しているかもしれないんだぞ?」
「ふん! そうであるならばとっくに王都は陥落しておろうが。だが、そうであるならば私がお前の首をこの場で切り落としてやる」
ダグラスは剣に手を掛け抜く素振りを見せてくる。
「おいおい、冗談だぞ?」
「……分かっている。だが騎士団内……というより私を支持する者たちにとってお前は私に敗れて追い出された身。形だけなのだが事情を知らぬ騎士の中には未だに敵視するものもおるだろうから、なるべく不用意な発言は避けることだな」
「……分かった、気をつけよう」
話を終えて俺たちは団長の部屋を後にする。
そして冒険者用に事前に準備してくれている客室へと向かうのだが、その道中に絡まれてしまう。
「貴様、ダグラス様の部屋から出てくるとはどういうことだ? 返答によってはただではすまさんぞ!」
ダグラスに陶酔しきっている若い騎士団員なのだが、俺たちがそのダグラスの指示で訪れたことを知らないのであろう。
いちいち相手をするのは面倒な奴であるが、放置する訳にもいかないので久々に相手をして上げることにした。




