エピローグ
目を覚ますとそこは、見慣れた自分の部屋だった。
「あれ……俺、死んだんじゃ」
たしかアサグとか言う悪魔に魔力を吸われ、その上自らの意志でルベアに魔力を与えた。その結果、急性の魔力欠乏症になり死んだと思っていたのだが……やはりどう見てもここはオルドの部屋であった。
ご丁寧に自分のベッドに寝かされ、布団までかけられている。そして傍らにはアサグに奪われていたグリモワールまで。
一体どういう事だろうか?
「おお、目を覚まされたかオルド殿っぶっ?」
突然、目の前にしゃれこうべが逆さまに現れて、オルドはびっくりして殴り飛ばしてしまった。
「ぐ、さ、さすがはオルド殿だ。相も変わらず良い攻撃だ……」
「ルベアっ‼ その姿は一体……」
オルドの魔力によって『真正解放』を果たしたルベアは、見たこともないような絶世の美女になっていたはずだ。なのに何故、再びこんな残念骸骨になっているのだろうか。あれはもしかして、オルドの願望が見せてくれた妄想だったのだろうか。
「勿論、お主に魔力を返したのだ。吸い取ることができるのであれば、無論与える事もできるのだ」
訝しがるオルドに対し、ルベアはあっさりと種明かしをする。数秒後にその言葉の意味を飲み込んだオルドは、盛大な溜息を吐き出して安堵した。
「はぁ、それを早く言ってよ。死んだかと思ったよ」
「いや、吾輩も想定外だった。吾輩が魔力をあそこまで吸い取って、お主の魔力が完全に枯渇しないとは」
「え?」
「いやぁ、息があってよかった。さすがに死体には魔力を返せないからな」
「やっぱり結構危なかったんだ……」
今更ながら、生きていることにほっとするオルド。だがそこで、一息ついてルベアに手を差し出す。
「まだ、あっちの世界には帰らないんだろう?」
「うむ? あ、ああ……帰れとは言わんのかね?」
オルドの方を恐る恐ると言った有様で窺うルベアに、オルドはやんわりと首を振った。
「いろいろと大変だったし、多分これからも面倒ごとは起こると思うけれど――」
オルドがロスト・グリモワールを所持している事に対し、父や祖父は余計な横槍を入れてくるだろう。もちろんルベアの存在にしたって、あれこれ言ってくるはずだ。
けれど、それを加味したとしても――。
「――楽しかったからさ。ルベアと過ごした数日間、意外と楽しくて気に入っちゃったんだよ。もう少しだけ、君と過ごしていたいと思うくらいには」
「……オルド殿」
「取りあえず、これからもよろしく」
「ああ。よろしく頼むぞ、オルド殿」
差し出したこちらの手を、皮膚や肉のない骨だけの手が握り返してくる。不思議な事にそれが何とも心地よくて、オルドは小さく笑みを浮かべた。
こうして魔法の才能が全くなかった少年は、大いなる魔導書と力を持つ悪魔の友人を手に入れたのだった。この結果、彼がこれから偉大なる魔術師として成り上がっていくことは、周囲も彼自身も想像していない事であった。
ただオルドがこの時に思っていたことといえば――。
……うーん、ルベアの『真正解放』した姿、もう少し見ていたかったかもなぁ。
なんて年頃の少年にありがちな、ちょっとした未練だけであった。
完
お読みいただきありがとうございました。
本作はここで完結済みにしますが、何かストーリーを思いついたら続きを書きたいと思います。
短いお話でしたが、評価やご感想、ブックマーク登録ありがとうございました。




