66話 思い切った決断
「ねぇ、拓斗。ちょっと話があるんだけど」
「どうした?」
家に帰って早速心美は拓斗に相談した。
「私、今まで働いてきたキャバクラだけど辞めるって言ってきたの」
「そうか、今までお世話になったもんな」
拓斗が頷きながら心美の目を見て話を聞いている。
固唾を飲んで、心美は続けて話し出した。
「お世話になった店長から、butterflyっていう店舗のオーナーを薦められたの」
「butterfly??もしかして飲み屋ってこと?」
「うん・・・」
拓斗はそれを聞いてがっかりはしなかった。
それどころか、心美の身体をまた心配することになり心が揺れている。
「いい話かもしれないが、心美の身体が心配だよ。働いてばかりで全然休めていない気がしてならないよ」
もちろん拓斗だって働いている。
しかし心美の働く時間と言ったら一日中と言っても過言ではない。
「それに借金だって返せたんだろう。無理する必要はないと思うんだが」
相談したが、心美にとって思っていた返事が返ってきた。
心配してくれている拓斗。
そして本当に働く必要があるのか。
色々と思い悩む心美であった。
しかし、心美はゆっくりと天井を見上げた。
「これからの私の居場所は拓斗の側と、butterflyだと思うの」
心美の思いは強かった・・・。
たしかに今働いている拓斗と同じ会社でも支えてくれた先輩がいて、
感謝してもしきれない。
だけど心美は店長との絆の深さ、そして期待を裏切りたくない気持ちが強まっていた。
そして何より、心美は新しい舞台で輝きたいと思ったのだ。
「私、腹をくくったわ。拓斗ならわかってくれるって信じているの。私の成長はbutterflyにあるって思ったの」
心美は拓斗の目をじっと見つめる。
今まで「拓斗、私は新しいことに挑戦してみたい。そして店長の期待に答えたいの」
拓斗からしたら思いもよらぬ言葉だった。
一般的な会社に身を置いている以上、副業ともいえる店を選ぶなんておかしい。
選択肢を間違っているなんて誰もが思うこと。
しかし拓斗は心美の目を見ると真剣さが強く感じられたのだ。
「心美は自分の意志で動くといいと思う。常識に囚われない人は僕の尊敬に値する。だから心美の思い思いの人生で良いと思う。もちろん応援するよ」
暖かい言葉が心美の心に響いた。
「私は本当にバカものね。だけど、新しいところに行ったら全力で頑張るもの!拓斗の言葉を聞いて正直、ホッと一息つけたわ」
「僕の意見なんて・・・どうだって良いんじゃないの?」
拓斗は一歩引いて話をする。
無理を言ってもあくまで心美の人生なのだからと。
決して拓斗からは否定しなかった。
「拓斗、ありがとう。もし拓斗がダメって言ったらもうあきらめようと思っていたわ」
心美が胸の内を明かす。
それに対して拓斗は・・・。
「僕の言葉で動揺しないで。心美は心美らしく、先の道を選べばいいと思うよ」
その言葉を聞いて心美は拓斗に抱きしめに行った。
「私のことを一番理解してくれているのは、やっぱり拓斗なんだね」
抱きつきながらそう言って、さらに両腕をきつく締めた。
「拓斗・・・。絶対に離さないよ」
二人の絆は強まり、将来のことを二人で一緒に見据えるのであった。




