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愛鴨  作者: 山本 宙
9章 どうぞ召し上がれ
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65/70

65話 新たなオーナー

 借金を返済した心美は一息ついた。

追われているものが何なのか、よくわからなかった。


突然現れたようにせまってくる恐怖と、今まで戦っていたような感覚だった。


これですべてが終わった。

背負っていた鉛が落ちて、軽く感じる身体は愛おしく思う。



心美は彼氏の拓斗にメールを送る。





件名 返済できました!


本文

今まで支えてくれてありがとう!すべて借金は返済できました。

これも拓斗が見守ってくれていたおかげです!本当にありがとう!これからは伸び伸びと生きられる気がする。拓斗、またどこかにデート行こうね!




心美は本文を打ち込んでいる最中に胸が熱くなった。

拓斗は常に傍で支えてくれていた。拓斗の存在が心美を安心させていた。

感謝の気持ちがこみ上がっていた。




メールを送ってから心美はお世話になった職場に足を運んだ。

足を運んだ職場は拓斗も働く本職の会社ではなく、夜な夜な働いていた店だ。



その店の前まで来て、心美は大きく深呼吸した。

(この店にもお世話になったわ。しばらく兼業をやめて、自分の時間、拓斗の時間を大切にしなきゃいけない)


心美は今まで働きっぱなしで、ろくにプライベートの時間を満喫していなかった。


(店長に何言われるだろうか・・・)


心配をしつつ、心美は店内に入った。



するとすぐさま声がかけられた。

「あら!心美ちゃんいらっしゃい!!今日は出勤日じゃないでしょう」


満面の笑顔で、店長であろう女性が話しかけてきた。


「今日は大事な話が合って、よろしいですか?」

「もちろんいいわよ」



そう言って二人は店内の奥に歩いて行った。


「大事な話って何かしら?もしかしてこの店をやめるの??」


確信をつく質問だった。

ビクッと驚きながらも心美が答える。


「はい、折り入って直接お話ししたいと思ってここに来ました」


「あらあら、心美ちゃんわざわざありがとう。そうなの・・・。んー」

頭を抱える店長はしばらく立ち止まった。


その様子を見て心美が涙ぐむ。


「心美ちゃんは本当に律儀で素晴らしい人材だと思っていたけど、残念だわ。お話しゆっくり聞かせてちょうだい」


店長はやめようとする心美を笑顔で包み込む。

優しい店長だった。


二人はゆっくりと店内の奥に歩いて行った。


そして・・・

心美は肌身隠さず、全てを話した。

借金の事もすべてを。

それでも店長は関心を持って聞いて、心美の肩をポンポンと優しく叩いた。


「今の今まで大変だったのね。よく頑張ったわ」


「本当に店長にはお世話になりました」



「良いのよ。私のことはね。残念だけど常にあなたのことは応援していたから」



店長の励ましは、心美の心を和らげた。


「心美ちゃん、実はね。別件で大きなお話があるのよ」


「別件??」


「この店をやめると決めて話に来たあなたに言うのも変だけど、聞いてくれる?」


「えぇ、なんでしょうか・・・」


突然の話に心美は動揺したが聴くことにした。


「実はね。あなたにオーナーをやってほしいと声がかかっているのよ」

「オーナー?」

何が何だかさっぱりだった。いきなりオーナーだなんて訳が分からない。


「実はbutterflyっていうお店があるのだけれど、そこのオーナーさんがヘイヘイっていう中国人なのよ」


「ふむふむ」


関心を持ちながら、続けて話を聞いた。


「そのヘイヘイさんの後釜がいなくって、一押しの店員をオーナーとして推薦してくれないかって話が私にきたのよ」


(オーナー・・・)


「ヘイヘイさんていう人は、あなたが初めてこの店に面接に来た時に私の隣に座っていた人だわ」


過去を思い出そうとする心美。

すると微かな記憶がよみがえった。


(ヘイヘイさん・・・)


「そのヘイヘイさんがあなたを推薦したの。butterflyの新しいオーナーとして働いてみないかって」


一瞬耳を疑う。

(butterflyのオーナー・・・)

微かな記憶でも覚えている。


初めて出勤してきた心美に「頑張ってね」と声を掛けてくれたヘイヘイさん・・・。



「butterflyのオーナーの話、検討させてください」


そう言ってその場を立ち去る心美だった。

(どうしよう・・・)



働き始めて間もないころの心美にとっては、

夜の商売に関して否定的であった。

どうも男性の見る目に違和感を感じていたほどだ。


しかし、水商売のことを色々教えてくれた店長のおかげで、

心美は関心が持てるようになった。


そしていつしか、夜でも懸命に働く自分がいた。

それは借金のことも忘れるくらい夢中になれた自分がいたほどだ。



よくよく考えて心美は答えを出そうとした。

そして何より、拓斗にも相談しようと思っていた。


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