55話 終わりなき晩餐
Love Duckの開店は亜子の出勤とともにやってきた。
何事もなく時間が過ぎていく。
集いあう客は話し合いながら食事を楽しむ。また一人で料理を堪能する者もいた。
亜子は誰にも明るく振る舞った。
店長も懸命に調理に励む。
この時間は儚いものなのだろうか。
一人の客が扉を開く。
その客は大男だ。
「いらっしゃいませ」
亜子が接客をする時、
客の顔を見て大袈裟に驚いた。
「きゃッ!!」
店長が亜子の様子を見に来た。
食事を楽しんでいた客も少しざわつく。
入り口で立っていた大男はテンテンだった。
「合鴨料理を食べに来た・・・」
そう言って席を案内するよう亜子に促す。
店長がテンテンの背中を押して外に追い出す。
店長とテンテンは外に出ていった。
過去に大暴れした客だ。Love Duckに入ってくるのを躊躇する店長の気持ちは大きかった。
亜子が心臓の音を大きく立てながら二人を見届ける。
「もう・・・あの時のような恐怖に会いたくない・・・」
亜子は独り言をこぼして震えていた。
数人の客が心配そうに見ていた。
外で店長とテンテンが立って話をしようとした時、
藍野が歩いてきた。
藍野が店長の顔を見て話しかける。
「店長、今日も合鴨料理食べに来ました」
すると異様な空気になっていることを藍野が察する。
「このお方は?」
藍野はテンテンの顔を見てうかがう。
店長はテンテンのような輩でも客である以上、
悪い風には言えなかった・・・。
言葉が出てこない店長を前にテンテンが口火を開く。
「俺の名はテンテン。この店に迷惑をかけてしまった客だ」
その言葉は過去の罪悪感を震わせるような言葉だった。
店長はテンテンの様子が違うと思い、ゆっくりとテンテンの顔を見た。
するとさらにテンテンが話す。
「俺は毎日ここにきて大暴れしていた。何振りかまわず店をめちゃくちゃにした。合わす顔が無いのはわかっている。ヘイヘイにも縁を切られたのだ」
悪いことをした過去を述べる姿は、自分を戒めるようだった。
「テンテンさん、このお店は合鴨料理がおいしいですから、食べて嫌なことも忘れましょう」
藍野がそう言ってテンテンを店内に入れる。
店長は藍野をとめなかった。
店長である立場からして、客を招かない姿勢は辛く感じたに違いない。
店長は何も言うことなく二人を招く。
亜子はテンテンと店長が何事もなかったように店内に入るところを見て、
内心ほっとした。さらに藍野が入ってきたのをみてさらに心が落ち着いた。
あらためて亜子が言う。
「いらっしゃいませ」
その言葉は周囲の客を安心させた。
テンテンは体が弱っている様子だった。
「お隣り、良いですか?」
カウンターテーブルに藍野とテンテンが隣り合わせに座った。
藍野は初めて会うテンテンがあまりにも心労な面持ちだったため、
心境を聴こうと話しかけるのであった。




