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愛鴨  作者: 山本 宙
7章 折り箱
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54話 黎明

 日が昇る時、藍野は仕事が休みであったため亜子と出かける準備をしていた。

急かすように亜子が藍野に声掛けをする。

「急いで、早く!」

「待ってくれ、そんな急がなくても時間はあるから」


忘れ物が無いように藍野は荷物をまとめてカバンに入れる。


新聞の折り込みチラシを亜子が見て驚いたのは昨日の事。

スーパーで朝一番の安売りセールがあると知り、藍野と一緒に買い物をすると決めていた。


朝一番で売られる食品はどれも新鮮で、それが安く手に入るのは亜子にとって喜ばしいイベントだ。


藍野はその買い物に付き合うことになったのだが、亜子のテンションについていけない部分が垣間見えた。


そして二人は走ってスーパーに向かう。

スーパーはアパートのすぐ近くで、歩いてでも行ける距離だ。

しかし二人は走って行き、どの客よりも早く店で並んで待とうとしていた。


案の定、スーパーの前には人だかりができていて、今か今かと客たちはスーパーの開店を待ち望んでいた。

「この大根と、この鴨肉と・・・」

亜子が折り込みチラシを見て、買う商品を確認していた。


「亜子、なんだか主婦みたいだね」

そう言って藍野は亜子の隣に立って列に並ぶ。


しばらくして開店と同時に、亜子と藍野は全力で店内に走りこむ。

こうした日常も不思議と生活の中に当たり前のように混在している。


生活感が溢れる日常が出てきたのは、亜子と同棲するようになってからだ。

この生活が藍野にとって新鮮で楽しい毎日に思えた。


押し問答もありつつ、無事に買い物を終えて二人はアパートに向かって歩いていた。

すると、準備中の立て看板が置かれたLove Duckが帰りの道中にあらわれた。


「亜子は今日も午後からLove Duckで仕事だね」

「うん・・・」


職場を横切っていくのは亜子にとって心地よい思いはしない。

仕事以外の時間はあまり目にしたくないものかもしれない。

それは恋人の藍野と一緒にいる時間だからこそ思えたことだ。


亜子が藍野の顔をジッと見つめる。

「Love Duckはこれからもずっと無くなってほしくないと思っているの。二人が出会った場所だから・・・」


「どうしたんだよ、急に。なんかLove Duckの存続が危ないような言い方だな」


「大丈夫。気にしないで」



思い返すと、ヘイヘイはもういない。ヘイヘイの思いが詰まったLove Duckは今、まるでぽっかりと空いてしまった折り箱のようだ。あの時のLove Duckと今のLove Duckは全然違う。ヘイヘイの存在が大きすぎた。


これからのLove Duckはどうなってしまうのか・・・。亜子が一番心配にしていたのかもしれない。


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