第五三話「エイリ=アマフの逆襲」その3
一方同じ頃、場所はリーグ山脈の東側。
エイリ=アマフ軍は一万で三万のイフラーン軍と戦い、これを粉砕。二万の敵を撃退し、逃げ遅れた一万のうち半数を殲滅し、残りの半数を捕虜とした。エイリ=アマフはコナハト軍五千の捕虜を引き連れて東ムーマへと撤収する。
この三年間絶えてなかった一方的な快勝にムーマ軍の気炎は天を突かんばかりだ。が、その中心のエイリ=アマフは一人だけいまいち浮かない顔だった。
街道沿いの野営地に到着したムーマ軍はそこで一夜を明かす準備を始めている。その中でエイリ=アマフは、本陣でコナハト軍の武将と会談を持とうとしていた。その千人隊長は後ろ手に縛られ、無理矢理ひざまずかされている。彼の側には二人の兵士がいて、抜身の剣を彼の首に押し当てていた。その彼の前に佇むのがエイリ=アマフだ。
あまりスタミナのない彼は激戦を経て体力を使い果たしてほとんど倒れる寸前だったが、少なくとも外見からはそれを誰にも悟られなかった。対峙するコナハトの千人隊長は射殺さんばかりの眼で彼を凝視する。一方の彼は冷ややかにその千人隊長を見下ろした。
「危害を加えるつもりはない。おとなしく話を聞け」
「それを信じろと言うのか? ムーマの言うことを!」
エイリ=アマフの言葉にその千人隊長は牙を剥き出しにし、噛みつくように反発する。
「この百年、ブレスや貴様等がただの一人でも捕虜を生かして返したことがあるというのか!」
「そうだな。そしてこの三年、コナハト軍がムーマ人を無傷で返したこともただの一度もない」
千人隊長の炎よりも熱い憎悪に対し、エイリ=アマフは氷よりも冷たい言葉をもって返した。なおお互いが言う「ただの一人も」は誇張表現だが、限りなく事実そのままに近い言葉だった。お互いが「無傷で返した」人数は統計上無視していい、ごく少数でしかない。
「俺達はこの百年、貴様等がしてきたことをそのままやり返しているだけだ!」
一体この三年、どれだけのコナハト人が何度この言葉をくり返しただろうか。エイリ=アマフは「なるほどな」と深々とため息をついた。そして兵士に「おい」と顎で命令する。兵士達は不服そうだったがそれでも逆らわず、手にしていた剣でその千人隊長を拘束していた縄を切った。その千人隊長は自由になった手で手首をさすりながら、信じられないものを見る目をエイリ=アマフへと向ける。
「……何の真似だ」
「やられたことをやり返すのがコナハトのやり方ならば、捕虜を返したなら返してもらえるのだろう?」
つまらなさそうにエイリ=アマフはそう言う。
「信用できると思うのか? ムーマの言うことを」
「それを判断するのはお前じゃない。帰って将軍イフラーンに伝えろ、こちらは捕虜交換に応じる用意があると」
さらにエイリ=アマフは用意していた親書を彼に渡した。その千人隊長はかなりの時間迷っていたが、やがて身を翻して走っていった。エイリ=アマフは西へと、リーグ山脈へと走り去っていくその捕虜の背中を見つめる。
「……コナハトは捕虜交換に応じるのでしょうか」
「普通に考えれば応じるのが当然なのだがな」
幕僚の問いにエイリ=アマフは肩をすくめた。ムーマとコナハトの関係は普通ではなく、積み重ねられた憎悪の量は尋常ではない。利害や損得を度外視してイフラーン軍が攻撃してくる可能性もまた充分に考えられた。
「せっかく捕虜にしたのに無傷で返すなんて……」
ムーマ軍の幕僚はそう言って悔しがるが、それは一人や二人の話ではなかった。
「コナハトに返すにしてもせめて断種くらいはしてやればいい。奴等がそうしているように」
「敵に返しても敵の戦力回復を早めるだけだ、皆殺しにして奴等を少しでも弱体化させるべきだ!」
幕僚の全員が、兵士の全員がそう思っている。捕虜など取るべきではない、コナハト軍を皆殺しにするべきだ、と。エイリ=アマフは疲れたようなため息を深々とついた。
「そうして捕虜を皆殺しにして、敵中の同胞を皆殺しにされるのか?」
エイリ=アマフの指摘に幕僚達は口をつぐんだ。
「今この場にいる誰かが、自分や戦友がコナハト軍の捕虜になったときに無傷で帰還できる機会をゼロにしてしまって、本当に構わないのか?」
気まずそうに俯く幕僚の全員にエイリ=アマフが諄々と説明する。
「人口四〇〇〇万のコナハトに対してムーマは一二〇〇万、さらにその半分はコナハトの手中だ。たった六〇〇万の我々がコナハトと皆殺しのやり合いをして、先に全滅するのはどちらだ? 神威魔法が復活したと言っても、使える場面は限られているのだぞ」
「陛下! 陛下は奴等が憎くないのですか! 私の、私の娘は逃げ遅れて奴等に捕まって……」
幕僚の一人が血を吐くようにしてそう言うが、それ以上は続けられなかった。涙を流して立ち尽くすその幕僚に、その場の全員が心から共感する。そして他ならぬエイリ=アマフもその一人だった。
「……そんなわけがあるか」
搾り出されるようにして呟かれる怨嗟。握り締められた拳が震えている。その姿に幕僚達も言葉を失った。が、エイリ=アマフはゆっくとり息を吐き出し、激情を静める。
「だが、何度も言っているだろう。殺したら殺し返される、その応酬となったときに先に全滅するのは我々の方だと。ならば『捕虜を無傷で返したなら、同じようにそうしてもらえる』、その連鎖を作っていくしかない」
だから本当はたった五千ではなく、逃げ遅れたコナハト兵一万全員を捕虜としたかったのだ。だが「ムーマが捕虜を取るわけがない」と思い込んだコナハト兵は無謀な突撃をして玉砕したり、自死を選ぶなどしてしまい、五千しか残らなかったのである。コナハトの必死の抵抗によりエイリ=アマフ軍が負った被害も決して小さくはなく、これが何度か続けばたった一万のエイリ=アマフ軍は早々に行動不能になるかもしれなかった。
「ですが、その道理が奴等に通じるのでしょうか?」
「思い違いをするな、先にその道理を踏み外したのはブレスでありムーマだ。圧倒的な力の優位に驕ってコナハトを、道理も人倫も踏みにじってきたのだ」
しかし、と反射的に言い返そうとする幕僚だが彼は何も言えなかったし、他の者も同様だった。
「そして『導く者』を得たコナハトがその力を逆転させ、ブレスにされたことをそのままやり返している――コナハトを憎むなとは言わん。だがその経緯は、『何故こうなったのか』だけは忘れないでくれ。同じ間違いをくり返さないために」
エイリ=アマフの訓戒を心から承服した者は、ムーマ軍の中にはおそらく一人もいなかっただろう。だがそれに逆らう者もまた皆無だった。
ナ=ノラグの月(第二月)に入り、イフラーンとの間に捕虜交換の交渉が成立。五千の捕虜をコナハトに返還してエイリ=アマフが引き換えに手にしたのは、東ムーマへの亡命を図って逮捕されていた西ムーマ市民五千である。エイリ=アマフ軍は彼等を伴い、意気揚々とベン=バルベンへと凱旋した。
「神威魔法復活」――大陸を席巻したそのニュースは音よりも速く東西ムーマ全域へと広がった。
「コナハトに勝てる! 奴等に目にものを見せてやれる!」
無数のムーマ人がそう言って喜び勇み、迂闊な者は早速西ムーマで蜂起して早々にイフラーン軍に粉砕された。が、蜂起は一箇所や二箇所にとどまらず何百マイルという範囲に広がり、イフラーン軍はその対応に追われた。
一方ムーマ人も、今すぐ勝てるわけではない事実を知って多少は冷静となる。「専用のオルゴールがなければ邪悪魔法は使えず、その範囲も限定的」という「導く者」の指摘は、レアルトラが意図的に広めるまでもなく大陸中へと広がった。このため大陸中の人間が「コナハトとムーマの力関係が再逆転したわけでない」と知ることとなる……ただ、コナハトがムーマを一方的に蹂躙できる期間はもう終わったことは万人が認める事実となった。
一万のムーマ軍と五千の西ムーマ市民を伴い、エイリ=アマフがベン=バルベンへと入城する。それを出迎えたのは何万という市民の歓声だった。
「国王陛下!」
「賢王!」
「ムーマに栄光を!」
喜びを爆発させた市民が口々に叫んでいる。ばらばらだったその呼びかけは、やがて一つへと収斂されていった――「賢王エイリ=アマフ」と。そう連呼されるエイリ=アマフは困ったような顔をするばかりだが。
「しかし『賢王』とはな。ちょっと大仰で名前負けしていないか?」
ベン=バルベン城に戻り、朝議の間に落ち着いたエイリ=アマフが苦笑交じりにそう言う。それを腹心のケアルトが「とんでもない」と言下に否定した。
「陛下の偉業を称えるにはあれでも不足です。もっと的確で洗練された、美しい尊称を考えなければ」
真剣にそう言うケアルトにエイリ=アマフは「やめてくれ」と辟易した顔をする。
「俺がこの程度のことで『賢王』などと呼ばれていたなら、コナハトの女王レアルトラはどうなるんだ?」
冗談交じりのエイリ=アマフの問いにケアルトは嫌そうな顔をした。レアルトラは人口が三百万まで減り滅亡の縁に立たされていたコナハトを率いて戦い、人口五千万を超えていたムーマを完全撃破したのだ。その偉業・覇業は大陸二五〇〇年の歴史の中でも並ぶもののない、空前のものだった。彼女にかろうじて匹敵しそうなのはブレスくらいのものだが、彼とてレアルトラほど不利な条件から戦い始めたわけではない。
「コナハトの勝利は『導く者』の力があってのことでしょう。独力でそれに打ち勝った陛下の偉業と比較にはなりません」
「勝ったわけではない」
静かに、だが断固としてエイリ=アマフが明言。ケアルトは口を閉ざした。
「抜け道を、対抗手段を見つけただけだ。ムーマが不利な状況にあることには変わりない」
専用オルゴールがあれば神威魔法を使える――が、コナハトのオルゴールを完全無効にできるわけはない。専用オルゴールと神威魔法の組み合わせは、防衛戦においては城塞を超える力を発揮するだろう。だが西ムーマやモイ=トゥラに攻め込んでコナハト軍を撃破するには不向きであり、力不足だった。
「防御に徹するにしても東ムーマ全域を守るにはあまりに数が足りない。作製できたのは何台だ?」
「はい。昨日までの報告で八一台」
まだまだだな、とエイリ=アマフは重いため息をついた。
「今コナハトに攻め込まれたならひとたまりもない。コナハトの動きは?」
「女王レアルトラは東ムーマ攻略の準備を命令しましたが、軍の動きは鈍いままです。かの国は未だ様々な面で混乱したままですし、東ムーマはラギンの勢力圏。それに何より『導く者』が……」
コナハトの「導く者」がムーマに対して同情的であり、その処遇改善やムーマとの和平を常々訴えていることは子供でも知っている話だった。そして「導く者」の和平案がコナハト国内で徐々に賛同者を増やしていることも、エイリ=アマフ達は把握している。
「我々にとっては唯一最大の希望だな」
エイリ=アマフからすれば西ムーマが返ってくるのならどれほど過酷な条件だろうと飛びつかないわけがないのに、その条件が「ゲアルヘームの首級」なのだ。
「呑むに決まっているだろう、そんなもの」
と彼は剣呑な光を眼に宿した。ゲアルヘームとその取り巻きを拘束してコナハトに差し出す――それはもうエイリ=アマフの中で決定事項となっている。後はそれを何時やるかだ。
一方のゲアルヘームだが、彼もまたコナハトの動き、エイリ=アマフの動き、その両方を把握している。
「国王はコナハトに屈したのだ! 何が和平だ、我々の首を差し出して歓心を買おうなどと……!」
「あの若造は一時の安寧のためにコナハトに臣従しようとしている。我々のように真にムーマの行く末を憂う愛国者は邪魔なのだろうよ」
「一体だれが今までこの国を支えてきたと思っているのだ! 我々が身を粉にして尽くしてきたからこそムーマは大陸を制することができたのだろうが!」
ゲアルヘームの取り巻き達は口々にそんな妄言を吐き出した……酒精を含んだ息とともに。
エイリ=アマフの名声が上がるのと反比例し、ゲアルヘームとその一派の勢力は凋落した。エイリ=アマフがコナハトへの対抗手段を作り出し、彼がムーマの希望の星となる。コナハトを憎む者、祖国を救わんとする者がまずエイリ=アマフの下に集まり、権力の潮流に目ざとい者がそれに続いた。
「今は国王派が不利でも近いうちに逆転する。早く動けばそれだけ国王に重用されるだろう」
この二年エイリ=アマフが身を削って戦い反撃の糸口をつかんだのに対し、ゲアルヘームとその一派は酒と過去の栄光と妄想に耽溺していただけ。意味のあることは何一つしてこなかったのだ。まともな人間なら誰だって彼を見限り、エイリ=アマフの下へと走るに決まっている。その流れは止まらずに加速し、
「ゲアルヘームはもう駄目だ、あれと心中するなんてゴメンだ」
保身第一の面々もついにはゲアルヘームを見捨てて逃げ出した。彼の下に残ったのは鉄杖党幹部として知られているため逃げようがない者ばかりである。
「……しかし、どうするのだ。ここまで追い詰められては」
「ウラドに亡命してかの地で捲土重来を図るしか」
などとこそこそと相談する取り巻き達。ゲアルヘームは亡命を視野に入れつつも、
「あれを使うぞ。水ネズミどもに我等が真の力を思い知らせてやるのだ」
決然と告げられたその言葉に、即座に賛同した者はいなかった。
「しかしあれは……」
「コナハトを混乱させ、弱体化させる。その間にあの若造から権限を奪って我々の手でムーマを再生するのだ」
なおもためらう部下に対してゲアルヘームがくり返し命令を下す。ゲアルヘームのその決断はその日のうちに実行へと移された。
場所は王都クルアハン、ときはナ=ノラグの月(第二月)が中旬に入ろうとする頃。
時刻は既に深夜近いが、書類を持った文官が列を作っていたのはつい先ほどまでだ。ようやくそれが途絶えて、力尽きたレアルトラは執務室の机に突っ伏していた。何時間も前に淹れてもらった急須のお茶はすっかり冷めているが、メイドに交換を命じる気力もない。ともかく今は早くベッドに潜り込みたかった。
「でも、東ムーマにどう対処するかを早く決めないと」
軍には動員を命じているが準備は遅々として進まない。それをいいことに決断を先延ばしとしていたレアルトラだが、それもそろそろ限界だった。
東ムーマに侵攻してベン=バルベンを落城させ、ゲアルヘームやエイリ=アマフを処刑する。将軍のほとんど全員がそれを主張し、レアルトラもできることならそうしたいと思っている。その一方で、ゲアルヘームの首級を条件にエイリ=アマフと和平を結ぶべきという主張もあり、その筆頭は言うまでもなく七斗。それに文官の少なくない数がそれに賛同していた。アルデイリムもまた消極的ではあるが七斗の賛同者の一人である。
レアルトラでもそれは無視できないのが、東ムーマ侵攻をためらう理由のまず一つ。もう一つは、ラギンとの関係だった。東ムーマは協定により定められたラギンの勢力圏内であり、そこへの侵攻はラギンへの宣戦布告とほぼ同義だった。
もちろん、西ムーマ駐留のイフラーン軍へと攻撃を仕掛けてきたのはエイリ=アマフ軍が先である。それを理由に東ムーマに侵攻しても問題はない(とコナハト的には堂々と言える)のだが、ラギンの立場はまた別だった。
「コナハト軍は何の罪もない西ムーマ市民を捕まえて断種して奴隷にするなど、無法の限りを尽くしている。我々の戦いは同胞を救うためのものである」
エイリ=アマフはそのように宣言して軍を動かし、ラギン国王ブライムはその行動を一切掣肘しなかった。さらにはブライムの使者が密かに七斗やジェイラナッハやアルデイリムに接触し、コナハトと東ムーマの和平を仲裁しようとしている。提示された和平案は七斗のそれと大筋では同じものだった。
それを無視して東ムーマへと侵攻するのはブライムの顔に唾を吐きかけるようなものである。ラギンには窮地を救われた恩義もあり、それもまたレアルトラの行動を縛っていた。
「わたしの代でコナハトの評価を損なうわけにはいきません」
歴史的に見て、コナハトは「一度交わした約束は破らない」という評価がある。もちろんこれまで結ばれた条約や協定の全てを必ず守ってきたわけではないが、少なくとも歴代の国王はこれを守るべく努力してきたのだ。なおラギンには「コナハトに次いで約束は守る国だ」という評価があり、ウラドは「約束をあまり守らない」と言われている。そしてムーマは「約束を守ったことがない」国だった。ブレスはその生涯の中でコナハトとの間に交わされた協定や条約をただの一つも守らず、全て破ってきたが、ムーマはブレス以前からそういう国だと思われており、またそれだけの実績もあるのである。
二五〇〇年に渡って積み重ねられてきた「律義者」という評価はコナハトにとって何物にも代えがたい財産だ。軽率な判断でそれを毀損するわけにはいかなかった。
「そうなると侵攻を一旦中止して和平案を検討するしかなくなるのですが……」
和平など受けたくはない、東ムーマのムーマ人を皆殺しにしてやりたい――その思いは強くある。だが欲するものの全ては手に入らず、どこかで妥協するしかないこともまたよく判っていた。その妥協点として「ゲアルヘームを筆頭とする鉄杖党幹部の首級」というのは決して悪くはない条件だ、ということも。
「ゲアルヘームの首級を父上の墓前に添えて、国王エイリ=アマフと和平を結び、西ムーマから将軍イフラーンを撤退させて、大将軍ジェイラナッハを始めとする各将軍に領国を与えて自治をさせて、モイ=トゥラ全土にまともな統治を行き渡させる……」
それはレアルトラの本当の望みとは大きく違う未来図だ。だが最も現実に即した、最も血の流れない未来図だった。受け容れがたい、受け容れたくはない、だが受け容れるしかない……レアルトラの理性は感情を抑え込み、勝利を収めようとしていた。七斗やエイリ=アマフ、ブライムにとっての勝利もまた目前だった――だが。
「陛下! 陛下! アスローンより緊急の入電です! ムーマが、ムーマが……!」
扉を蹴破るようにして、ノックも何もなしで飛び込んできたのは将軍の一人だ。眉をひそめるレアルトラに対し、激情に舌をもつれさせた彼がそれを報告するのに多少の時間が必要だった。
「リール湖に無断侵入したムーマの軍船を、水軍が拘束。ですがその前に、その軍船は積載していた雪イナゴをばらまいたと……!」
レアルトラが思わず腰を浮かし、その拍子に急須が倒れて床へと落ちて粉々となる。それと同時に七斗の和平案もまた同じ姿となった。
避けられるはずだった戦争や流血は一人の愚人の暴挙により永遠の彼方へと去っていく。その代わりに姿を現したのは、大陸動乱の第二幕だった。




