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クロス企画~OverLappeD WorlD~  作者: 失木 各人
クロス『冷やし勇者始めました。』
6/6

魔王様、私の平穏な日常が行方不明です。

今回、『冷やし勇者始めました。』『ひきこもり☆days』の作者である、木野かなた さんよりご厚意でクロス小説をいただきました。

では、どうぞ。

木野かなた さん作、『魔王様、私の平穏な日常が行方不明です。』

 トントントン……、という小気味のよい音で目が覚めた。宿題をやりながら、眠ってしまっていたらしい。

 ふと階下から聞こえてくる、何気ない会話。

「……ありがとう、ツツジ。じゃあ野菜を切ってもらおうかな?」

「任せて、お兄ちゃん」

 心なごむ、会話だ。それを交わしているのが浅間躑躅と穂高理人でなければ、だったが。

 私の意識は急速に覚醒しーー、階段を音速で飛び降りる。

 向かう先はーー、台所。

 ターゲット、ロック・オン。ファイア。


 ごぉっ!!


 竜族にのみ顕現できる神火が、穂高家の台所ーー、ダイニングテーブルの真上を薙ぐ。

「みぎゃっ!!」

 ターゲットは煩悩を焼き尽くされ、ーーテーブルの脇へと落下する。ーーまだだ。まだ、ターゲットは沈黙していないーー。

「ーートドメっ!」

 跳躍し、旋回。回転エネルギーを載せた蹴りが、目標を捉える。

「ぎにゃあぁあ!? 兄さん、助けて!?」

 ターゲットが私の愛しい人にすがりつくーー、仕方ないので私は、攻撃を中断した。ーー不本意ながら。

「ツツジさんっ! 何をしているんです!?」

「あああ、あたしはただ、お兄ちゃんが夕飯を作るのを手伝っていただけよっ!」

 すかさず私は追撃する。

「……全裸で?」

「そうよ! 何が悪いの! この国にはね、兄の料理を手伝う妹は全裸でっていう法律があるの!」

「……な、何ですって? そうなんですか、理人さん!」

「じ、実はそうなんだ。知らなかっただろ、リリア」


 ーー状況を説明します。

 台所にはカレーの36種類のスパイスがかもしだす、胃袋を刺激する香りが漂っていました。そして、湯を張られた鍋では、中身の液体がぐつぐつと沸騰しています。ーー今もなお。

 そしてガスコンロの前には、真っ白な、シンプルなデザインのエプロンを付けた理人さんーー私の婚約者ですーーがいます。

 そして先ほどまでダイニングテーブルの上にいたのはーー

 へそに。

 ーーいえ、腹に刻んだ玉ねぎを、太ももに一口サイズのじゃがいもを、胸にあふれんばかりの牛肉を貼り付けた姿の、ツツジさんでした。ーーこれは裏切りです。こんな、こんなことが、許されていいはずがありませんっ!!

「……ニンジンがありません」

 私は、抑えた声で告げました。ーーそう。カレーを彩る、あの橙色が見当たらないのです。

「……あ、あたしは嫌って言ったのよ。でも、兄さんが……」

「……ゴメン、セールのニンジンが売り切れてて。……リリア。ニンジン無しのカレーは、いやかい?」

 私の胸を衝くものは、感情。

 ーーそう、これは愛しさ。

 私はこの人がーー、

「そんなはず、ないじゃありませんか。理人さんは、私の命の恩人でーー、何より、大切な人なんですよ? ……、そんな理人さんの作るカレー。……ニンジンが何ですか。そんなもの、なくたって、私はーー」

 私の顔が、ゆっくりと理人さんに近づいてゆく。私の髪が、理人さんにかかる。理人さんの香りーー。

「そこの女、兄さんから離れなさい」

 ヌンチャクを構えたツツジさんでした。

 ツツジさんは私を押し、理人さんから遠ざけようとします。

「兄さんはあたしのものなの。いい? 指一本触れないで」

「で……、でも」

 鍋の中身がぐつぐつとゆだっています。もう、半分ほどに減っていました。私はにこり、と微笑んでみせました。

「三人で夕飯を作りましょう」


   ◆


 日本。某所ーー、安アパート。

「……側近よ」

 目つきの鋭い人物が、言う。

「……はっ! 何でございましょう、魔王様」

 メガネの人物が答える。

「六畳間にファイヤードラゴンを召喚するのは、何か色々とやりすぎだったと思うのだ。」

「召喚してしまったものは仕方がありませんよ。返品不可なんですから」

 それもそうか、と魔王なる人物はつぶやく。

「……フ。この街を手始めにこのチキュウとやら、我々が頂いた。人間どもにはーー、塵にでもなってもらうとしよう」

「……ええ。……フフ、楽しみです」


 それは、よく晴れた日の夕方のことでした。私は理人さんと自転車に乗って、スーパーまで買い物に出かけたのです。するとーー

「ーーリリア、危ないっ!」

 急に理人さんが私の腕を引きました。バランスを崩した私の頭上を、火炎が吹きすぎゆきました。

「……な、何ですかっ!? 一体どうしーー」

 たのでしょう。スーパーの店の前には、象ほどの大きさの『竜』が、座っていたのです。

「竜……ですか。日本の竜というよりは、西洋のドラゴンのようですが」

 その時、ドラゴンの向こうに人影が見えました。黒い外套を着た、背の高い人物です。

「あの人はーー?」

「……フッ、このスーパーは我々が占拠した。返してほしければ、生け贄を用意するのだな」

 生け贄ーーですって?

「時代錯誤です。今どきどんな悪竜だって、生け贄だなんて」

 周囲では人々が逃げ出し、人の波が、私たちのほうにも押し寄せてきました。その中に、ふと、ーー目が合ったのです。小柄なおばあさんが他の人に押され、体勢を崩しました。その上に無情にも押し寄せる人の波ーー。

「おばあさんっ!」

 私は思わず叫んでいました。しかしその瞬間、予測も付かないことが起きたのです。

 白い光が視界を埋め尽くしました。

 ドラゴンが叫ぶ、耳障りな声がします。

「ーーっ!?」

 光が収まると、そこには、まっぷたつに両断されたドラゴンの体がありました。

「これはーー」

 そこにいるのは、長い剣を担いだ人物ーー。

「魔王! お前を倒すっ!!」

 そのまま、黒コートの人物に斬りかかります。

「り、理人さん、あれ」

「関わらない方がよさそうだ」


   ◆


「魔王、それがお前の望みだっていうのか!? 人間を滅ぼし、不毛の大地を手に入れるーーそれが本当にお前の望みなのか!?」

 長剣の人物が叫びます。

「仕方ないのだ、勇者よ。我の意思など関係ないーー、魔族は、長老たちはそうするつもりだ、というだけのこと」

「魔王、俺は知ってるんだ、本当のお前をーー、だから、やめろっ! こんなことは!」

「聞けぬな」

「魔王!」

 猛烈な風圧が私たちのところにまで押し寄せます。

「巻き込んですまない! だけど本当は、アイツは良い奴なんだーー!」

「……仕方ないな。手を貸そう」

 理人さんが言いました。

「アイツを何とかすればいいんだな?」

 こくり、と彼ーーいえ、彼女が頷きます。

「協力、感謝する。俺は勇者」

「穂高理人だ」

「いくぞっ!」

 二人が地面を蹴りました。

 《魔王》と呼ばれていた人物に飛びかかります。

 理人さんが陰陽術で生み出したナイフが、勇者、と名乗った人物の長剣が。

(私も手伝ったほうがいいのかしら)

 理人さんの生み出したナイフを《魔王》が避けた先を《勇者》の剣が狙います。

 激しい攻防は一進一退で、いつ終わるとも知れませんでした。

(理人さんーー)

 見ている私は、気が気ではありません。いつ理人さんがケガをするかもしれないと思うとーー。怖くて。

(理人さん)

 もし理人さんがいなくなってしまったら、私はどうすればいいんだろう。明日からどんな顔をして生きていけばいいんだろう。

「理人さんっ!!」

 着地の、タイミング。逃れ得ないその空間に向けて。私は竜の吐息を放っていました。


 キュボッ!

 奇妙な音がして、豪速で放たれた高温が、黒コートの男に迫ります。


「……あ"」

 呆然と、理人さんがうめきました。

 それもそのはず、スーパーの店舗の真ん中を、私のブレスは引き裂いたのですから。


   ◆


「……ごふっ、み、見事だ……、勇者よ。褒美にこれをやろう……」

 黒コートの人物は懐から何かを取り出しました。《勇者》が言います。

「これは……ニンジン?」

「……そう。ニンジン……、きんぴらごぼうにも欠かせない、ましてやコレの入っていないカレーなど木偶でくの坊も同然……、そう、ニンジンだ」

 私は思わず叫びました。

「ま、まさかあなたがスーパーのニンジンを買い占めていたんですかっ!」

 フ、と《魔王》は笑いました。

「……フフ、クッ、クククク……、ハーッハッハッハ!!!」

「そんな……、何てひどい……」

「……フッ、さらばだ、勇者よ。今宵はソレで作ったビーフシチューでも堪能するといい」

「まっ、魔王!? 死ぬな! 死ぬなーー! 海を一緒に見に行こうって約束したじゃないか! あの日の約束はどうなる!?」

 しかし、《魔王》はもう答えませんでした。……答えることが、できなかったのです。


   ◆


「お兄ちゃん」

 ツツジさんが理人さんにゆっくりと近づきます。

「何作ってるの?」

「ボンゴレカレーだよ」

「……あたしも、手伝ってあげる」

 言うなり、ツツジさんは服を脱ぎました。目にも止まらない早業です。日頃から鍛錬を積んでいないと、この速度で服を脱ぐなんてとても無理です。この子はただ者じゃありません。

「……兄さん。牛肉も玉ねぎもじゃがいもも、みぃんなあたしの上に載せて……ね、いいですよね?」

 ねだるように甘えた声。

「しょうがないなぁ。鍋に入れるまでだぞ?」

「うん、うん! 分かってるぅ。兄さん」

 だんだん呼吸が荒くなり、ツツジさんの目には恍惚とした……


 ガラリ。

「……何をしているんですか、ツツジさん」

「何って、兄さんが昼御飯を作っているから、手伝ってるの」

 裸の胸に牛肉を貼り付けながら、ツツジさんが答えます。

「……ど、どこが『手伝い』ですかっ! 明らかに邪魔をしています!!」

「兄さ~ん、リリアがいじめるの。助けてくれるよね?」

「ま、まあまあ、リリア。2人とも仲良く……」

 ガラリ。

「勇者登場、勇者推参、勇者参上! 大事なことなので三回言いました!」

「ゆ、勇者!?」

 理人さんの驚いた顔を横目に、勇者さんはずかずかと家に上がり込みました。靴を履いたままです。

「勇者、まず靴を脱げ、靴を」

 理人さんが言い、勇者は怪訝そうな顔をします。

「何故。」

「なんでって、家に上がる時は靴を脱ぐものだ」

「……そうか。そりゃすまん」

 靴を脱いだまま手に持った勇者さんは、そのまま台所に向かいます。

「おー! 俺の好きな料理だ。こりゃ何だ!」

 好きな料理なのに名前を知らないなんてことが果たしてあるのでしょうか。

「カレーだよ。食べていくかい?」

「いいのか? いいのか? よーし、食べちゃうぞー! ほら、魔王も早く来いよ。もちろん靴は脱いでな」

「ま、魔王……だって??」

 理人さんの声に緊張が混じります。

 それはそうです。昨日、死闘を繰り広げた相手なのですから……。

 ガラリ。

 黒コートの男が、玄関のドアから半分だけ顔をのぞかせました。

「……き、昨日はすまなかった……。

 こちらにも色々と事情というものがあってな。今日は世界征服をするつもりはないから安心するがいい」

 《今日は》って何ですか、魔王さん。

 頭と胸に包帯を巻き、片腕を吊っている姿が痛々しいです。

 私のブレスに焼かれて生きているなんて、運のいい方ですね。

「プレステとWii持って来たんだ! DDRダンス・ダンス・レボリューションで踊ろうぜ」

 言うなり、穂高家のテレビに線をつなぎ始める勇者さん。

「……私は昼寝をするのだ。邪魔立てすると貴様でもただではすまさぬぞ、勇者よ」

「イェーイ! 踊るぞ、踊るぞー!!」

 その時再び、玄関の戸がひらきました。

 息を切らした男の娘が立っています。

「……?」

 不思議に思う私の手に、菓子折りを押しつけて言います。

「す、すいませんっ! お世話になります! 魔界に帰るゲートが閉じてしまって……。次に帰れるのは半月後なんです。側近様が借りていたアパートはファイヤードラゴンの重みに耐えきれずに半壊してしまって……。袖触れ合うも他生の縁って、いいますよね。よろしくお願いします」

「……」

 絶句する私と、理人さん。

 向こうでは勇者さんがテレビの前で踊っています。ノリノリです。

 その脇では、黒コートの男が猫みたいに丸まって昼寝をしています。

 台所ではぐつぐつとボンゴレカレーのための湯が煮立っています。

 ああーー、魔王様。私の平穏な日常が行方不明です。


 ーーおしまい。

この場をお借りして、貴重な時間を割いてクロス小説を書いて頂いた木野かなたさんに感謝の意を表したいと思います。

木野かなたさん、今回は本当にありがとうございました。

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