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クロス企画~OverLappeD WorlD~  作者: 失木 各人
クロス『ぼーい・みーつ・えとせとら!』
1/6

前編(辺 鋭一 さん作)

この作品は、失木 各人さまの作品である『先生、俺の平穏な日常が行方不明です。』と、拙作『ぼーい・みーつ・えとせとら!』とのクロスオーバー作品となっております。

このお話の担当は、僭越ながら私、辺 鋭一が務めさせていただきます。


私自身このようなことは初めてですので緊張しておりますが、お楽しみいただければ幸いです。


 ●



「……ここが、指令のあった施設か……?」

「住所からすると、ここのはずですけど……」


 そんなことを話しながら、二人の男女――少年少女といったほうが正しいと思われるが――は目の前にある施設を見る。

 黒髪の少年はその手に持つ数枚の書類と目の前の光景を見比べ、少年の隣に立つ銀色の長髪がまぶしい少女はただ呆然としている。


「……理人(りひと)さん。この施設、なんだか私が想像していた物とだいぶ違うんですけど……」

「安心していいぞ、リリア。俺もたった今現実に裏切られたところだ」


 そんな二人が眺めている先には、とある施設があった。

 その施設は広大な敷地を有しており、その約三分の一は細かな砂が敷き詰められた広場になっていて、その他の敷地には何らかの建物が並んでいる。

 それらの建物のほとんどはコンクリート製の無機質な肌をさらしており、機能性を重視していることがよくわかる。

 さらにその敷地の周りは少年の背丈ほどの高さの同じくコンクリートの壁で囲まれており、さらに乗り越えることができないようにということなのか、かすれた緑色のネットがかなり高い位置まで張り巡らしてあり、それらが中と外を隔てるようにその存在を主張している。

 その代わりなのかはわからないが、壁の周りや建物のそこかしこに大きな木――桜や松などだと思われる――が植えられていたり、レンガで囲われた明らかに周囲と土質が違う地面――花壇が設置され、様々な色の花たちが咲き誇っている。

 そんな特徴あふれる施設は、明らかにその内部のみで一定以上の日常を過ごせるようになっている施設であり――






 ――要するに、ごく普通の学校だった。



   ●



 黒髪の少年、穂高(ほだか)・理人と銀髪の少女、リリア・フェレ・ヴィトシャが何故とある学校の前に立っているのかと言えば、一言で言うと任務の為だった。

 数日前、理人たちが所属する『国際自由宗教連盟(Li-Re)日本支部長野県北部管理部』に対して、『とある私営施設へとおもむき、その実情を視察・報告せよ』という指令がとある人(カティア・クリュチェフスカヤ)より下され、拒否権も与えられなかったためFAXで送られてきた資料を基に電車を乗り継いで(交通費が支給されなかったら別の手段(リリア)を使うつもりだったが)現地へおもむいた、と言う訳だ。


「……でも、本当にここなんでしょうか? 書類が間違っているという可能性は……?」

「いや、住所と施設名が一致しているし、間違ってはいないと思う。何より――」


 そういいながら、理人は右手で門を指し示す。


「――出迎えも来てる」


 その先には、いつの間にか一人の少年が立っていた。

 二人は顔を見合わせ頷き合い、そろってその少年に近づいていくと、その少年は二人に向かって会釈をし、


「ようこそ、我らが学び舎へ。僕はこの学校の二年生、雨水(うすい)影太(えいた)といいます。どうぞよろしく」


 そういって、手を差し出してきた。

 理人がその手を握り返すと、雨水は手を握ったままじっと理人の事を見つめて、


「……失礼ですが、お二人ともこちらの事情(・・・・・)にはお詳しいんですよね?」


 と問いかけてきた。

 その意味をすぐに察したのか、理人は一つ頷く。

 すると雨水も頷き返し、手を放すと二人に向かって言う。


「それではもう一度、今度は正式に挨拶させていただきます。僕はこの学園の生徒会兼人外相談所(仮称)の庶務職であり、『人間』の雨水・影太と言います。本日はお二方の御案内役を務めさせていただきますので、よろしくお願いします」



   ●



 雨水と名乗った少年――同年代ではあるが――に連れられて校舎内を見て回りながら、理人は自らに下された指令の内容を反復していた。


 ……『実情を観察・報告せよ』っていう堅苦しい文言ではあったけど、その実態は単なる関係作りだからなぁ。


 表向きの任務は額面通り『調査』だが、カティアさんによると本来の意味は『今まで関係を持っていなかった団体との間に架け橋をつくるきっかけ』としての接触らしい。

 なんでも、世界中に同様の設備を持つこの施設はかなり特殊な物らしく、そことLi-Reが関係を持つことで何らかの利点を得ようともくろんでいるとの事だ。

 最初は俺も半信半疑だったけど、実際に見て、内部に入ってみれば信じざるを得なくなった。


「リリア、わかるか?」

「はい。なるべく隠しているみたいですけど、数が多いのではっきりとわかります……」

「……だよな。ここまで集まると、一つ一つは小さくても隠しきれない」


 そう、入った瞬間から肌で感じてしまう、温度を持った圧力のようなものを、俺たちは日常的に知っている。

 そしてそれが、どういう場合に現れる物なのかも。


「……さすが、本職の方は違いますね。誰にも会わずに気配だけでわかりますか」


 雨水さんは立ち止まり、振り向きながらそう言った。


「お気づきの通り、この学校には人間以外(・・・・)も在籍しています。その内訳は人間とそれ以外とでおおよそ6:4ぐらいですけどね」


 ……まあ、人間以外がいない学校の方が珍しいぐらいではあるけど、まさかこの規模で在籍している学校があるなんて思わないよなぁ……。


 そんなことを考えながら、俺は周りへの警戒を怠らない。

 時間的には放課後の直前であり、そのため廊下には誰もいない。

 聞こえるのはそれぞれの教室から聞こえる教師の声だけである。

 気配さえ無視してしまえば、内外から見た感じはごく普通の――それこそ自分たちが在籍しているような学校その物だ。

 それゆえに万が一にもそのようなことはないと思うけど、周りは陰陽師(じぶん)の敵だらけ。恨みを持った者が襲い掛かってこないとも限らない。


 ……本当に心配なのは俺の安全じゃなくて、この学校が灰にならないか何だけど……。


 そもそも、パイプ作りのためとはいえこの施設に自分たち二人が送り込まれたのにはいくつかの意味がある。


 一つ目は、役職があっていたから。

 今回の任務の大きな目的(表向きの物だが)となっているのは、Li-Reが戸籍を管理できていない人外たちが多く在籍している施設に対し情報の開示を求める、という物。

 その職務の性質上、管理部が適任ということで俺たちが動くことになったのだ。


 ……まあ、建前でしかないけど……。


 二つ目は、役職のバランス。

 今回の任務において、裏の目的は交流のきっかけ作りなので、わざわざ上の役職の者が動くわけにもいかず、かといって下っ端に任せるわけにもいかない微妙な任務だ。

 その点、管理部の中でも特に仕事の無い暇な部署の、しかも部長という肩書きを持った自分が適任だと判断されたのだろう。

 それに伴い、相手方も一つの施設を管理する長――自分たちで言えば部長クラスをあてがってきたとはいえ、世界中に点在する相手方の施設の、大元たる拠点がここ日本である以上こちらの受ける利点は大きい。


 ……まあ、その分警戒される可能性も高くなるわけだけど……。


 そして、自分たちがここに送り込まれた理由の三つ目が、自分のとなりを歩く少女(リリア)の存在である。

 彼女はその可憐で美しく、はかなげな(異論は一切認めない)見た目に反して、強大な力を持つドラゴンであり、その能力は普通の生物と比べてもけた違いだ。

 それ故に生存能力も高く、万一の時にも確実に生還できるだけの実力があることは明白であり、それ故に危険な任務に出しても安心だと思われている。

 それ故に、カティアさんも俺たちがここに来ることを許可したのだろう。


 ……本人には絶対聞かせられないけど……。


 正直あまり聞いていて愉快な話ではないが、正論でもあるため表だって意見をいう事も出来ないのが現状だ。

 そして何より、もしその万が一が起きてしまった場合、リリアが考えるのはまず『理人さんの安全を脅かす物の排除』であろうということが問題なのだ。

 そういう事態に発展してしまった場合、十中八九この学校は敷地丸ごと大穴になるか、良くて更地になってしまう。

 もちろん、そこで生き残れるのは当の本人と自分の二人だけだろう。


 ……さすがに普通の生徒もいるここで問題は起こせない……。


 そう考え、そういうそぶりがあったら自分だけで対応しようと心に決めていると、不意に『ガラガラ』という音が響き、すぐ前の部屋の扉が開いた。

 扉が開くということはそこに開けた人物がいるという事であり、当然その人物は扉をくぐって外に出てくる。

 だから、廊下を歩いている自分たちとその人物が鉢合わせになるのは当然の事であり――


「――ああ、こんにちは半月(なかづき)先輩。これから他校との合同練習ですか?」

「ん? ああ、庶務くんか。そうだ、これから部員たちを引き連れて少し離れた学校まで行ってくる。帰りは遅くなる予定だから、ここには帰ってこないでそのまま解散になるけどね」


 そう言って雨水さんと事務的な会話を始めたのは、ブレザータイプの制服に身を包んだ長身の女生徒だった。

 長い黒髪をゴムで束ねてポニーテールにした彼女は、その身の丈以上もある細い包みを背負ったまま、二三言目の前の知り合いと話した後、釣り目がちな瞳をこちらに向け、じっと見つめてきた。

 一瞬身構えた俺たちだったが、その視線に敵意がないのを感じると緊張を解き、黙って会釈をする。

 それに反応して彼女も軽く頭を下げ、それから雨水さんに別れを告げると、背筋をまっすぐ伸ばしたきれいな姿勢で自分たちが今来た方角――玄関に向かって歩いていく。

 それを黙って見つめていると、それに気が付いた雨水さんが声をかけてきた。


「彼女が気になりますか?」

「……ええ、まあ……」


 生返事を返してしまったが、わざとではない。

 なぜなら、彼女は――


「そんなに半月先輩の事が気になりますか? ……まあ、整った姿形であることは否定しませんけど、そんなに見つめていると隣の彼女に嫌われますよ?」

「……へっ!? ああいや、そういう訳ではなくて――」

「――理人さん? 浮気はメッ、ですよ?」

「いや、そうじゃないから。そういう意味で見てたんじゃないから! だからそんな怖い目で見ないでくださいお願いします!!」


 ハイライトの消えた目で俺を見ているリリアを何とか鎮め、余計なことを言ってくれた雨水さんを軽くにらみつつ、気になっていたことを尋ねる。


「……今の方、人間じゃないですよね?」

「やはり気が付いてましたか。そうです、彼女は人間ではなく、付喪神(つくもがみ)という種族です」


 ……やっぱり、人間じゃない、か……。


 そう納得していると、横にいるリリアが俺の服の端を引っ張りながら、首をかしげて、


「理人さん。つくもがみって、なんですか?」


 と尋ねてきた。

 そう言えば、リリアは日本の妖怪について詳しくなかったな、と思い出しつつ、自分の頭の中にある情報をひっぱり出してくる。


「付喪神ってのは、場合によっては九十九神(つくもがみ)とも書く妖怪の一種で、要は長年使われ続けた物に魂が宿り、動くことができるようになったひとたちの事だ。付喪神という一つのくくりにはなっているけど、その実態は元となる物によって違うから、共通点は『元は物だった』っていうことぐらいだな」

「……つまり、彼女は何らかの物、と言う訳ですか?」


 リリアに対して知識を分け与えていると、それを目を細めてみていた雨水さんが、


「その認識で間違いありません。……さらに情報を付け加えると、彼女――半月(なかづき)・ゆみ先輩は長年使われてきた弓の付喪神です。ちなみに弓道部の主将でもあります」

「……弓道部の主将を弓が務める、か。変な感じだけど理にかなっているな……」


 さぞかし良い腕なんだろうなと考えていると、それを察知したのか雨水さんがまた口を開く。






「……ああ、ちなみに彼女の弓の腕はそこまでじゃありません。ぶっちゃけそこらの人間と同レベルです」





「――え、なんで!? だって彼女は――」


 あまりの事実に驚き過ぎている俺に、雨水さんは諭すように語りかけてくる。


「……良いですか? 彼女は確かに弓ですけど、だからと言って弓を扱うのが得意と言う訳ではないんです」


 淡々と、雨水さんは俺たちに向かって告げる。


「考えてもみてください。彼女は弓で、自らが使われることには慣れています。ですが反面、使う事には慣れていないんです」


 当然の事です、と雨水さんは続け、


「彼女は確かに長年、弓の名人によって大切に使われ続けてきました。だからああやって完全な付喪神になれたんですからね。……しかし、自分が他人に使われるのと、自分が弓を使うのとでは意味が大きく違います。多少知識は有るでしょうけど、それ以外は本人の資質と努力次第です。――まあ、彼女はこの学校に来て弓道を始めましたから、もっと練習すればそれだけ上手くなるでしょうけどね」


 なんとなく納得しがたい事実ではあったが、そう言われると納得してしまうしかなかった。

 そういう物なのか、と感心しつつ、彼女が歩いて行った方向を呆然と眺めていると、信じられないつぶやきが雨水さんの口から放たれた。





「……まあ、彼女の場合剣兼部している射撃部での活躍の方が目覚ましいんですけどね」





「――弓なのに射撃やってるの!?」


 ほとんど初対面にもかかわらず全力で突っ込んでしまったことにすぐさま気が付き謝罪の言葉を述べたが、雨水さんは笑って『気にしないでいいですよ』と告げ、


「彼女はつい最近まで弓として使われ、矢を放たれ続けてきました。――だからでしょうね。彼女が今の肉体を得て最初に思ったことは、『自分も何かを使って物を放ちたい』という物だったそうです」

「……………………」


 思わず無言を返してしまったが、それでも雨水さんは言葉を放ち続けた。


「だから、彼女はこの学校に来てすぐに『器具を使って物を打ち出す系』の部活動を片っ端から見学し、そして今の弓道部と射撃部の兼部に落ち着いたそうです」


 それこそ流鏑馬からスリングショットまでいろいろ試してみたそうです、と多少の呆れが混ざった声で言いながら、


「まあ、彼女は彼女なりに楽しんでいるようですし、遠征にも弓に戻って事情を知る他の部員に持って行ってもらえば交通費も浮きますから、いいことづくめですしね」

「……良いんですか、それ。そんなタダ乗りを斡旋するようなことを……」

「そもそもが物ですし、本人が気にしないなら構わないでしょう。そこで浮いたお金も後輩たちの打ち上げ費用に回しているそうですし、我々もそこまで目くじらを立てたりはしませんよ」


 さあ行きましょう、と自分たちを促す雨水さんに連れられて、俺たちは先に進んで行った。



   ●



 階段を上って校舎の三階へとたどり着いたとき先行して歩いていた雨水さんはふとリリアの方を見て、


「……そう言えば、ヴィトシャさんの種族はドラゴンでしたよね?」

「私ですか? ああはい、そうですけど……」


 いきなりの質問にリリアが戸惑いながらも答えると、雨水さんはその戸惑いに気が付いたのか、


「ああ、別に大したことじゃありません。ただ、この学校にも龍がいたな、ということを思い出しただけで……」

「え!? ここにも私と同じ方がいるんですか!?」


 思わぬ同胞の情報に雨水さんへと詰め寄るリリアだったが、当の雨水さんは若干あわてながら、


「いえいえ、そうじゃないです。この学校にいるのはあくまで龍で、ドラゴンじゃありません」

「……? 何が違うんですか? どっちも同じなんじゃ……」


 何が何だかわからなくて混乱しているリリアもかわいいなぁ、なんて思いながら、俺は助け船を出すことにする。


「雨水さん。この学校にいるのは東洋龍なんですよね?」

「ええ、そうです。なので彼女とは種族が少しだけ違います」


 やっぱりそうか、と納得していると、いまだに状況をきちんと飲みこめていない様子のリリアが首をかしげつつ俺の顔を見ている。

 ふと雨水さんの方を伺うが、『説明はお任せします』というような視線を向けてきたため一つ頷き、リリアと目を合わせると口を開く。


「いいかリリア。まず前提として、龍には西洋龍と東洋龍と呼ばれる二種類が存在するんだ」

「二種類?」

「そう。そして、リリアみたいに大きな翼があり、手足が比較的しっかりしていて、口からブレスを吐いたりするのが西洋龍と呼ばれる。一般的にドラゴンと言えばこっちの事を指すことが多い」

「……じゃあ、東洋龍は……」

「東洋龍の方は、全体的に蛇のように体が長く、腕も体に対して短めだ。所によっては水神さまとしてまつられていることもあるように、水を司る生き物だな」


 そうですね、と俺の言葉を引き継ぐように雨水さんが口を開き、


「この学校にいる龍――水宮(すいぐう) 辰己(たつき)さんもその性質を色濃く持ち合わせていて、水を操る能力を持っています」

「水を操るんですか!? だったら一度お会いしてみたいです!」


 水を操る、という情報を聞いたとたんにリリアは興奮し始めた。


 ……ああ、そう言えばリリアのお父さんもそんな能力を持ってるって言ってたっけ……。


 そういう点で親近感を持ったのかもしれないな、と考えていると、会いたいという希望を出された雨水さんは困ったような表情を見せた。


「……会いたいですか? 本当に?」

「俺たちがその人に会うのは、立場上まずいですか?」


 一応は部外者である俺たちが一般(?)生徒とかかわりを持つのはまずかったのではないかと思い尋ねてみるが、


「いえ、当人同士が了承していればそれは問題ないんですけど、できればやめておいた方がいいと思います」

「どうしてですか!? 問題がないのなら会ってもいい――」

「――対面的には問題ないですけど、彼の性格的に問題があるんです」


 ……性格的な問題? 他のドラゴンを見ると問答無用で攻撃してくる危険思考の持ち主なのか?


 もしそうなったら怪獣大戦争が勃発するんだろうな、と半分あきらめながら考えていると、雨水さんは少し悩みながら、


「……別に、今すぐ何とかしなければいけないような危ない性格ではないんです。むしろ温和というか、争いの類は好まない優秀な生徒です。……ただ一点を除けば」


 と言った。

 その表情は何とも言えない物であり、できれば言いたくないという感情がありありと見て取れた。

 ならば聞かないでいようと考えたが、当のリリアは気になって気になって仕方がなかったらしく、


「その一点って、なんですか?」


 と尋ねてしまった。

 その質問に少しの間黙ってしまった雨水さんだったが、依然あきらめる様子なく自分の事を見つめ続けているリリアの熱心さに折れたのか、一つため息を吐いてから、


「――普通に人間として接する分には何の問題も無いんですけど、人外としての――龍としての彼と会うととんでもない目を見るんです。その人が水を操る能力を持っている、というのは言いましたよね?」

「ええ、私の知り合いにも同じようなことができる人がいるので、ぜひお会いしたいのですけど……」


 リリアのその言葉を聞いた瞬間に雨水さんが浮かべた嫌そうな表情を、俺は決して忘れないだろう。


「……まあそれはそれとして、その人が得意とするのは水を出したり自由に操作したりという事なんですけど、その事を尋ねると証明しようとしてあることをしてくるんです」

「水を扱えるということを証明するんだから……、水芸とか?」

「確かにそういう時もあるそうですけど、普通は扇子などを持ち歩いていないですから、何もなくともできるもっと手軽な証明方法を行うんです。……本人曰く、『秘技・口から華厳の滝』という技だそうで――」

「――ああ、もういいです大体わかりましたから」


 そのわかりやすい技名からその内容を察した俺はすぐさま話を止めることにした。

 いまだに意味がよくわかっていないリリアには後でマーライオンの画像を見せることにして、俺たちは先を急ぐことにする。


 ……さすがに、人が口からドパドパ水を出す画なんか見たくない。絶対別の物を想像するだろうし。


 それさえなければ普通のイケメンさんなんですけどねぇ……、としみじみつぶやく雨水さんの後について、俺と不思議そうに首をひねるリリアは歩いていく。

 ――そして、



「さて、ご足労頂きありがとうございます。ここで僕の上司にして生徒会の長、ひいてはこの学び舎の実質的な運営者でもある方が待っています」


 校舎の三階、その廊下の突き当りに有る引き戸の前で止まった雨水さんは、俺たちに向き直ってそう告げる。


「ここにおられる方は、見た目はともかく中身はかなり残念でうっかり属性持ちというかなりかわいそうな方ですが、そのあたりに触れられると泣いちゃいますのでご用心ください。……それではお二人の心の準備が整い次第会談をはじめさせて頂きたいと――」


 雨水さんの言葉の途中から扉の向こうでドタバタという音が聞こえ始め、話が終わりそうになったころいきなり扉が少しだけ開き、雨水さんは中から伸びてきた細い手に捕まれると勢いよく引っ張られて部屋の中へ呑み込まれてしまった。

 突然の事で呆然としている俺たちだったが、人ひとり呑み込んですぐに閉められた扉の向こうからはかすかに声が漏れ聞こえてくる。

 何がなんだかよくわからないままに耳を澄ませていると……、


『ちょっと雨水君、どういう事よ!? 今日はお客様が来るんだからそのキャラ抑えなさいってあれほどいっておいたでしょう!?』

『だから頑張って抑えてたじゃないですか。現にさっきまでは一度も毒吐いてませんでしたよ?』

『だったらもう少し頑張りなさいよ!! なんで生徒会室の前に立った瞬間に我慢が効かなくなるの!?』

『……だって、会長が近くにいるって思うと、どうしても自分を抑えきれなくて……!!』

『こういう状況じゃなくて雨水君が乙女だったらとっても映えるセリフだったんだけどねぇ!!』

『……そんなことより、お客様を待たせてますよ。いいんですか?』

『確かにダメなんだけどね! 元凶のあなたに言われるとは思わなかったわ……』


 なんだか聞いているだけで二人の上下関係がわからなくなってくるやり取りの後、静かに扉が開いて雨水さんが姿を現した。


「お見苦しい会長を見せてしまいましたね、すみません。――さあ、中へどうぞ」


 なんだか微妙に間違っている謝罪を受け、俺たちは招かれるままに生徒会室へ入っていく。

 するとそこには――


「こんにちは。そしてようこそ、我らが学び舎へ」


 腰までかかるほどに長く鮮やかな金髪をさらさらと流す、きれいな女の人がいた。


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