糸口
悪夢となった二回裏。
結局、一年生チームは計十三点を献上してしまった。
これで、十二対二十一。その差は九点。
作戦がガッチリ決まってくれた二回表ですら八点なのだ。ここから逆転できる可能性は低い。さらに、三回裏の守備。攻略法は見つかっていない。例え表で追いつけたとしても裏で引き離されるのは目に見えている。
まさに、絶望的と言える状況だった。
「意見のあるやつ、いるか?」
たった三分の短い会議時間。
相田が皆に問うが、全員押し黙ってしまう。
「状況を整理するぞ。こちらの最高得点は八点だ。それに対して、相手は十三点。しかも現在の点差は九点だ。勝てる可能性はゼロに近いな」
「相田くん、そういうことは……」
「事実だろ。誰かが言わなきゃ始まらん。ここから逆転するためには、まず現実受け止めなきゃだろ」
「……」
言ってることは分かるが、簡単にそうですねと割り切れるものではない。
黒江の言っていた通りだ。その場限りの策でどうにかなる相手じゃなかった。相手は仮にも全国大会出場チーム。勝てると思う方がおかしかったのかもしれない。
「スフレ。現在の問題点をあげろ。お前の役目だ」
「分かった……。まず、ここから逆転できる策がないこと。いくつかもしかしたら、という策はあるけど、あくまでもしかしたら、というものでしかない。確実に点が取れる方法はない。それから一番の問題は守備。おそらくは壮太先輩によるものと思われる、こちらの位置を正確に把握してくる印章。未だにその能力は分かっていない。対策として常に動き続けることなどが挙げられるが、根本的な解決になっていない。最後に、黒江部長の床歪みでフィールドが半減すること。あれのせいで逃げ場がなくなって、結果的にこれだけの点をとられた。相手に攻撃できない以上、あれを止める術はなく、三回の守備でもフィールドが半減した状態で守ることになると思われる。……こんなところだ」
「ふん。状況分析はちゃんとできてるな」
ふんと鼻を鳴らす相田はいつも通りの様子に見えるが、それ以上はなにも言わなかった。
「……」
会議の時間はあと一分半しかない。
状況が分かっているのか分かっていないのか、観客の一年生から「まだいけるよ!」とか、「みんなで頑張ればなんとかなるよ!」とかいう応援が響いてるがどうしようもない。
「みんなで頑張れって、もう頑張ってるよ……」
自然と、そんな言葉が出てしまう。
応援してくれてる一年生には申し訳ないが、起死回生の手など残っていない。
小学校の時から、大勢の力を合わせた時、すごい力が生まれるのは知っている。だから皆で頑張れ。その言葉は正しい。本当にそう思う。
けれど、実際問題としてこの四人の印章では打つ手などない。
それが現実だ。
「みんなで頑張る……?」
と、テルが呟いた。
「テル?」
聞き返すと、少し思案顔になって相田に質問する。
「ねえ、四星術って相手を傷つけさえしなければ攻撃を加えてもいいんだよね?」
「ん? その通りだが? だからこそあの金髪先輩の印章でも出場は可能となってる。下手したら誰かを殺す危険があるものだからな」
「じゃあ、逆言えば、相手を傷つける行為は絶対ダメってことだよね」
「そうだが……。なにを言ってる?」
テルは一言。
「聞いて。十点以上とれるかもしれない」




