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捧ぐ僕等のアルカディア  作者: 麦畑ライ
第一章 風吹く大地へ
5/5

1-5 旅支度

結局GW中に大して進められなかったです、無念。

今回はちょっと長めです。

 翌朝、まだ日も昇りきらぬ内に物音でセリルは目を覚ました。眠い目を擦って見れば茶髪の少女がいることに気付いて一瞬驚き、そして思い出す。もうここはあの森の家ではないのだ、と。


「……雷花、さん?」


「あはは、さんは要らないよ。おはよう、セリル」


 薄暗い部屋の中でも、その目の中の金色の光は瞬く星のような輝きを放っている。それに見惚れながら「おはよう」と小さく返す。

 森から出て一晩。未だにどこか現実感が薄く、気付けばあの家に戻っているのではないかとすら思う。そうしてまた、あの何もない日々を。


 だが、たった一日で知った様々なものが、そこに戻ることを拒ませる。無から有になる分にはいいが、有から無に戻るのは耐え難い。会話や食事の楽しさ、広い世界への興味。それらを知ったからには、先に進むしかないのだ。


「昨日は結局訊けませんでした、あの……私を森から連れ出したのは、なぜですか?」


 その問いに、雷花はしまったという顔をした。完全に説明を忘れていたのである。


「ごめん、話してなかったね……そうだ。朝ごはんまでまだ時間もあるし、身仕度しながら話そうか。まずは……その髪を整えなきゃね」


 初めて魔法を使ったときに巻き込んで切ってしまい、あちこちに段差のできた髪。寝起きで一層乱れたボサボサ頭は、森で初めて会ったとき感じた神秘性を遠くに追いやっていた。



 ベッドから離れた場所に大きな布を敷き、その上に椅子を置いてセリルを座らせまずは櫛で髪を梳かす。


「この世界で一番偉い神は二柱いて、どちらももう地上にはいない。でもその内一柱から力を貸して貰って、未来を見通して預言をもたらし人々を導く神がいてね。それが『統治神』で、今の世界の女王様……一番偉い神様の代わりってとこかな?」


 どれだけ簡単な言葉で表そうとしても、それ以上噛み砕くのが難しいものはある。しかしセリルならそのうちすぐに理解できるだろうと判断し、少し大雑把な説明を始める。

 白く細い絹糸のような髪は見た目よりも丈夫なようで、毛先から丁寧に梳かせば引っ掛かかることもなく元通りになっていく。真っ直ぐ素直な髪質を少し羨ましく思いながらも、一通り梳かし終えた髪を見て、どこで切り整えるべきかを確認して、鋏を取り出した。


「その統治神様からの命令でね。たしか……『復古の儀』だったかな? 大事な儀式をやるらしくて、巫女とそのお供……守護が二組必要なの。それで一組目に選ばれたのがあたしとアティスだったんだけど、『もう一人の巫女は帰らずの森にいる風の精霊である。先に決まった巫女が彼女を迎えに行かねばならない』って言われてさ。それで迎えに来たの」


「へえ……」


 シャキシャキと迷いなく余分な髪を切り落としながら、曖昧な説明をする。自身も巫女として選ばれた身ではあるが、だからといって詳しくはまだ聞いていない。お上のことはよくわからない、というのが雷花の正直な感想であった。


 一方セリルも、預言も儀式もよくわからないが、何かに必要とされたことはわかった。自分が森の外に出るきっかけとなったその『何か』に感謝しつつ、今の説明で引っ掛かったことがあった。


「私の……守護? は誰なんですか?」


「ああそれね。これから聖都って場所に向かうんだけど、そこで合流する予定なの。詳しくは聞いてないけど、北の方の村からやって来るらしいよ。私達が聖都につく頃には合流できるだろう、って」


 大雑把な指示だよねぇ、とぼやきながらも、髪を切り終えてもう一度櫛を通す。それから水で軽く洗い、水気を拭き取ってやると、赤と緑の石がはめ込まれた筒状の道具を取り出す。


「昨日も使ってましたけど、何なんですかそれ? 風が出るみたいですけど」


「ああ! 説明してなかったね、これは『乾風器』。魔石を動力に熱い風を出せる魔道具で、基本的には髪を乾かすのに使うの」


 そこまで言ってから、筒にはめ込まれた石を指差す。


「これが魔石。魔力の塊でね、赤なら火、緑なら風の属性って感じで色ごとに違ってて、加工するとこんな風に動力として使えるの。そういう道具の総称が『魔道具』ね」


「魔法を使えばいいんじゃないんですか?」


 その素朴な問いに、雷花は苦い顔で首を振る。


「……皆が皆、簡単に魔法を使えるわけじゃないの。人間は大体が魔術っていう手間がかかるものしか使えないし……精霊でも、あたしみたいに魔法がろくに使えないこともあるんだよ」


「……ごめんなさい」

 

 背後から聞こえる硬い声に、良くないことを言ってしまったと気付いたセリルは咄嗟に謝罪した。「いいの」と返ってきた声も、普段より少し暗い。


「こっちこそごめんね。悪気がないのはわかってるから……はい! 暗いのはやめやめ! 早く髪乾かしちゃおう!」


 魔石を指で叩き、ブオオと吹き出た熱風をかけながらセリルの頭をわしゃわしゃと撫でる。セリルがきゃあ、と笑いながらくすぐったさに足をぱたぱたさせている間に、あっという間に乾いた髪をまた梳かし、ふうと雷花は一息ついた。


「よしできた! やっぱり素材がいいからどうしたって可愛いね……ほら鏡見てみて」


 セリルを抱え上げて姿見の前に立たせ、その間に雷花は散髪の後始末をする。

 鏡というものを初めて見たセリルは最初こそ驚きつつも、すぐにそこに映っているのが自分であることを認識すると、くるりと回って髪の長さを確認する。森で暮らしていた頃はただ伸びきっただけの長過ぎる髪だったが、今は後ろが腰の辺りまでで、前と横は視界の邪魔にならない程度に切り整えられていた。


「どう? 気に入った?」


「はい! 軽くて良いです!」


 ニコニコとしている様子を見て一安心していたところに、部屋の扉がノックされる音が飛び込んでくる。


「雷花、セリル。もう起きてるか? 起きてるなら食堂に降りてきてくれ」


「はぁい、もうちょっと支度したら行くね」


 まだ早朝であるため、互いに声量を抑えてそんなやり取りをしてから、雷花は腰のポーチを探り始めた。随分深いところにしまったものを探しているのか、苦戦している様子である。


「……何探してるんですか?」


「ちょっと待ってね……うん……えーっとこれでなくて、えー……あった!」


 高く掲げられたその手に握られていたのは、艶のある緑色のリボン。それをセリルの左耳の近くで蝶結びにしてやってから再び鏡を見せる。


「前にお店のおまけでリボン貰ったことがあってさ、手元にあったからあげるよ。うん、よく似合うね!」


 セリルは自分の髪に結び付けられたそれを、しばし不思議そうな顔で見てから口を開いた。


「リボン……あの、これに何か、意味って?」


 「着飾る」ということを知らない者の、純粋な疑問。髪に細い布を結びつけた、それだけに見えるものに何か意味はあるのか?

 切って貰った髪もそうだった。わかるのは「軽くなった」ということだけで、毛先がガタガタでも整っていてもそれは見た目だけのこと。見た目が整っていないことを問題とすら認識していない。それは他の精霊や人間を見ることすらないまま長く生きてきた故の弊害であった。


 「綺麗」を知っていても、「可愛い」はわからない。そんな相手に「可愛い」や「格好いい」といった概念をどう教えれば良いのだろうか。自分がそれらを知ったのは果たしていつで、どのように理解したのだったのであろうか。


 雷花は数秒考えてから、好みというのは人の感覚によるもので、今言葉で教えるべきでないという結論に落ち着いた。この子は聡い。これから色々なものを見聞きしていけば、きっとすぐに人並みの感性を得ることができる。


「リボンはね、実用的な意味があって結ぶこともあるけど、これは飾るためだけのもの。あなたの目の色と似ていて綺麗で、可愛いから」


 そう言うと、セリルはわかっているような、いないような、そんな曖昧な笑みを浮かべる。その頭を一撫でしてから、雷花は僅かばかりの荷物をまとめて、二人で部屋を後にした。




 二人が一階の食堂に入ると、朝早くではあるがすでに他の宿泊客達が多く集まっていた。そんな中、アティスはすぐ目につく位置の席で茶を飲みながら待っていた。

 朝日に照らされ白金の髪が輝き、暗紅色の瞳を伏しがちにして上品な所作でカップを傾ける姿に、近くの客が男女問わずチラチラと目線を送っている。本人はそれらを全く気に留めず、やってきた待ち人にだけ反応する。


「来たか。それじゃ、これからの予定について話すぞ」


 そう言うと羊皮紙の地図を広げ、右隅の紋章に指を押し当てる。そこから魔力が流れ、地図の一部に点々と光を灯す。


「この赤い所が現在地、メジ村だ。そして目的地の聖都がこの白い所、ここから見て西南西に六十ソベクラ(キロメートル)ってところだな」


 地図に描かれているのはガタガタとした円形に近い地形の大きな島、その中心が白く光っており、そこから右上に赤い光がある。

 

「行きは一晩と少しで着いたが、今度はセリルもいるし、雷花の脚も全快とはいかないだろう? 大事をとって、聖都到着予定は三日後。まず今日はここの森の手前にある泉の近くで一度野宿しよう」


 そう言って指差した場所は、メジ村から少し離れた場所から聖都の北側まで大きく広がる森の手前。距離は十五キロメートル弱であった。

 

「ここら辺は魔物も殆ど出ないし、こんなの普通に歩いたって三時間ちょっと、休憩入れても五時間かからないくらいでしょ? 流石に野宿するには近すぎるというかさぁ」


 異論を唱えようとする雷花に対し、「いやいやいや」と呟きながらアティスは首を振る。


「お前、大事なことを忘れてるだろ? セリルには靴も武器も鞄も、替えの服すらないんだぞ。一通り買ってやらなきゃ駄目だろうが……!」


「なっ……そ、そうだった……!」


 髪を切ってリボンまで結んでやっているのに、どうしてそんなことを失念していたのだろうか。盲点だったと頭を抱える幼馴染みに呆れた目を向けつつ、アティスは続ける。


「とにかく、今日はまず一通りこの村でセリルの旅支度をして、それからここまで歩く。それでいいな?」


 問いかけに「はぁい」と答える声二つ、それでこの話し合いは終了した。退室の手続きを済ませて宿を出れば、既に宿の前の通りには露店が並んで賑わいを見せ始めていた。

 朝早くから活動し、日が沈んできたらもう外での仕事は終いとする。それがこの世界における一般的な暮らしであった。メジ村のように特筆すべきところのない小さな村であれば尚更のこと。



「さて、まずは靴だな。……お、あそこか」


 娯楽や魔術開発といった室内での仕事が多い都会と違い、農業や漁業、狩猟といった外での仕事がメインとなる田舎の村では、丈夫な革の靴や手袋、鞄といった実用品の需要は高い。それ故に革の加工品を扱う店は、どこの村でも大抵一ヶ所は存在している。

 そういった店は経営にそれなりに余裕があり、きちんと店舗を持っているものだが、泥を落とす手間すら惜しむせっかちな労働者に合わせ、工房の新人や跡取り予定の子供に露店を出させていることがある。メジ村の革屋もその一つであった。


 食べ物屋が集まっている辺りから少し離れた場所に、黄色くて見るからにごわごわと粗い絨毯。「革屋」と書かれた木の小さな作業台に頬杖をついているのは、見た目でいえばセリル以上雷花未満くらいの年齢に見える人間の子供であった。やる気のなさげなその少年のところに向かい、アティスが軽く会釈してから声をかける。


「失礼。旅用の靴と鞄が欲しいんだが」


「あァお客さん? わりィけどウチの親父が今腰悪くしててよォ、在庫もねェし、すぐに用意できンのはオレが作れるモンしかねェよォ、オレ大きいモン作るのは苦手でサァ」


 マメだらけの手をヒラヒラさせながら、店番の少年は気だるそうに言う。その手を一瞥して、アティスはセリルを手で示しながら続ける。


「大きい物は苦手か。ならこの子の使うものなら大丈夫じゃないか」


 ほら、と促されて少年の前に出たセリル。彼女と目が合った途端、眠そうだった少年の目が見開かれる。それから、あ、え、と意味のない声を少し漏らしてから一つ咳払いをすると、彼は凛とした顔つきで頷いた。


「おう。このお嬢さんのための靴と鞄、オレが全身全霊かつ速攻で作ってやらァよ。そんじゃお嬢さん、ちょっとここに足を乗せてくれ」


 そう言って少年が敷いたのは、大きな円を中心として複雑な模様が描かれた羊皮紙だった。言われるままにセリルが円の中に足を乗せると、そこから緑色の光が全体に広がって、用紙の各所にあった空欄に文字や数字が浮かび上がっていく。


「こいつァ靴採寸用の魔術具、踏むだけで靴作りに必要な情報が全部わかるのさ。手間も金もかかるが、正確さと作業のしやすさは天下一! まだこのくらいの大きさしか作れンとは言え、これ作れる奴ァここらじゃ親父とオレだけよ」


「おお……その歳でこの術をこんな精度で書けるのか!? 君、将来は間違いなく大成するぞ」


 手製の魔術具のことを自慢げに語る少年。しかしそれを褒めてほしいのであろう相手にはいまいち伝わっておらず、代わりに魔術への造詣の深いアティスが心底感心した様子である。

 そのことにがっかりしたような、しかし褒められて照れ臭いような、そんな複雑な顔をしつつ、少年は魔術具に刻まれた緑の文字をじっと見ていた。それから数秒後に口を開く。


「よし、じゃあ六……いや、四時間だ。四時間経ったらまたここに来てくれ。丈夫なヤツ作ってやらァ」


「はい、よろしくお願いします」


 靴と鞄を作るにしては相当に短い待ち時間。それを自信満々に提示した少年に対し、雷花達は少しばかり不安を覚えたが、所要時間の目安など知らないセリルは何の疑いも持たずにニコリと微笑んで仕事を任せた。途端に少年は顔を赤くしながらプイと顔を反らし、慌てて仕事道具を作業台の上に広げ始める。その様子を微笑ましく思いながら、アティス率いる一行はその場を離れた。



 元々の想定より短いとはいえ、四時間もあれば必要なものは容易く揃う。


 次に訪れたのは仕立屋であった。上等なものはオーダーメイドする必要があるが、需要が多く単純な造りで良いものは新人の練習も兼ねて在庫として作り置きされているものだ。汚しやすく傷みやすい子供サイズの簡素な服は、紐である程度体型に合わせて調整できるものが店頭に何種類か並べられていた。

 着替え数着に加え、セリルには少し大きいサイズの白いフードマントを購入して店を出る。ローブは早速セリルに着せて、他の着替えはアティスが自身のローブの内側から取り出した手提げ袋にしまった。彼はセリルの姿をじっと見てから再びローブの内側を探り、そこから取り出したものをセリルのマントの襟元に付けてやった。


「これは……?」


 緑色の丸い宝石が填められた、銀のブローチ。二つがチェーンで繋がり、マントの開きを跨ぐように留められていた。


「俺の家で扱ってる……まあ、ちょっとしたお守りだな。旅の無事を祈って外套に付けるんだ。似合ってるよ」


「へえ……ありがとうございます!」


 旅の無事を祈る、ということはよくわかっていないが、単純に綺麗なブローチを気に入ったセリルは嬉しそうに笑う。その様子を見てアティスも満足げに微笑んでいた。


 そのブローチが本来どれだけの額で取引されるものかを知っている雷花だけは、そんな二人のやりとりを冷や汗を垂らしながら眺めていたのだった。



 それから干し肉や硬パンといった食料を買い、途中で露店の串焼きをつまんで休憩し、最後に訪れたのは武器屋だった。


「防御はもっぱら魔法や魔道具でするものだし、そもそも避けるのが一番だが……武器はないと困るからな。聞いてた様子だと、セリルは魔法攻撃が得意そうだから護身用の短剣とあとは杖を──」


 そこまで言ったところで、アティスが見たもの。それは、身の丈の半分以上の長さの細身の剣を抱えて目を輝かせているセリルの姿であった。


「これがいいです」


 いつになくはっきりとして迷いのない主張。だが武器というのは扱えねば意味がない。


「セリルにその剣はまだちょっと早すぎるんじゃないかな……ほら、重たくて抜けなかったりしたら意味ないしさ。ね?」


 雷花はやんわりと別のものを選ばせようとしたが、セリルは笑顔で首を振る。それから慣れた手付きで剣を構え、器用に素早く抜くと数回振って見せた。それは明らかに剣を扱ったことのある者の動きであった。無意識に身体強化を扱っているのか、剣を重たいと感じている様子も全くない。


「……どこで学んだんだ」


 呆れ半分でぽつりとアティスは呟く。だがそれも今に始まったことではないし、考えようにも情報が足りなさすぎる。疑問は一旦水に流し、本人の望み通りの長剣と、護身や細工用の短剣を買い与えて店を後にした。



 大体の買い物が終わり、あとはあの革屋に戻って靴と鞄が出来上がるのを待つだけ。店の主人がおまけにくれたタスキを使って剣を背中に背負い、セリルは鼻歌混じりに歩く。


「院のチビ共も剣を初めて貰ったらこんな感じだったよな。知識関係なく子供共通のことなのか……?」


「うーん、短剣持っただけでベソかきそうになる大人しい子もいたしなぁ。ま、個性でしょ」


 保護者二人の思考を放り投げた会話もそこそこに、一行は再び革屋の露店に戻ってきた。あれから四時間弱といったところだったが、アティスと雷花は正直なところまだ時間がかかるだろうと思っていた。


 しかし、革屋の少年は仕事を終えていた。疲れを滲ませた、それでいて自信たっぷりの顔で一行を迎えると、完成した靴と鞄を取り出した。


「オレ史上最ッ高の出来さァ……鞄は空間歪曲仕様、靴はお嬢さんが急にデカくなんねェ限り、成長しても履き続けられるように自動調整機能付きよ」


 その言葉に一番に反応したのはやはりアティスであった。すぐさま鞄と靴を凝視しぶつぶつと何事かを呟いて、何かに納得すると今度は少年の手を包むように握り、鬼気迫る表情で詰め寄る。


「君、名前は」


「カ、カシュー……カシュー・メジ」


「そうか。率直に言って、君の技術はもう聖都でも通用するレベルだ。大きい物は苦手と言っていたが、これなら無理に克服しようとするより小さい物に特化した方が間違いなく強みになる。良かったらウチに来ないか、というか来てほしい。我が家の者達も君のような鬼才は大歓迎だろう」


 早口に捲し立ててから、少年の手にお代として金貨数枚を乗せる。その様子に、少年だけでなくセリルと雷花も呆気に取られていた。ふと我に返って「いやこんなに取れねェって!」と叫ぶ少年に、指を突きつけながらアティスは言う。


「君自身の矜持だとかは関係ない。君のこの仕事には、それぐらいの価値を払わねば不当だ」


 低い声でそう言ってから、「あ」と気の抜けた声を出すと、ローブの内側から取り出した紙片に魔力を用いてさらさらと文字を書き、少年の前に差し出す。


「もし聖都で仕事をしたいと思ったなら、良ければここに連絡してくれ。全力で支援しよう」


 それでは、と立ち去るアティスを追い、セリル達も礼を言ってから慌てて去っていく。しばし呆然としていた革屋の少年改めカシューは、取り敢えず金貨を懐にしまってから紙片をつまみ上げて、そこに書かれた名前と住所を見て……そのまま、気絶した。




 そんなことはさておき、旅支度を追えた三人はいよいよ村を後にしようとしていた。


「さあ、ここから暫く歩くぞ。心の準備は良いか?」


「ま、途中までは安全な道だし平気だよ。セリルは?」


「大丈夫です、頑張ります!」


 髪に結ばれた緑のリボン、真っ白なマントに銀のブローチ、腰には小さな鞄を提げ、足元は新品ピカピカのショートブーツ。元から着ていたワンピース以外はどれも真新しいものを身に付けたセリルは、両手を胸の前でぐっと握って答える。気合い充分なその様子を見て他の二人も頷くと、一行は村の外へと足を踏み出した。


雰囲気だけの独自単位が出ましたが、名称が違うだけで数字自体は現実のそれと変わりありません。別に重要なことではないので……。


今回は距離の単位が出ました。

1ソベクラ=1km

1ベクラ=1m

「ベクラ」がメートルで、「ソ」がキロといった感じです。略して喋るときは「1ソベ」となったり。覚える必要は特にないです。


今後も作中世界における独自単位が出ることが度々あるとは思いますが、分かりやすさ重視のため地の文では現実の単位での表記、台詞内で独自単位が出た場合は現実の単位をルビで記載する方針です。


ここまで読んでいただきありがとうございました、次回もよろしくお願いいたします!

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