噂のエル・ドラド 18
「……えーと、そうですね……乱読家なので何でも読みますが……神宮院に入る前は、ロマンスや冒険譚が好きでした。」
「なるほど。そういった本は神宮院には少なかったでしょうね。」
宰相は苦笑してから仰った。
「とりあえず産業関連の書物を準備しておくよう申し付けてあります。それ以外にも興味のある本は何でも出してくれることになっています。貸し出しの手続きも済んでいますので、ご随意に選んでください。」
「……お借りして……いいんですか……?」
夢のような話に、私の胸はときめいた。
宰相は目を細めてうなずいた。
「もちろんです。そのための図書館ですから。……ジラン、冒険譚ならそなたも好きだろう?フィズどのに選んでさしあげなさい。」
「はい!伯父上!」
ジランくんはうれしそうに、あれやこれやと本のタイトルを口にしていた。
……知らないものばかりだった。
やはり何年ものギャップは大きいわ。
図書館で、私たちを下ろすと、宰相はそのまま宮殿へと向かわれた。
「早く帰って来なくてもけっこうですよ。伯父上。ごゆっくり。お仕事がんばってください。」
ジランくんの言葉に宰相は苦笑していた。
馬車が小さくなるのを見送りながら、ジランくんはつぶやいた。
「それでも、お仕事を切り上げて帰って来ちゃうんですよ。いつも。私のために……。」
あら。
宰相も、人間らしいところがあるんだ……。
「ジランさまは、宰相閣下と仲良しでいらっしゃるのね。」
「はい!伯父上は、私の生まれる前に亡くなった父に代わって、私と母を守ってくださいました。……政治家ですから誤解されがちなところもありますが、とてもお優しいかたです。私が保証します!」
……保証されてしまった……。
でも、じゃあ、どうして、宰相はシーシアさまには無関心なのかしら。
「……お母さまもお亡くなりになったとうかがいましたが……」
どんなかただったんだろう。
少なくとも、宰相はシーシアさまより、このジランくんのお母さんと親しかったのよね?
……死んだ双子の兄弟の奥さんってことかな?
再婚はされてないのよね?
宰相、未婚だし。
「母は、シーシアさまの異母姉妹ですが、シーシアさまのお母上さまに認知されていませんので、私たちはずっと伯父上の館で生活していました。伯父上は幼少期から母を妹のようにかわいがっていたので、一昨夏、母が亡くなってからは、私の父親代わりと母親代わりになろうとしてくださってます。」
「一昨夏……そうでしたか……。」
では、あの夏の海辺にへイー先生が持ってこられた書状は……宰相が来なかったのは……ジランくんのお母さんの死も関係していたのだろうか。




