噂のエル・ドラド 10
「……すみません。生意気なことを言いました。」
そう謝ったけれど、大公さまは目を細めて見てらした。
「いや。……王宮を出た途端、元気になったようだね。私のよく知っているフィズに戻ってくれて、ホッとしたよ。」
「……大公さま……。」
ぼんやりと感じた。
やっぱり、私、大公さま、好きだなあ……って。
懐の広い、大きなお心に、私はすっかり安堵した。
「ところで、この馬車はどこに向かっているのでしょう。」
王宮から街の賑わいを通り抜け、川を渡っているようだ。
この道は、もちろん知っている。
カピトーリの郊外に建つ、美しい白い建物群が見えてくる……。
「もしかしてシーシアさまのいらっしゃる神宮へ向かっていますか?」
「ああ。あそこなら皇帝陛下も手出しできまい。治外法権だからな。……と、宰相どのが勧めてくださった。まあ、あの宰相どのがそう言うのだから、安心して過ごせるだろう。」
大公さまの言葉に、私は首を傾げた。
「宰相さまが、お勧めくださったのですか?」
宰相ティガって、皇帝陛下の御信任厚いのよね?
……てことは……私は、宰相ティガに皇帝陛下のお側から排除されたのかしら?
王宮で暮らしたとはいえ、宰相ティガとは1度も言葉を交わしたことはないのに……嫌われてるのかな。
動揺している私に、大公さまはおっしゃった。
「そうだよ。……皇帝陛下の横暴を見かねて私に知らせてくれたのも宰相どのだ。」
「そうでしたか。」
……それは優しさなのだろうか。
それとも……やっぱり追い出したかったのだろうか……。
宰相ティガはまちがいなく有能だけど……昨夏のシーシアさまの様子を思い出すと……なんとなく怖い気がしていた。
***
馬車は、懐かしい神宮に到着した。
大公さまと私は、すぐにシーシアさまのお部屋に案内された。
「ごきげんよう。大公さま。……ま……あ……フィズ?……一体、何があったの?」
シーシアさまは、私を見るなり、驚いてしまわれた。
……そんなにひどいのかな……。
返答に窮する私の代わりに、大公さまが口を開いた。
「お久しぶりでございます。シーシアさま。このたびは、我が義娘を快くお預かりいただけるとのこと、感謝に堪えません。……御覧のように義娘には療養が必要です。どうか、ゆっくり心身を癒せるようお取り計らいください。」
深々と頭を下げた大公さまは、本当に父親のようだった。
「……わかりました。責任をもって、お預かりいたします。ご心配なく。……神宮修士としてではなく、お客様としてゆっくりくつろいでね、フィズ。」
シーシアさまは笑顔でそうおっしゃった。




