噂のエル・ドラド 9
「……まさか、タルゴーヴィに連れて戻られるおつもりですか?」
カピトーリのどこにいても……たとえ実家に引きこもろうと、皇帝の権力をもってすれば、私は陛下のお召しを拒否できるものではない。
しかしタルゴーヴィで大公さまの庇護下にあれば、皇帝陛下は手出しできない。
でも、タルゴーヴィには、ジョージオさまがいらっしゃる……。
再び私がお側に戻れば、いたずらにジョージオさまを刺激して傷つけてしまうのではないだろうか。
ハラハラと成り行きを見つめている私に、大公さまは微笑みかけてから、皇帝陛下に重々しくおっしゃった。
「療養先は宰相どのに一任いたしました。……この者がどこで療養しようと、もはや陛下には関係ございません。ゆめゆめ探し出したりしませんよう。」
陛下はがっくりと肩を落とされた。
まさかここで宰相ティガの名前が出るとは思わなかった私は、かなり驚いた。
驚いたが……、大公さまが宰相ティガを評価して懇意にしていることは想像にたやすい。
「では、これにて、失礼する。フィズ。行こう。」
大公さまは私の肩を力強く抱き寄せると、皇帝陛下の横をすり抜けて部屋から……、いや、そのまま王宮から連れ出してくださった。
***
「もう大丈夫だ。……つらかったであろう。かわいそうに。」
馬車に乗り込んでから、大公さまは慈悲の瞳でそうおっしゃった。
私は小さく息を吐いてから、苦笑した。
「……不敬を承知で申し上げますと……とても、つらかったです。今更ですが、実感いたしました。私、ジョージオさまのことは本当にお慕いしていたんですね。同じ行為のはずですのに、陛下を受け入れることは、ただただ苦しいだけでした。そこに喜びも幸せも見出せませんでした。この地獄の中で、もしまた御子を授かってしまったらどうしようかと……生きた心地がしませんでした。」
「そうか……」
なんとも言えない表情で、大公さまは沈思された。
しばらくしてから、大公さまは重い口を開かれた。
「……ジョージオのこと……いくら詫びても足りないが……そなたの中で、悪い思い出ばかりでないというのなら、よかったと思うことにしよう。」
「はい。大公さまは、必要以上にジョージオさまにお厳しく思いますわ。どうかお優しくしてさしあげてください。……大公さまのご期待に沿えないことが、ジョージオさまを長年にわたり苦しめてらしたんだと思います。どうか寛大なお心で接してさしあげてくださいませ。それだけでジョージオさまはお変わりになられるのではないかと……。」
言葉にしてしまってから、言い過ぎたと気づいた。




