噂のエル・ドラド 3
5日ほどたって、ようやく後宮での生活と乳母の役割に馴れた。
実家と、それからタルゴーヴィ大公さまに書状で状況をお伝えした。
後宮人事、しかも乳母の採用なんて些末なことは、さすがに官報にも載らないので、大公さまはたいそう驚かれたらしい。
すぐに書状を送ってくださった。
大公さまが、私の身体や気持ちを気遣い、心配してくださっているのが痛いほど伝わり……涙が出た。
本当に温かい、すばらしい御方だわ。
しみじみと感動に浸っていたら、突然、廊下が騒がしくなった。
大勢の人が何か口々に言いながら、こちらに近づいてくる。
何だろう?
扉に近づき、少しだけ開けて、廊下を覗いた。
突然、扉がバーンと大きく開いた。
扉にくっついていた私は、支えを失って、尻餅をついてしまった。
びっくりした。
……いきなり扉が開いたことにも驚いたけれど……そんなことより、そこに立っていた人物!
何と、このインペラータの最高権力者であらせられる皇帝陛下そのおかただった。
私もびっくりしたけれど、皇帝もたいそう驚かれたらしい。
「え!?」
と、声をあげてから、慌てて私に手を差し伸べた。
「お怪我はありませんでしたか?突然、申し訳ありませんでした。」
皇帝が私に敬語で話してる……どういう状況?
まだよくわからないけれど、いつまでもこのまま座っているのも不敬だろう。
私は、差し出された皇帝の手に自分の手を預けて、立たせていただいた。
「ありがとうございました。大変失礼いたしました。……皇孫さまは、先ほどからお昼寝中でございますが、お逢いなさいますか?」
不躾な姿を見せてしまったことは気にせず、笑顔でそうお尋ねした。
皇帝は、私の手を放さず……いや、むしろ両手で大切そうに包み込み、おしいただくと、私の手の甲に口づけた!
びびびび、びっくりした!
驚いたのは、私だけではなかった。
皇帝に付き従っていたかたがたがどよめいた。
しかし皇帝はめんどくさそうに、横を向き、くいっと顎を上げた。
すると、見目麗しい緑の髪の、見るからに偉い人が、小さくうなずいた。
あ……宰相ティガだ!
皇帝の信認篤い緑の髪の美丈夫さま。
……シーシアさまの……特別なおかた……。
宰相ティガはざわつく人々を宥めすかし、共に部屋から出てしまうと扉を閉めてしまった。
後に残されたのは、私と皇帝陛下だけ……。
えーと……この状況はいったい……。
困っている私の膝元に、皇帝陛下は片膝をついて恭しく頭を下げた。
何で!?




