エデンは遠くなりにけり 18
「お父さま……。」
「ああ、フィズ。……本当はもっと早くそうすべきだった。大丈夫だよ。ちゃんと、見極めて来よう。どうすれば、みんな、幸せになれるのか。……フィズも、お腹の子も……ジョージオさまもな。」
「……ありがとう……ございます……。」
あとからあとから涙が溢れた。
大公さまが……実の父親なのに、ジョージオさまに冷たいことが……私には、つらかった……。
だから……お父さまが……ジョージオさまを尊重してくださることが、うれしくて……ただただ、うれしくて……。
「ああ。わかっている。大丈夫だ。……フィズの気持ちも、ちゃんと伝えるから。安心して、待ってなさい。」
「はい。どうか、よろしくお願いいたします。」
何も変わらないだろうということは覚悟していたけれど、藁にも縋る想いだった。
***
父は翌日、さっそくタルゴーヴィへ赴いた。
そしてその夜遅くに、肩を落として帰宅した。
結果は芳しくないことは、父の顔を一目見ればすぐにわかった。
「おかえりなさいませ。お父さま。ジョージアさまにはお会いできましたか?」
なるべく明るく聞いてみた。
父は首を横に振った。
「……逢わせていただけなかったのか……本当にお留守なのかは、わからない。……大公さまはまだご公務からお帰りではなくて、大公夫人が応対してくださったのだが、ジョージオさまは温泉に療養に行かれたの一点張りだった。」
「そうでしたか……。ご苦労様でした。ありがとうございました。」
父はため息をついてから、私を見つめて言った。
「大公さまは確かにご立派なおかただと思うが……いや、ジョージオさまも悪いかたではないと存じ上げているが……フィズ、もうあの家に戻らないほうがいいと思う。……大公さまのお申し出を、受けよう。」
「……と、申しますと……」
「離婚して、子供は大公さまにお託ししよう。」
思わず、お腹を抱えた。
……ジョージオさまにお逢いできない日々の慰めは……お腹の中の子供だけだったのに……。
もちろん、お父さまのお気持ちも、大公さまのお気持ちも、わかる。
決して、私から子供を強引に取り上げてしまおうというおつもりではない。
これからの私の人生のために……私が人生をもう一度やり直すために……身軽になれるようにとのご配慮なのだろう。
それは、わかる。
でも、こんなことになってしまって……私は、ますます結婚に夢を抱けなくなってしまった。
正直なところ、やり直しって言っても、ぴんとこない。
むしろ、結婚なんか二度とごめんだ、と思っている。
ああ、いっそ、もう一度神宮院に入って、生涯シーシアさまにお仕えしたい。
……そうだわ。
そうしよう。
それなら、たぶん、心穏やかに生きていけるわ。
ようやく踏ん切りがついた。
「わかりました。では、そのおつもりでお願いします。」
私からも、大公さまに書状をお届けしよう。
子供のことも……ジョージオさまのことも、どうかどうか、お願いいたします。
私は俗世を捨てますから、ジョージオさまをあまり虐めないでください。
……ごめんね。
何度謝っても、お腹の子供に対する罪悪感は消えないだろう。




