エデンは遠くなりにけり 17
「……まあ、断わられると思ったが……即答とは。……では、もう一つの提案だ。これは、断わらないでほしい。生まれてくる子を、私の養子にしたい。ただの養子ではない。嗣子として、私自身が手をかけて育てたい。……妻子には、手出しさせないと約束する。」
「嗣子……。いえ、でも、まだ男の子か女の子かもわからないのに……。」
思ってもみなかった好待遇に、驚いた。
大公さまは、力強く言った。
「男だ。産婆がそう言っている。十中八九、男だそうだ。」
「男の子……。」
思わずお腹に手を当てた。
よく動く元気な胎児だ。
私の、私だけの子だ。
……でも……このまま独りで産み育てるか……もしくは誰かと再婚するか……どっちにしても、苦労させてしまうのだろう。
大公さまに託したら、……次の大公になれるの?
私の子が、タルゴーヴィ大公に……?
「……ゆっくり考えてくれたまえ。貴女自身の幸せのために。そして子供の未来のために。……ああ、そうだ。離婚しても、貴女の財産はそのまま貴女のものだ。フィズ。そして、ジョージオの持ち分は、そっくりそのまま貴女のお腹の子のものだ。このことは、今後どうなっても変わらない。確定事項だ。そして、私の死後の遺産は全て嗣子にものだ。覚えておいておくれ。」
そう言い置いて、大公さまは帰って行かれた。
***
継母はすっかりのぼせ上がってしまった。
「うちの孫が、次のタルゴーヴィ大公ってこと!?」
「……そう仰ってたな。……どうする?フィズ。条件的には、イイ話だが……子供を手放すことになるな。」
父は私の顔色をうかがった。
「しばらく考えさせてください。……って、考えるまでもないってわかってるんだけどね。」
そうだ。
頭では、よくわかっている。
子供の未来を考えたら、大公さまに託すべきだ。
でも……私は……。
沈思していると、ぽつりと父が言った。
「……一度、私が、ジョージオさまにお会いしてこよう。……冷静に話せば……別の解決策もあるかもしれない。」
ぶわっと、涙が噴き出した。
自分でもびっくりした。
……諦めたつもりだった……。
でも、私……それでも、まだ、心のどこかで……ジョージオさまが迎えに来てくださることを夢想している……。
馬鹿馬鹿しい夢物語なのに。
父には、私の心がわかるのだろうか。




