エデンは遠くなりにけり 4
それ以上何か申し上げることはためらわれた。
……見るからに……夜の世界の女性だろうし……ジョージオさまとのかつてのご関係は想像にたやすいんだもん。
まあ、ジョージオさまよりかなり年上だろうし、……嫉妬はしないけどさ。
マーサさんは訳知り顔で何度か頷いて、完璧な笑顔でおっしゃった。
「まあ。奥様。私のような者に、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。ジョージオさま、素敵な奥様ですわね。うちをお見限りになるのも仕方ありませんわねえ。女の子たちが残念がりますわ。」
「……。」
ジョージオさまの頬が引きつった。
……なるほど。
このご婦人は、娼館の女主人なのだろう。
ならば、と、改めてニッコリと笑顔を作った。
「これまで主人が大変お世話になりまして、ありがとうございました。ご挨拶できて、うれしゅうございました。」
ジョージオさまは色をなくし、マーサさんは笑顔になった。
「……ほんとうに。素敵な奥様。……こちらには、避暑にいらっしゃいましたの?」
媚びた余所行きの声と表情が消え、マーサさんという1人のご婦人が現れた。
私もまた、彼女を見下すことも、逆に卑屈になることもなく、普通に会話をすることができた。
「はい。海辺の宮殿で過ごすはずだったのですが、お客様がお帰りになりましたので、主人の望みでこちらに移動いたしました。酷く日焼けして肌も髪も傷みましたので、少し養生してから帰国しようと思っています。」
「あら……。」
マーサさんは、私とジョージオさまを交互に眺めて、眉をひそめた。
「……特にジョージオさま……火傷なさったみたい。……それは大変でしたね。こちらの温泉は肌にとてもよいので、ゆっくり治癒なさってくださいね。……そうだわ。日焼けによく効くお薬がありますの。後で、宮殿にお届けいたしますね。」
「まあ。ご親切に。ありがとうございます。」
にこにこしている私に呆れたらしく、ジョージオさまがすっくと立ち上がった。
「キトリ。そろそろ帰ろうか。」
「……そうでしたね。……マーサさん、お会いできて、うれしゅうございました。この後、人と会う約束がありますので、今日はこれで失礼いたします。またお目にかかれるのを楽しみにしています。」
「こちらこそ。やっとジョージオさまに素敵な奥様がお輿入れされて、安心いたしました。あら、ごきげんよう。」
マーサさんの言葉に耳を貸さず、ジョージオさまは私の手を引いた。
私は何度も振り返り、ようやくお辞儀をすることができた。
マーサさんは苦笑してらした。
……素敵な……とても、できるご婦人だと確信した。
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