アルカディアの誘い 13
ドキドキしてきた。
いったい、どんなところだろう。
「素敵!シーシアさまと夏の間一緒にいられるんですね。ジョージオさま、南の宮殿には行かれたことあるんですか?」
前のめりな私に、ジョージオさまは苦笑された。
「ありますよ。祖母が好きでした。朝から晩まで海で遊んで、真っ黒に日焼けしました。」
「うわぁ!楽しみです!私、海って、数えるほどしか見たことがないんです。13才のとき、お父さまとご一緒に、ジェムチの神宮にお詣りした時以来かしら。」
「……え?だって、このタルゴーヴィの都市も海に面しているではありませんか。……ジョージオ?あなた、花嫁を案内してさしあげませんでしたの?」
シーシアさまに責められて、ジョージオさまは口を尖らせた。
「それどころではなかったのですよ。」
シーシアさまは、神への祈りの言葉を呟いてから、糾弾した。
「ご公務もお仕事もなさらない健康な殿方が何を言っても言い訳にすらなりませんよ。」
……こんな風にヒトを責めるシーシアさまを初めて見た気がする。
これはこれで、……打ち解けてらっしゃるご関係……なのかもしれない。
ポカーンとしていた私に、シーシアさまは、微笑みかけた。
「では、フィズ。南の宮殿でゆっくり過ごしましょうね。」
「はい!」
「……キトリです。」
くやしそうに訂正するジョージオさまに、シーシアさまは会釈だけして行かれた。
***
「……夏の潮風って、どうしてこんなに眠くなるのかしら。」
灼熱の砂浜に大きな傘で作った日影で、シーシアさまと私は、日がな一日寝そべって過ごした。
「不思議ですね。日影なのに肌はこんがり焼けてくるし、寝てるだけなのに身体も疲れますね。……でも、心地よいです。」
そう申し上げたら、シーシアさまは頷いて、ほほえまれた。
「心も体も、休んでいるようで、生きるための力を蓄えているのです。……わたくしにも、……キトリにも、このような時間が必要でした。」
「シーシアさま……。」
泣き出しそうになった私に、シーシアさまはレモン水を手渡してくださった。
贅沢に氷で冷やしたレモン水は、火照った五体に心地よく染み渡った。
「……それにしても、困った子……悪い子じゃないんですけどねえ。」
シーシアさまが、宮殿のほうを見て、ため息をついた。
ジョージオさまのことをおっしゃっているのは間違いない。
私は、なるべく当たり障りなく言葉を添えた。
「お優しい、善良なおかたですわ。今回も、結局ご同行くださいましたし。……今も、お帰りにならずに、ご一緒にこの宮殿に滞在してくださっていますし。」




