アルカディアの誘い 12
シーシアさまは、相変わらずとてもお美しかった……。
たくさんの従者や護衛の騎士、それから学者や官吏を待たせているらしく、長居はできないそうだ。
「慌ただしくて、ごめんなさいね。フィズに逢いたくて、ワガママを言ってしまいましたわ。」
「シーシアさま……」
冗談でもうれしくって……、私は泣いてしまった。
しかし、それがまずかった……。
ジョージオさまは、すっかりへそを曲げられてしまったようだ。
「やあ。シーシア。ひさしぶりだね。しかし、妻のことはキトリと呼んでくれたまえ。改名の案内状は送付したろう?」
「……ジョージオさま!シーシアさま、ですってば。」
挑戦的なジョージオさまをたしなめようとした。
シーシアさまは、鷹揚に微笑んでくださった。
「よくってよ。フィズ。ジョージオは、昔から偉そうなの。慣れているわ。……あら、キトリでしたわね。ごめんなさいね、フィズ。」
わざと、だ。
今の言い間違いは、わざとだわ。
……もしかして、シーシアさま……ジョージオさまに喧嘩売ってる?……いや、買ってらっしゃるのかな?
なんにせよ、お二人は、私の想像以上に、……仲がおよろしくないみたい。
「それでタルゴーヴィにはどれぐらいいらっしゃるご予定ですか?」
場を取り持とうと、シーシアさまにお伺いしてみた。
「まだ決めていませんが、タルゴーヴィの神殿での儀式を滞りなく終えたら、避暑をかねてタルゴーヴィの南の宮殿に滞在するつもりです。キトリ。あなたも一緒にいらしてくださいね。……ジョージオも、来たければいらっしゃい。」
シーシアさまのお言葉は、誘いではなかった。
既に決められたことを伝えてくださった、というところだろうか。
「……それは、神の花嫁としての、命令ですか?」
嫌そうなお顔を隠そうともせず、ジョージオさまはシーシアさまに尋ねた。
シーシアさまは、ほほえんだ。
「命令ではありません。でも、わたくしには不思議な力がありますのよ。……キトリのなかで再びジョージオの胤が息吹をあげることができるのは、この館では不可能です。」
ドキッとした。
ジョージオさまも動揺したらしい。
私を見て、それからシーシアさまに真剣に尋ねた。
「……では、キトリの言うように……私たちは、この館で何らかの薬を飲まされ続けていると?」
シーシアさまは苦笑された。
「わたくしには、手段まではわかりません。しかし出迎えてくださったかたがたの中から隠しようもない悪意の残骸を感じました。……それ以上は、何とも言えません。ですから、一旦、この館を出てみては如何ですか?南の宮殿は、夏を能動的に楽しむには最高の環境ですよ。」




