アルカディアの誘い 11
鼓動を感じて目を閉じた。
ジョージオさまが私の髪を撫でてくださる。
「先ほど、神宮から使いが来てね、明日、シーシアがタルゴーヴィの神宮に来るらしい。時間がとれそうなら、この館に寄るとか。」
「シーシアさまが!?大変!!!」
私はガバッと勢いよく起き上がった。
「え……キトリ?」
驚くジョージオさまをベットに残し、私は慌ててドレスを身につけた。
「どうしたのです?」
「掃除、しなきゃ。館を磨き上げます。ああ、それに、お菓子を焼きます!シーシアさまのお好きなショコラ……材料あるかしら?」
突然張り切りだした私に、ジョージオさまは呆気にとられていた。
***
その日は、シーシアさまのお越しに備えるべく、徹底的に拭き掃除をしまくった。
翌朝は、出入りの商人が食材や型を持って来てくれるのを待って、お料理にも取り掛かる。
ジョージオさまは、気になるらしく、何度も何度も私の様子を見にいらした。
「来るかどうかわからないのですから、そこまでしなくても……」
「掃除は毎日、館の者がしていますし、お菓子は料理人が作りますよ?」
その都度、やんわり止められたけれど、やめるわけにはいかない。
……そもそも、これまで我慢してきたけれど……この館の使用人は、主人のジョージオさまに似て、ルーズだ。
四角い部屋を丸くしか掃かないし、日々、埃をはたくだけで、拭き掃除はたまにしかしていない。
料理は美食家のジョージオさまを喜ばせるべく、山海の珍味をふだくさんに使った豪華なものばかりで……シーシアさまのお好みとは違う。
素朴な焼き菓子は口にされても、クリームとフルーツたっぷりの甘すぎるお菓子は、ご自分は召し上がらずに下賜されるのが常だ。
「ジョージオさまも、召し上がってみてください。私の焼き菓子、神宮でも、実家でも、好評でしたのよ。」
ジョージオさまは、おいしそうに召し上がってくださり、ほめてくださった。
けど、最後にチクリとおっしゃった。
「次からは、キトリが直接手を汚すのではなく、料理人に指示すれば同じように作りますので。」
ジョージオさまのお顔から、笑顔が消えていた。
……よくわからないけれど……怒ってらっしゃるようだ……。
「あの……ジョージオさま?」
「さあ。次はキトリ自身の準備をする番ですよ。湯浴みして、着替えましょう。」
ジョージオさまは、いつもの微笑を貼り付けて、私に手を差し出した。
その手がいつもより冷たくて……いつもより距離を感じた……。
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