アルカディアの誘い 2
「では、帰りましょうか。……長居は無用でしょう。」
ご実家ながら、ジョージオさまも居心地がよくないらしい。
「はい。帰りましょう。お館に。」
趣味人のジョージオさまの館は、この大公邸とは比較にならない小さな建物だが、賑やかな街の一角に、贅と趣向を凝らした美しい建物だ。
お庭には薔薇が咲き誇り、本物の美術品と贅沢な楽器が館内のあちこちに配置されている。
便利だし、優雅だし、ジョージアさまはお優しいし、四六時中愛を囁き抱きしめてくださるし……私は夢のように幸せな新婚生活を満喫していた。
大公邸を出たのは、晩餐をいただいてからになった。
御見送りの執事さんや使用人さんたちの見守るなか、ジョージオさまの白い美々しい馬車に正面の車寄せから乗り込み、出発した。
途端に、ガタンと大きな音がして、馬車が大きく傾いた。
「きゃっ!」
「うわっ!なんだ!?」
下からの強い衝撃に突き上げられ、私たちの身体は馬車の天井に叩きつけられ、落ちた。
使用人さんたちが悲鳴をあげた。
驚いた馬たちも、いななき、軽快なギャロップで駆け出した。
「いたっ……ジョージオさま……」
「フィズ!?大丈夫ですか?……誰か!助けてくれないか。」
どうやら、馬車は横転しているらしい。
ドアの部分がへしゃげてしまっている。
使用人さんたちが一生懸命戸を開けようと奮闘してくださっているようだが、なんせ、横転して歪んでしまっているので動かないようだ。
「ジョージオさま。馬車を起こしてもらえるよう、おっしゃっていただけますか?」
力任せに引っ張っても埒があかない。
とりあえずまっすぐに戻せば、ゆがみも直せるし、開けやすいだろう。
「なるほど。そうだね。……馬車を起こしてくれまいか!?」
ジョージオさまの指示を受けて、何度かの試みを経て、ようやく私たちの乗った馬車は起き上がることができた。
座席に座り直した私を、ジョージオさまはずっと抱きしめてくださっていた。
その手が震えていた……。
さらにしばらくの格闘の末、扉が開いた。
「ジョージオさま!フィズさま!お怪我はありませんか!?」
ジョージオさまは、返事の前に私を見た。
私は笑顔を作って見せた。
「……大丈夫だ。2人とも、無事だ。……しかし、いったい、何があったんだい?」
ジョージオさまの問いに答えられる者は誰もいなかった。
……よくわからないけれど、何者かが、ジョージオさまの馬車に何らかの細工をした、ということらしい。




