アルカディアの誘い 3
「ご無事で何よりでした。……念のために、お医者さまをお呼びしましょう。」
執事さんは、私の……というより、私のお腹の中のジョージオさまの子供のことを心配してくださっているようだ。
「ありがとうございます。では、主治医を呼んでください。よろしくお願いします。」
たぶん大丈夫だろうけれど、診察を頼んだ。
***
「車輪の軸が損傷していたそうだよ。」
沈鬱な顔で、ジョージオさまがご報告くださった。
「……損傷……させられていたのね。」
帰り支度をしている主治医が眉をひそめて、ため息をついた。
……よくあること……なのかもしれない。
漠然とそう思った。
「どうか、お気をつけください。……大事なお身体です。」
言葉少なにそう言って、主治医は帰って行った。
何か言いたそうで言えない……ように見えた。
主治医を見送ったジョージオさまは残念そうに仰った。
「……仕方ないですね。今夜はこちらに宿泊して、明日、館に戻りましょう。」
「そうですね。」
ため息が出た。
急遽用意していただいた夕食は、ジョージオさまが毒味してから、ヒト匙ひと匙食べさせてくれた。
食後にくつろいでいると、大公さまがジョージオさまをお呼びだと執事さんが呼びに来た。
「何だろう。……事故の顛末を報告しろと仰るのかな?」
「ご心配してくださってるのではありませんか?大丈夫だと申し上げて、安心してさしあげてください。」
「……なるほど。心配なら自分でくればいいのに。まあ、あの人らしいか。……大丈夫だと申し上げたら、あなたも呼ばれるかもしれませんね。」
「ふふ。それでは、呼ばれる前に、私もご一緒にうかがいましょうか?」
起き上がろうとした私の両肩をそっと抱いて、ジョージオさまは口づけをしてくださった。
優しく甘くとろかされ、頭がぼーっとしてきたところで、ジョージオさまは私から離れた。
「ゆっくり休んでらしてください。とりあえずは、私だけで参上してきますよ。」
ほほえんで、ジョージオさまは部屋を出て行かれた。
私はふかふかの羽毛枕に沈んで、目を閉じた。
……お腹に手を当ててみたけれど……まだ膨らんでもいないし、悪阻もないし、よくわからない。
ただ、この中にジョージオさまの血を引く子供の命が芽生えたことに、神秘的な感動を覚えていた。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「失礼します。大公さまがお呼びでございます。フィズさま。」
ドアの向こうから呼びかけられ、私は慌ててベッドから這い出た。
髪を手櫛で整えながら、ドアを開けた。




