桃源郷への道 12
……しまった。
聞いてはいけなかったみたい。
どうしよう……。
ううん。
このままじゃいけない。
私は、なるべく冷静に言った。
「あの……決して、感情的になっているわけでも、興味本位でお伺いしたのでもなく、私、本当に何も知らなくて……。これから、ご親族さまのどなたさまか、あるいはお屋敷にお仕えしているかたがたから、ジョージオさまのかつてのご婚約者さまたちのお話を不用意に聞いてしまって、変に動揺してしまっては、ジョージオさまにとっても不名誉かと思いまして。……差し支えない程度で結構でございますから、お教え願えますか?……とりあえず、今日のところは、人数だけでも。……各人の詳しい情報は、また、追々お伺いするとして。」
黙って私を見つめていたジョージオさまが、困ったように首を傾げた。
「……正直なところ、私にとって、不名誉なことであるばかりか……忘れてしまいたい過去なのですが……確かに、フィズの前の前にこちらに来た女性は、口さがない使用人の噂話から、過去の話を初めて知って、ずいぶんと傷つき、怒ってしまって大変でした。……なのに、約束の期限が来ても、別れたくないと駄々をこねて……もう、あんな想いはしたくないし、させたくないものですが……。……聞きたいですか?聞いて、後悔されませんか?」
私は、ふるふると首を横に振った。
「知らないままでいるほうが、後悔します。気になることは、調べて、理解しないと気が済みません。……大丈夫ですわ。過去はどうあれ、ジョージオさまのお優しさと、お気持ちは、身を以て知りました。とても幸せです。……ですから、今でしたら、何をお伺いしても、ジョージオ様をお慕いする心は揺らぎません。むしろ、覚悟を決めます。」
すると、ジョージオさまの顔がゆがみ……美しいエメラルドの瞳が涙に揺れた。
「……信じます。」
そう言って、ジョージオさまは、私をぎゅっと抱きしめた。
……このヒトは……今まで、どんな女性と出会って、愛して、別れて、傷ついてきたのだろう……。
全容はわからないけれど、その都度、真剣に対峙してきたのだろうな。
でなきゃ、こんなふうに、つらい顔を見せないよね?
本当は、私も、かなり心配だった。
期限付の結婚生活って言っても、さんざん男にオモチャにされて、用を成さなければポイ捨てされて、男のほうは、また次のおもちゃを手に入れるってことかなあと、自虐的になったりもした。
でも、ジョージオさまの私を見る目、私に触れる手……私に対する気遣いは、決して、オモチャやペット扱いとは違う……と、思う……。




