96 最後の集団強化習得
昼食後は北門から強化習得を仕掛けてあるいつもの湿地帯際の場所へ。
湿地側には例によってスライムがかなりいる。
だがもう俺やミリアが倒す必要はない。
「まず私が集めるから、集めた後の処理はアンジェ頼む。水属性魔法、大水操流」
モリさんが水属性魔法でスライムを集めている。
俺達はまず、一時避難場所というか休憩場所の設営だ。
まずは整地をしてと。
「フィン、4人が横になっても余裕サイズの天幕を頼む」
「わかった」
出てきた天幕は以前野外実習で使ったものと少し違う。
「フィン、また新しく作ったの?」
「これは冒険者ギルドが僕の天幕を元に作った市販品だよ。棒の素材が軽くなったり、布が厚い部分と薄い部分を使い分けていたり、かなり良くなっているんだ。
専用の超小型自在袋にそのまま入るサイズになっているしね。やっぱり専門家が再設計すると違うよね」
「そう言えば使用料の方はどうなったんだ?」
手持ち無沙汰なライバーが尋ねる。
「前にナタリエさんが言った通りだよ。この秋から市販開始で売れたら2割のお金が冒険者ギルドに作った僕の口座に支払われる形。
あと契約料で正金貨6枚貰ったかな。これでまたドワーフの里に行っても大丈夫だよ」
「凄え。毎日夕方に遊撃亭の串焼き食べまくっても1年以上は大丈夫そうだな」
遊撃亭とは学校からほど近い場所にある串焼き屋だ。
『凄く旨い訳じゃないが雰囲気がいいからついつい行っちゃうんだよなあ』というのがライバーの評価。
収入を串焼き屋換算するあたりがいかにもライバーだ。
俺だったらこの前買った剣の2本分だろうか。
「中のマットも新しく作ったものだよ。布に樹脂を塗って中に空気と羊毛を挟んだもの。たたみにくいけれど天幕に入れてこのまましまう分には問題無いよ。軽くて温かくて、下からの水気を通さない自信作かな」
「ちょっと試してみるわ」
ミリアがそう言って天幕の中へ。
「何これ。今までと全然違う。これなら学校のベッドと比べても遜色無いわ」
なんだと。
思わず俺も入口から上半身だけ天幕に入れて中を確認。
「ほら、全然地面の固さを感じない。これなら余裕で熟睡できるわ。ハンスも入ってみなさいよ」
ミリアがトントンと右手でマットを叩いてそう主張する。
確かにマットはいい感じの柔らかさだ。
だが何故かすぐ前にミリアが横になっている事に、そしてテント内にミリアと俺だけしかいない事に何かを感じてしまう。
気恥ずかしさというにも近い何かだ。
別にミリアと2人というのは珍しい事では無い。
夜の狩りはミリアと2人だし、お互いの強化習得の際はもっと狭い天幕で2人なのに。
だがそう思うと余計に何か意識してしまう。
だめだ、これは。
「ああ、後でゆっくり試してみる」
とりあえず俺はいつも通りの口調を意識しつつそう言って天幕から身体を出す。
俺も年中発情期の普人に毒されただろうか。
そんな事を思いながら。
土属性魔法を使って天幕の回りを土壁で囲む。
魔獣・魔物避けの魔法陣を刻めば休憩場所の完成だ。
さてモリさん達の方はと見てみる。
ちょうどモリさんの水属性魔法で付近のスライムが集められたところだった。
「それじゃアンジェ、頼む」
「任せておいて」
アンジェが火属性魔法を槍に纏わせて刻みまくっている。
この方法だと付近を延焼させる心配が無いのでやりやすいようだ。
あっという間に30匹以上のスライムが魔石だけになった。
付近にはもう魔物や魔獣の気配は感じられない。
モリさんが集めたのだから見落としはないだろうけれど。
モリさんとアンジェの2人で魔石も拾い集め、スライム掃除の完了だ。
いつの間にか天幕から出てきていたミリアがそれぞれ穴を掘る場所に印をつけている。
「それじゃさっさとやるわよ。いつもと同じで印の下に穴を開けて水を流し込む。穴の前には立たないように注意すること」
もう何度もやった作業だから皆さん手慣れている。
なおライバーだけは未だ土属性の魔法を使えないので専用のスコップを使用だ。
ただしライバー専用スコップ、長いし頑丈だし本人の腕力もあるしで穴を掘る速度はかなり早い。
まずは水を直接穴へと魔法で送り込めるモリさんがダウン。
ミリアが睡眠魔法をかけた後、天幕内へと搬送する。
「うおっ、ガンガン来たぜ」
ライバーに睡眠魔法をかけた後、俺がかかえて天幕へ搬送。
フィンは水路を作った後、自分で歩いて天幕へ。
「ハンス、睡眠魔法を頼むね」
「わかった」
俺が睡眠魔法をかけて完了。
アンジェが一番手間取っている。
彼女は魔力はあるのだけれど、土属性は得意では無い。
またアンジェの魔法特性にあわせて、彼女の強化習得だけ中の魔物を水属性にしてある。
水を引く訳では無く、直接火属性魔法を中へと放つ形になる訳だ。
またこの場所では地形上水属性の魔物の方が育ちやすい。
その分レベルは上げられるが、余分に攻撃をする必要がある。
その分どうしても時間がかかるのは仕方ない。
「これで最後かな。よし、きたきたきたきた……」
ミリアが頃合いを見て睡眠魔法をかけ、天幕へと運び込んだ。
残った俺とミリアで今の強化習得の痕跡を消していく。
残ったのは4人の強化習得よりより深く大きくつくった俺とミリア用のものだけだ。
「これでこの活動も一段落ね」
「ああ」
モリさん達の強化習得を俺達が準備して行うのはこれが最後だ。
そう2人で決めて、皆にも話したから。




