89 伝説との符合
俺達が送られたのはチェステーでもかなりエデタニアに近いあたりだったようだ。
5半時間も歩くと畑が途切れ、チェステーの門に出た。
証明代わりの冒険者証を提示して門番さんに尋ねる。
「エデタニアにはこっちの門でいいんですよね」
「ああ、ここをまっすぐ半日くらいだ。何ならもう少ししたら乗合馬車も通るがどうする」
確かに馬車に乗れば歩かなくて済む。
だが混んでいたら中で身動きがとれない。
しかも高速馬車と違って乗合馬車は速くない。
俺達なら歩いた方がむしろ早いだろう。
「いいよね、歩きで」
「ああ、その方が気楽だしさ。何か狩れるかもしれないしよ」
「お金もかからないしさ」
良かった。馬車で行こうという意見はないようだ。
「歩いて行きます。一応冒険者ですし」
「そうか。それじゃ気をつけてな」
門番さんに門を開けて貰ってチェステーの外へ。
ここもエデタニアと同様、魔物発見のため門の外はある程度草刈り等をして開けている。
そして50腕くらい先からは森だ。
「この辺の魔物はもうエデタニアと同じだよな」
「ああ。街道沿いだからあまり出ないと思うけれどな」
朝一の馬車とかで概ね退治されてしまっているだろう。
俺の走査でもこの先当分魔物の気配は無い。
「向こうだとほとんどが小物だったからなあ。久しぶりに魔猪あたりとやりたいところだぜ」
「でも当分は出てこないと思うよ。僕のわかる範囲にはいないから」
フィンはしっかり把握しているようだ。
「ところでハンス、最後村長が誰だって質問していたよね。あの時に第一世代ってベリーヌさんが言っていたけれど、あれどういう意味なのかな?」
あの会話はベリーヌさんだけに伝達魔法でしたつもりだった。
でもフィンには、そしておそらくミリアも内容が聞こえていたらしい。
おそらくベリーヌさんがそうしたのだろう。
しかしフィン、皆の前で聞くのかそれを。
モリさん達3人は聞いていないというのに。
「それって何だ?」
やはりモリさんは聞いていないようだ。
すっとミリアが範囲秘匿をかけた。
「移動魔法でここに来る寸前、ベリーヌさんと伝達魔法で少しだけ会話したのよ。実はウーニャの村はクエンカから歩ける所ではなく、もっと遠い場所にあるんだって話をね。
その会話の最後にハンスが質問したの。村長さんがハンスの知り合いかどうかをね。フィンが質問したのはその話よ。確か答えはこうだったわね。
『違います。ですがメディア=カサンダラと同じ第一世代の者です』
って」
ミリア、全部話してしまった。
でもミリアが話したという事は、全員に話した方がいいと判断したという事だろう。
俺が秘密主義なのだろうか。
自分が獣人だという事もあって用心してしまうのだろうか。
普人が一般に開けっぴろげなのか。
パーティ内ではこういった事も共有するべきなのだろうか。
その辺の判断が良くわからない。
俺の考えすぎかもしれないけれど。
「そのメディアさんというのはどんな人なんだ?」
モリさんに聞かれる。
「俺が剣や魔法について習った人だ」
「その人もエルフなの」
「いや、少なくとも俺の知っている限りでは普人に見えた」
今でもそれ以上はわからない。
「ハンスの師匠なら確かに凄い人だったんだろうね。それで第一世代ってのは何なのかな」
「それは俺もわからない」
合理的に考えると第一世代という言葉に思い当たる事は無い。
俺がメディアさんの所にいた時にもそんな言葉を聞いたおぼえはなかった筈だ。
ただ俺はごく最近、第一世代という単語を目にした。
ドワーフの里で購入した本に記載されていたのだ。
『ウラートからの船で大陸に降り立った人々は第一世代と呼ばれた。第一世代はウラートの知識と技術を持っていたが故に博識であり、また長寿でもあった。その後大陸に増えた人々をその知識で指導したが、いつしか姿を見せなくなった』
もちろんベリーヌさんがこの意味で第一世代と使ったとは考えにくい。
この大陸の歴史は少なくとも千年以上は記されている。
ウラートからの渡航が実話だったとしても、千年以上は昔の話だ。
ただ、エルフは長寿だ。
一説には千年以上の寿命があるといわれている。
ただそれが本当かどうかはわからない。
エルフの生態についてはほとんど知られていないから。
もしそういう意味でメディアさんが第一世代だとしたら。
この国最強の勇者と互角程度の腕は持っていると豪語する事。
最終にして最高の職業である超神。
珍しいとされる刀使いで数本の本物の刀を所持している事。
どれもが頷ける気がするのだ。
ならば何故あんな山小屋に籠もっているのだろうか。
そんな疑問もわいてくるけれど。
「何かハンス、思い当たる事がありそうね」
ミリアに気づかれてしまったか。
どうしようか一瞬考える。
でもここは話してしまった方が楽だろう。
関係あるかわからないという部分まで。
「この前買った本に伝説として載っていただけだ。多分関係ないと思うが」
一応そう前置きをしてから話しはじめる。
「その伝説では人間は大昔、ウラートという場所からこの大陸に移住してきたとされている。その時船から降り立った人々を第一世代と呼んだらしい。この大陸で生まれた人と区別して。
嘘か本当かわからない。そんな伝説の話だ」
「うーん、それじゃあまり関係ないような気がするなあ」
モリさんがそう言ってくれてちょっと安心した。
何に安心したのかは自分でもよくわからなかったけれど。




