88 村長は誰だ
本日で冒険者代行稼業は終わり。
明日の朝一番でこの村を出る。
今は最後の夕食を食べた後で、荷物整理と家の片付け中だ。
「流石に一月ちょっと住むと荷物が増えるよね」
アンジェの言う通りだ。
ライバーがフィンに作って貰った筋トレ用具一式。
アンジェが購入したふかふかもふもふの毛皮数枚。
モリさん使用の各種特殊調理用具。
それにフィンが作った試作装備品の数々。
「学校の寮より快適だったしなあ」
「確かにそうよね。広いし物も揃っているし便利だし」
「ここだと広いし、アンジェ達とも直接話を聞きながら作れるから楽しいよね」
「俺の部屋にこのトレーニング道具入るかなあ」
確かに個室も広いしリビングも自由に使える。
夜も皆でのんびり雑談したり出来る。
その結果がこの荷物という訳だ。
これら大物は基本的には俺の自在袋に収納予定だ。
資材の在庫でフィンの自在袋帳とミリアの自在袋は目一杯。
アンジェ、ライバー、モリさんは装備用の最低限の自在袋しか持っていないから。
でもある程度は積み替えをしておこう。
「ミリアの自在袋から金属塊を出して、代わりにアンジェのものとモリさん管理の食糧系土産を入れよう。その方が後で楽だ」
「そうね。5重の金属塊5本お願いしていい。それでかなり余裕が出来るわ」
「土産用の特選串焼きと山魔リス焼セットは入るよな。ショーンに食べさせて再現させたいんだ。向こうの牙ネズミや牙ウサギで出来るかさ」
確かにそれは楽しみだ。
でもライバーには言っておきたい事がある。
「土産の方は問題無い。それよりライバーは寮の自室を整理してくれ。あのままではこのトレーニング道具を置く場所が無い」
奴の部屋は他の部屋より見える床面積が極端に少ない。
床に直接、様々な物が置いているから。
正確には置いているというよりも投げている、放り出しているという感じだけれども。
「うっ……金貯めて大きい自在袋を買うぞ、絶対」
そういう問題ではない。
それにライバーの生活パターンでそれだけお金が貯まるかも疑問だ。
収入はモリさん達と同じ筈なのだけれど。
「単にゴミを捨てて服と装備を置くべき場所に置くだけで大丈夫だと思うな。前と同じならさ」
モリさんは以前男子に偽装していたからライバーの部屋がどういう状況か知っている。
俺がお願いしたいのもまさにそういう事だ。
だがライバーは渋い顔。
「そうなんだけどさモリさん、それが難しいんだぜ」
そんな感じで片付けと荷物整理は続く。
とは言っても基本的には雑談しながら荷物を自在袋に入れ、空いた場所を掃除するだけ。
1時間もしないうちに片付いてしまった。
「こうやってみるとあっけないよね」
「そうだね。でも明日は行程長いしもう寝た方がいいかな」
確かにフィンの言う通りだ。
「それじゃ寝るか」
「そうね。何か名残惜しいけれど」
素直に各自の寝室へ。
◇◇◇
翌日の朝。
昨日中に作っておいた朝食を食べ、皿等を洗い、各寝室にも清拭魔法をかけ、家を出る。
挨拶をしにラウルさんの事務所へ。
「それではこれで学校へ帰ります。本日までどうも有難うございました」
頭を下げる。
「いえ。どうもお疲れさまでした。真面目にやっていただいてこちらも助かりました。山羊や猪等の害獣も早く対処していただけましたし、リス魔獣等の流通も増えたので大変有難かったです」
ラウルさんはそう言ってこちらに頭を下げた後、背後を見る。
いつもは見ないフードをかぶった背の高い人がやってきた。
「帰りはクエンカではなく別の場所までお送りします。クエンカへ戻るよりその方がこの村の場所を察知されにくいでしょうから。それではミサカ、お願いします」
ミサカと呼ばれた人はフードをとる。
長い耳、白い肌。金色の長い髪。
見たのは初めてだがひとめで種族がわかる。
彼女はエルフだ。
そう言えばエルフがいると聞いたなと思い出す。
アレは確か門番の待機室でだな。
普人が迷い込んだときにどう措置するか聞いた時に。
「ウーニャの村で魔法関係を統括しているベリーヌです。お目にかかるのははじめてですね」
俺達は頷く。
エルフは他の種族より遙かに数が少ないとされている。
また滅多に他の種族の前には出てこない。
だから見るのは初めてだ。
それは俺以外も同じらしい。
「それでは皆さんをエデタニア近郊のチェステーまでお送りします」
お送りします?
どうやって?
そう思った瞬間、ふらっと景色が揺れる。
『実は此処はクエンカから歩いても辿り着ける場所ではありません。通常の方法では辿り着けない場所にあります。私達はこの村を目指して来る人々を魔法で確認し、移動魔法で招き入れているのです』
伝達魔法でそんなとんでもない事が伝えられた。
何だそれは。
でもそれなら……
『ええ、本来は秘密です。この村でその事を知っているのは、人の移動を司っているエルフと、あとは村長代理のラウルだけ』
俺の疑問を読み取ったように回答がくる。
なら何故その事を俺に教えたのだ。
もしくは俺達に教えたのだ。
『この伝達魔法は貴方方のうちハンス、ミリア、そしてフィンの3名に送っています。村長がそうするべきと判断しました』
景色が揺らいで薄れていく。
間違いなくこれは移動魔法だ。
メディアさんの所で経験がある。
それならば、だ。
『この村の村長とは、メディアさんなのか』
あえて伝達魔法にして聞いてみる。
『違います。ですがメディア=カサンダラと同じ第一世代の者です』
第一世代?
その単語はおぼえがある。
確かウラートの研究書で……
景色がふっと灰色になって消える。
代わりに現れたのは畑の中を通る道路だ。
背の高いトウモロコシの畑で道路以外は見えない。
景色の揺れが消えて、彩度がくっきりとする。
移動が完了したようだ。
「な、何なの、これって」
「俺達、村の事務所にいた筈だよな」
前衛2人が騒ぎ出す。
「移動魔法よ、今のは」
ミリアは先程の魔法音声を聞いていた筈だ。
だからかそう冷静に説明する。
「そんな魔法あるのか?」
「伝説にはあるけれど使用したという話は聞いたことが無いわ。でも少なくとも一部のエルフは使えるようね、この様子では」
モリさんとフィンは無言だ。
今の魔法に驚いているのか、別の事を考えているのか。
「それで俺達はどっちへ行けばいいんだ。この道には標識も何も無いぜ」
ライバーのその質問になら答えられる。
「こっちだ。チェステーに送ると言っていた。ならエデタニアはこっち、太陽の昇る方角にある筈だ」
時間的に今はまだ朝早い。
そしてチェステーはエデタニアの西。
だから太陽に近い方向に向かって歩けばいい筈だ。
「なら行くか。とりあえず帰らなきゃな」
モリさんの台詞は正しい。
何はともあれ俺達は学校に帰らなければならない。
「行きましょう」
ミリアの台詞とともにモリさん先頭で俺達は歩き出す。
後でミリアやフィンと今の件について話をしよう。
そう俺は思いながら。




