44 休憩場所にて
あれから俺とクーパーで1回ずつ魔獣牽引を実施。
「俺っちも足には自信があんだけれどさあ。ハンスって凄いよな。これを何回も繰り返したら体力が持たないぜ」
「でも見てすぐこれが出来るというのは正直凄いと思う。正確な索敵力と足の速さ、判断力が無いと無理だから」
走りながら周りを索敵して、最適なコースを考えつつ魔獣を引っ張って行くのだ。
それを見ただけでほぼ出来るというのはかなりのものだと思う。
「さて、魔獣もかなり獲ったから休憩しようか。この平原だと魔獣が多すぎるから少し移動して昼食の準備をするよ」
何せもとが畑の跡という立地上、どうしてもこの平原は魔獣が多くなる。
だから索敵して安全そうな場所へ移動して休憩する訳だ。
カペック平原は何度も来ているのでだいたい休憩場所も決まっている。
今日のように手前側にいる場合は町の方へ少し戻った場所から西側へ獣道を少しだけ入った場所。
ちょうど崖の上になっていて森側だけを警戒すればそれで済む。
下が岩だから座って汚れないのもいい点だ。
「それじゃお昼にするよ。牙ウサギと牙ネズミはいっぱいあるから、少しお昼に使ってもいいかな」
「問題無いと思うわよ」
「異議無し。肉が多い方がいい!」
「俺っちも同意見だな」
「それじゃ昼食くらいは僕がやるんだな。全然活躍できなかったから」
おっと、ショーンが名乗り出た。
「それじゃショーンに任せるよ。牙ウサギと牙ネズミ、どっちがいい?」
「獲ってすぐなら牙ネズミの方が柔らかくていいんだな。この人数だと3匹は欲しいんだな」
「それなら倍の6匹でいいか」
「充分なんだな」
自在袋から出す。
何せさっきまでの魔獣牽引で20匹近くは狩っているのだ。
ここはケチらず出すべきだろう。
「おっと、解体は俺っちも手伝おうか」
「この辺は任せて欲しいんだな。あと大きめのボールか鍋を4つ欲しいんだな」
「わかった」
フィンが鍋を4つ取り出す。
ショーンが腰に下げていたナイフを取り出した。
さっと牙ネズミに刃を入れるとすすっと滑らすようにナイフを動かす。
みるみるうちに全体の皮が剥がされた。
4つ並べた鍋に皮、魔石、内臓、肉と分けられていく。
「おっとモーリより解体が早い奴、見るのは俺っちはじめてだ」
確かに俺やモーリより更に早いし手際がいい。
しかも見ると水属性魔法や氷属性魔法も同時に使って、洗浄だの肉を冷やすのだのまでやっているようだ。
「ショーンって氷属性魔法まで使える訳?」
「攻撃魔法の威力は無いけれど、捌いたり料理を作ったりする程度なら使えるんだな」
氷属性魔法は水属性魔法の進化属性だ。
使える人は火属性魔法や水属性魔法に比べてかなり少ない。
しかも捌いている途中で自在に水を出したりしている様子だ。
「これって鍛えれば攻撃魔法もかなり使えるんじゃない」
「学校で頑張ったけれどいまいちなんだな」
あ、フィンの眼がまた光った気がした。
何か強化武器を考え出したに違いない。
「それじゃ料理の方はショーンに任せれば問題無さそうだしさ。手伝いもフィンに任せてこっちは天幕を張る練習をしよう。学校備品の天幕と立て方が違うけれど、こっちの方が簡単だからさ。すぐに慣れると思う。
フィン、天幕の自在袋を頼む」
「あ、じゃこれお願い」
モーリがフィンから天幕入りの自在袋を受け取る。
自在袋から出したのは
① 3腕くらいある長い棒3本
② 2腕くらいある長い棒1本
③ 縫製済の重なった巨大な布地(緑色と茶色)
④ 縫製済の1枚の巨大な布地(濃い緑色)
というセットだ。
「こんな長い、しかもブラブラしなる棒でどうやって天幕を立てるんだ?」
「この辺は前からやっているハンス、ミリア、ライバー、アンジェ、私でやるからさ。まあ見ててくれ」
休息日に練習したので前からの面子は立て方をおぼえている。
① まずは重なった巨大な布地を広げる。この布は2色になっているので、緑色の方が上になるように広げる。
② 広げきるとほぼ六角形になる。
③ 六角形の角の近くにある穴に棒を入れていく。
完全に入れたら端をその向かいにある袋状の部分に入れる。
④ 半円形になった棒3本で支えられた半球に近い形の天幕が立ち上がる。
六角形のうち向かいある2面に出入口となる穴があいている。
⑤ 濃い緑色の布地を天幕の上にかける。この場合、布地が長くなっている部分が出入口のうち1箇所と同じ場所になるようにする。
⑥ かぶせた濃い緑色の布地についているひもを天幕の角部分に結びつける。
⑦ 残った棒を半球状になるように曲げる。
出入り口部分の下左右に棒を差し込む袋状の部分がある。
そこに差し込んで固定する。
半球状態の棒の真ん中を濃い緑色の布についているひもでしばると屋根付きの出入口になる。
とまあ説明すると長いがやってみると簡単だ。
しかもこの天幕、ペグや石を使って紐で固定しなくても自立してくれる。
中も割と広々しているし、学校装備の天幕より遙かに使いやすい。
「そうか。棒がしなるのを利用して立てる訳か」
「慣れれば学校の天幕より立てやすそうですね」
「中に入ると思った以上に広いぞこれ」
そうそう。
俺もはじめて見た時は驚いた。
何せ俺の知っている天幕とあまりに違うから。
「でも風が吹いても大丈夫かな」
「学校の三角天幕よりむしろ風には強かった。ポールだけで自立する構造だし。風属性魔法で試してみたけれどさ。多少揺れる程度でかなりの風に耐えるようだ」
その辺は俺とミリアで色々試してみたのだ。
結果的に問題が無い事がよくわかっている。
「それじゃ一度たたんで、今度は皆でやってみよう」
調理中の2人を除き、新しい人中心に立て方を練習する。
もっともわかってしまえば簡単、だから全員すぐにおぼえた。
「これはいいな。これの小型版、幾らくらいするんだろうか」
「フィンのオリジナルだからさ。欲しいならフィンに頼むしかない」
「やっぱり中広いよね。形的にどうかと思ったけれど普通の天幕より使いやすそう」
なんて試しているといい匂いがしはじめてきた。
「それじゃこれはショーンにも見て貰うためにこのままにしておこうか」
「でもこの天幕、中に何も入っていないと風で飛ぶのよ。だから一度面倒でも潰しておいた方がいいと思う」
そんな訳で長い棒を固定する前の状態まで戻して、フィンとショーンの方へ。
まだ3半時間程度しか経っていないのに既に形になっている。
メインは牙ネズミの骨付き肉を焼いたもの。
それに肉と野菜たっぷりのスープ。
あとは見慣れない形や質感の肉らしきものと野菜を炒めたものだ。
「捌くところからはじめたのにもう出来ている!」
「僕はこれしか得意な事が無いんだな」
「でも美味しそう」
早速全員で囲む。
「スープは固パンを浸して食べるとちょうど美味しいと思うんだな。あと肉は骨付きだから注意して欲しいんだな」
「でもこの見慣れないふにふにの皮っぽいのは何かしら。皮じゃないよね」
ミリアは野菜と一緒に炒められた肉っぽいものが気になったようだ。
「それは牙ネズミのモツ部分なんだな」
「モツってあの臭い奴?」
アンジェが顔をしかめる。
「多分臭くはないんだな。新鮮なのをよく洗って冷やして、熱湯で洗った後に焼いたから問題はないと思うんだな」
そうなのだろうか。
俺もモツはくさいものという印象が強い。
山暮らしをしていた頃は食べずに焼き捨てていたし。
「それはまあ、食べてみてよ」
フィンがそう言うからには大丈夫なのだろうけれど。
食事開始。
まずは美味しそうな肉からいただく。
見かけだけで無くやっぱり美味しい。
塩味だけではなく、何かハーブも刻んで味付けに使っている模様。
こんな場所の野営食なのに下手したら……
「学校の食堂よりも美味いよな、これ」
モリさんが言ってしまった。
でも最初に肉を食べた連中は全員そう思っていたようだ。
うんうんと頷いている。
「あ、これ確かに臭くない。というか美味しい!」
あの怪しい野菜炒めを食べたアンジェがそんな事を言う。
えっ、モツが臭くない?
本当だろうか。
食べてみる。
もにゅっとした不思議な歯ごたえと中からじんわり染みてくる旨み。
確かに臭くない。
勿論生姜やローズマリー、あと何か俺の知らないハーブを使ってはいる。
でもそれだけではきっと無い。
「この味だったら積極的にモツを食べてもいいと思うよね」
「確かにそうだよな。私の知っているモツと違う」
「本当ね。これははじめて」
アンジェとモリさん、ミリアがガツガツ食べている。
「処理方法だけでこんなに味が変わるのか」
「今回のは新鮮だし自在袋で保管したというのもあるんだな」
「いやそれでも違い過ぎるだろ」
これも本人以外全員がうんうんと頷いている。
「実習でも食事だけは3食とも2パーティ合同にしない?」
ミリア、いいのかそれで。
フィンとショーンが困っているぞ。
仕方ないから俺が返答させて貰う。
「それを教官が許可すると思うか?」
「たまたま行程が同じでたまたま休憩場所が同じで……」
言っている途中でミリアも気づいたようだ。
「駄目よね、やっぱり」
「朝と夜は大丈夫だろう。昼はまあ、頑張れ」
「だよね、やっぱり」
ミリア、がっくり。
それでも食べ続けている処は流石だが。
天幕は、ヘリテイジのエスパース・6~7人用に同じくエスパース・スーパーライトPLUS風のフライをつけたようなイメージで描いています。勿論物語用に細かいところをいじってはいますけれど。(大学時代に使っていたテントでイメージしやすいので)
なお学校貸し出し用の天幕はいわゆる三角テントです。今時のティーピータイプのモノポールの奴では無くて、三角柱を横倒しにしたような2つポールを使うタイプ。今時あまりないなと思うのですが、アマゾンで『テント 軍』とかやると出てきます。これ風に弱くて大変なんですよ……




