40 作戦会議
この冒険者学校は7月と8月はまるまる長期休暇。
だがその前に2泊3日で実習がある。
野外遠征実習といって、要は野宿しながら旅行をする訓練だ。
地図で指定された経路を通り、指定された場所で野宿をして帰ってくる。
1日に歩く距離はだいたい20離。
雨天決行というなかなか厳しい訓練だ。
野宿で使用する装備は学校から借りても自前で揃えてもいい。
この装備には武器や防具の他、天幕や鍋釜類まで含む。
食事は非常食を含め10食分の固パンだけ支給され、あとは自己調達だ。
またこの訓練は5~8人編成のパーティ単位で実施する。
パーティメンバーは基本的に1年生なら組に関係なく自由に組んでいい。
なお面子の都合で教官によって調整が入る場合もある。
結果、野外遠征実習の2週前だというのに、もうパーティ人員の争奪戦が激しい。
戦力を揃えればその分楽になるから当然だ。
でも俺達はフィンも入れた6人で安定しているし、このままでいいだろう。
そんな訳で本日は6人で来る実習に向けての作戦会議だ。
実態はいつもの夕食の時に話題になったというだけなのだけれど。
「ちょっと勿体ないけれどギルドでカルデローナやサラバス地方の情報入り地図を買っておきたいな。それもそれぞれのパーティ用にさ。そうすればどんな魔獣や魔物がどの辺で出るか対策を取りやすいからさ」
まずはモリさんが無難な意見を言う。
「そうだね。ほとんどはこの辺と同じだと思うけれど、アンデッド系が出たりする場所があると面倒だし。その辺の対策の為にも地図と情報は必要かな」
「あれって幾らだっけ?」
「1枚地図タイプだと1地方につき小銀貨1枚、街や迷宮、スポットごとに出現する魔物や魔獣の詳細まで載っている書籍形式のものが1地方あたり正銀貨2枚だ」
以前ギルドの仕事もやっていたモリさんはこういう事には結構詳しい。
「高価いなあ。地図1枚だけ買って手書きで写して使うんじゃ駄目か?」
「そうだよね。高い方の値段だと半日分の稼ぎに近いし」
ライバーとアンジェが大雑把な事を言う。
あ、ミリアが何か言いたそうにしている。
本来こういう話はこのパーティではミリアが中心でやるのが普通だ。
でも今日はあえてミリアは一言も意見を言っていない。
これはきっと4人に考えさせる訓練と思っているのだろう。
だから俺もあえて今のところ意見を言わずにいる。
「僕は高い方を買った方がいいと思うかな。通る場所に関する情報を読み込んでおかないと心配だしね。ラトレの迷宮にいるケイブフロッグのように、擬態して見つけにくい魔獣や魔物がいるなんて情報があれば事前に注意出来るから」
「私も高い方をそれぞれ買った方がいいと思う。財政的にはかなり痛いけれどさ。でも持っていて役に立たない事は無いし、今後も結構役に立つと思うんだ。夏休みにちょっと遠征する際なんかにもさ」
なるほど。
ここで普段の戦闘タイプの違いが出てくる訳か。
とにかく目の前に出てきた敵を倒す近接戦タイプと、索敵重視で出来れば距離があるうちに仕掛ける弓メインのタイプに。
アンジェは元々魔法メインだった筈なのにフィン制作の魔法槍を装備してから完全に近接戦タイプになってきているしな。
俺としては興味もあるし高い方を買っておいた方がいいとは思う。
でもここはあえてミリアにならって口を出さないでおこう。
さてこの話し合いの結果はどうなるかな。
「うーん。あのモリさんが買った方がいいというなら、買うべきだよね」
「だな」
あれ? 思ったよりあっさり買う方に決まってしまった。
なので思わず聞いてしまう。
「それでいいのか?」
「こんな値段なのにモリさんが必要と言うんだぜ。自分の飯代すら節約しかねないあのモリさんが」
「だよね。モリさんが言うからには値段以上の必要性があると思えるわ」
おいおいおい。
そういう方向性の信頼関係か。
思い切りツッコみたいところだが堪えておこう。
ミリアも我慢しているようだから。
「食事の計画とかは授業でならった通りに用意しておけばいいよね」
早くも別の話題に入る。
「途中で魔獣や野獣を狩るなんてのは不確かだしな。それでいい」
「野宿用の装備も学校から標準のものを借りる事でいいかな」
「あ、それは試作した軽量天幕セットがあるんだ。授業で使った天幕よりは軽くて中も広いと思うよ」
「それは明日にでも試してみよう」
「だね」
俺やミリアの魔法を使わなくても、フィン制作装備だけで他のパーティよりかなり有利だったりする。
フィン特製の武器や防具は既にモリさん、ライバー、アンジェの戦闘力の一部だ。
しかし天幕セットまで作っているのか。
「武器や防具だけじゃなく、そんな物まで作っているんだな」
「これは前々から考えていた物でね。このパーティに加わってから素材が大量に手に入るようになったからね、この機会にと作ってみたんだ。僕が出来ない木材系の加工や魔力が大量に必要な金属の材質調整はハンスが手伝ってくれるしね。この前ハンスに作って貰った柳が素材のよくしなる棒、あれはこの天幕用だよ」
「天幕の支柱ってしなるようじゃ駄目じゃないのか?」
「そこは発想の転換だよ。しならないとうまく建てられない天幕なんだ。明日晴れたら試してみてよ。良ければこのパーティ用に作るから」
「何か毎回申し訳ないよね。武器や防具も借りちゃったままだし」
確かにアンジェの言う通りだなと思う。
フィン以外はうんうんと頷いているし。
「武器や防具の分はこの前パーティ費で魔法銀や魔法銅なんて貴重素材を買って貰ったしね。それに鉄や鋼、木材については討伐で手に入れたものをハンスが調整してくれるからね。それで充分だよ」
「でもそれじゃ値段と釣り合っていないよな。あの貴重素材だって半分以上は俺達の武器使っちゃっただろ。それにフィンの作業代だってかかる筈だし」
モリさんの言葉にやはりフィン以外はうんうんと頷く。
あまりにフィンに申し訳ないという事で、この前パーティ費で購入した魔法銀や魔法銅は都合正銀貨20枚分。
俺達としては高額だが武器の値段には全くもって足りていない。
アンジェ用の魔法槍と鎧だけでどう考えても正金貨2枚は下らない。
ライバーの剣と盾だって特注だから相場的には小金貨5枚は固い。
モリさんの弓と鎧も同様だ。
だからフィンに内緒で貴重素材2種を購入して、パーティの総意という事で無理矢理受け取ってもらった訳だ。
だがその結果、武器や鎧それぞれを魔法素材を使う事で更にパワーアップ。
3人とも一流冒険者並かそれ以上の装備になってしまった。
更にアンジェ用を更に高熱・大魔法対応にしたミリア専用魔法槍、俺専用魔法斧なんてものまで出来てしまう有様。
もうこの技能だけでフィン、立派に独り立ち出来るような気がする。
本人は『思いついたアイディアを形にするのが楽しいんだよ』と言っているので止めようがないのだけれども。




