18 出る杭は逆襲する
5曜日の魔法演習は初回という事もあって少し早めに終わった。
魔法演習はレベル別で、俺とミリアはいきなり最上級のクラス。
周りは上級生ばかりだ。
おかげで大変居心地が悪い。
ただ授業終了後。
嫌な空気が微妙に漂っている。
視線からしてミリアではなく俺が対象のようだ。
こういう雰囲気は獣人社会でも存在したのでわかっている。
そしてかかる火の粉は振り払っておいた方がいい。
俺はそう判断した。
「ちょい用事があるから先に行っていてくれ。午後の討伐には行くから」
「わかったわ。ほどほどにね」
ミリアも感づいているようだ。
俺はミリアと別れ、食堂と逆の方向へ。
廊下をわざと校舎の端、人気が少ない方へ歩いていく。
予想通りいくつかの気配がついてきた。
ついてきている連中も一応隠形魔法や気配隠匿魔法を使っている。
でも下手糞なのでバレバレだ。
ミリアが寮から帰る時にやった、俺でもそこにいると知らなければ気づけないようなレベルと比べると雲泥の差といっていい。
そのまま歩いて校舎の裏側、学校内で最も外れで人がいなさそうな場所へ到着。
「ここでいいだろう。そろそろ姿を現わしたらどうだ?」
出てこいよと話をむけてやる。
「生意気な奴だな。1年の癖に」
「その1年に見破られるような情けない奴に言われる筋合いはない」
やはり予想したような連中のようだ。
此処にもこんな奴がいた訳だ。
それはそれで問題は無いけれど。
俺は周辺の気配を探る。
1,2,3,4……いや、もう1人いる。
このもう1人は他の4人と全く違う強さだ。
俺が気付いたのも隠形魔法や気配隠匿が下手だからではない。
むしろ逆。
俺が気付くようについ今し方、わざと魔法のレベルを落としたからだ。
こいつにだけは注意をしておこう。
最低でもミリア以上の腕がありそうだ。
「それでこんな処まで来て何の用だ?」
「こいつ!」
「まあ待て」
要注意以外の4人が完全に姿を現わした。
バッチから見て全員上級生だ。
「俺達は君と取引に来ただけだ。ハンス、お前は1曜日に金属性魔法、4曜日に生命属性魔法を取っただろう」
その後も続くのかと思ったが、台詞がそこで止まったままなので尋ねてみる。
「それがどうかしたか」
「あれは1年がとる授業じゃない。さっさと辞退しろ。今から事務室に付き合ってやるから辞退の意志をはっきり伝えるんだ」
なるほど、そういう事か。
「つまり誰かが落ちたんだな。それで譲って下さいと頼みに来たと。ただそれは人に物を頼む態度ではないな。頼むときはどうぞお願いしますと頭を下げるものだ」
動きや隠形魔法等を見てだいたい4人の実力は想像がつく。
ミリアでも余裕で圧倒できるレベルだ。
ただ残る1名の実力だけはつかめない。
こいつだけは危険と感じる。
どうしようかと少し考え、あえて直接尋ねてみる事にした。
「俺は頼む態度とはそういうものだと思うのだが、そこに隠れている人はどう思う?」
「何!」
4人がとっさに左右きょろきょろと見る。
どうやらこいつらの仲間ではなかったようだ。
5人目がふっと姿を現わす。
「何か起こったらまずいかなと思って来てみたのだけれどね。放っておいても良さそうな案件と判断したからさ。様子を窺っていたんだよ」
奴の姿は見覚えがあった。
金属性魔法の試験の際、純鉄の真球を作って真っ先に出て行ったあの上級生だ。
今日の訓練も俺やミリアと同様最上級クラスで見た気がする。
「何だアルストム、邪魔するつもりか」
「いや、今回に限っては邪魔はしないと約束しよう。更に手助けしてやってもいい」
アルストムと呼ばれた上級生はそう言ってすっと右腕を振る。
ふっと周りに魔力が広がった。
この魔力の感じは隠蔽魔法だ。
隠形魔法は人にかける魔法だが隠蔽魔法は場所にかける魔法。
効果は同じでかけられた対象の気配や魔力が範囲外からは感じられなくなる。
「わかると思うが隠蔽魔法だよ、これは。この中で何が起きたかは感知できないと僕が保証しよう。たとえシャミー教官であってもだ。だからこの場に限り、思う存分やっても問題無い」
「アルストム、どういうつもりだ」
「俺達に加勢してくれるのか」
アルストムと呼ばれた上級生は薄く笑みを浮かべる。
「この時間この場に限り何をしても外からわからないようにした。ただそれだけの事だ。ただしここで起きた事について後に引きずるような事をした場合はだ。対象者は今後2週間、僕の玩具にしてやる事を約束しよう」
4人がふっと一瞬怯えたような表情をした。
どうやらこのアルストムという上級生、かなり強いとされているようだ。
確かに他の4人と比べて魔法の腕が段違いなのはここまで見ただけでもよくわかる。
だが4人は怯えを隠すためか下品な笑みを浮かべ直した。
「つまりこの中では何してもバレないというアルストムのお墨付きか。悪くねえ」
「どうだハンス。こっちは上級生4人でそっちは1年1人だ。さっさと状況を察して授業を俺達に譲るんだな」
話し合いは無理なようだ。
そうやって解決出来るのは理性と判断力がある者同士だけ。
どう見てもそんな理性や判断力があるようには見えない。
それにそんな俺が飲む義務も義理も価値も無い交渉なんて持ちだすような奴に、話し合う必然性も感じないしな。
「ま、そこそこ手加減してやるんだな」
アルストムがそんな台詞を吐いた。
その台詞がどちらに向かっているのかは俺はあえて判断しない。
さて、これ以上無駄な時間をつかうのももったいない。
午後からはいつもの討伐が待っているのだ。
そろそろ始めさせてもらうとしよう。
「義務も義理も無い事を交渉するには何か代償が必要だろう。1コマ正金貨20枚も積んでくれたら考えないでもない。勿論考えるだけだけれどな」
「先輩に対する義理を指導してやる! 風属性魔法、ウィンドカッター!」
どうやら相手の皆さんは短気なようだ。
いきなり攻撃魔法が飛んで来た。
ウィンドカッター、風圧の差で切り刻むタイプの魔法だ。
だが所詮は風属性初級魔法。
進行方向斜め上からそれ以上の風圧をかけてやればあっさり消える。
無詠唱で対処すれば動く必要もない。
「何かやったか?」
わざとらしく相手に聞いてやる。
「こっちが下手に出ていれば」
「どこが下手だ。国語能力を疑うな」
ウィンドカッターが3発連続で飛んで来た。
だが所詮は初級魔法、さっきと同じ方法で叩き潰す。




