第20話 挫折と幻滅と
決意をしたまでは良かった、結局すぐに挫折を考え始めるあたり、私はかなり人がいいのだろう。そもそもカルスにほだされてしまったかつての自分を思い返せば分かることだが、どうも私はこのミスト王国王家の血に弱いらしく、昨日決めたこととは異なってもう、解放されなくてもいいからこの第一王子をどうにか支えてやらねばという気分になってしまったのである。
それもよく考えれば当然のことなのかもしれない。私はこの王家を数百年見守ってきた。全員、赤ん坊のころから見てきたのだ。直接育てた訳ではないが、影から彼らを守ってきた。親心が生まれるのも仕方のない話である。そのことに、王家を離れようと考え始めるまで気付かなかった自分の愚かさを呪ってやりたい気分になった。結局、私はもうこの王家から離れることができない。愛するべき家族、そんな風に心の奥底で思ってしまっているのだろう。
特に第一王子は、愛しかった。たまにこれが親心なのかそれともそれ以外の気持ちなのか分からなくなるくらいに。
けれど私は結局、存在しないものなのである。何か情動に突き動かされて行動する訳には行かなかった。せいぜい、つかず離れず一緒にいるくらい。それでも私は満足だったから別にいいのである。
*
さて、私の決意の弱さは皆が知るところだろう。何がそれでいいだ。私は自分の心の弱さをまたもや確認してしまった。
ある日ぼんやりと第一王子の部屋で本を読んでいると突然、おそろしいほどの喉の渇きを感じた。なんだこれは、と思うと同時にどこか懐かしいような記憶と共にその渇きの理由が蘇った。
カルスの血を飲みたくてたまらなくなったときの衝動である。
しかし今はもう、彼はいない。一体わたしは誰の血を飲もうと言うのか。
衝動を抑えようと深呼吸をしていると、部屋の扉ががちゃりと開く。第一王子だ。
そこまで私は対して心配していなかった。この吸血衝動はカルスにのみ働くものだからだ。その他の人間の血を欲しいとは、思わない。だから第一王子が近くにいようとも何も問題がないはずだった。
けれど。
彼の姿を見た途端、自分の心が彼の首筋で塗り潰されていくことを感じた。
血が欲しい。飲みたい。あの肩から、首筋からどろどろとした赤い液体を吸いたい。
そこまで考えている自分に気づき、まずいと思うと同時に、もはやこれは仕方ないとも思った。緊急事態と言う奴なのだから、それくらい許してくれるだろうと、頭の悪いことも考えていた。
そもそも王家の血筋を守ると言う契約をした私が、王家の血を吸ってどうしようというのだ。まぁ殺す気はないから契約には反しないのかもしれないが、それでも駄目だろう。
けれど、私に自制はできなかった。
その持つ身体能力の全てを発揮して第一王子に飛びかかると、そのままベッドまで引きずりこんで首筋を覆う服を破りたいと思った。
さぁ、吸おう。大いに味わおう。
そう思った。
「血が欲しい」
そう正直に告げると、彼は不思議そうな顔をして、それでも許可をしてくれた。
私は一瞬冷静になって、何か聞こうとしたが、衝動には逆らえない。
服を破き、食事を始めたのだった。




