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一次元転生  作者: K省略
第一章 蟲国編
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第一章 10話 卑怯者

「し、死刑ってなんだよ」


 悍ましいその響きにショウは一歩あとすざり。


「死刑ってのは、死をもって罪を償うことだな」

「そういうことじゃねぇよ!」


 ニツクダはふざけているようだが、明らかに感じられるあの雰囲気がショウを蝕む。

 ディオニスの時にも感じた、突き刺されるような雰囲気。

 一歩下がった分、ニツクダが一歩こちらに詰める。まるで絶対に逃さないとでもいうように。

 ショウは死刑の真偽が気になって、ゲンゴロウの蟲人に「死刑ってほんとかよ?」と聞くと、「いやぁ」と彼も分からない様子である。


 何かがおかしいのはたしかだ。


「まぁなんだ。オイラがお前さんをただ殺すってのは流石に可哀想だからよう。贖罪のチャンスをやろう」

「──チャンス?」

「今からオイラは死刑執行するが、抵抗しても構わない」

「抵抗って……」


 それがチャンス? こんなバカな話あるだろうか。そもそもこっちはまだ露出罪だというのにも納得していない。


「……分かった。謝罪する。」


 ショウの口から出たのは謝罪をしたいという旨の言葉。彼は負けず嫌いなので、本当はこんなこと言いたくない、言いたくないが……


「ん? 謝罪なんて必要ねえよ。抵抗してくれりゃあ」

「分かった。抵抗はする。だが、その前に謝罪だけさせてくれ。見苦しい裸体を見せてしまった、というのも事実だし」

「まぁ、そんなに謝りてぇってんなら止めねえよ」


 ニツクダは困惑しながらも許可をだす。まさか棒人間がこんなに真摯な奴だったとは思わなかったらしい。


「では……」


 ショウは地に膝をつき、右手、左手と順に手も地につけていく。そう、それは日本に古来から伝わる謝罪の奥義──“土下座”の構えに他ならない。

 こっちの世界に土下座の文化があるのかは知らないが、蟲人たちはショウの行動を静かに見守っていた。


 ふぅ、小さく息をつき、ショウは覚悟を決めた。

 頭を徐々に大地へと近づけて──


「まことにごめんなさ──


 ──土下座アッパーああああああッ!!!」

 

 説明しよう。“土下座アッパー”とは「土下座する」と言って相手の油断を誘い、最高のタイミングで地面から相手の下腹部まで拳の加速を行い、そしてぶつける、大胆かつ巧妙たる必殺技である。

 ──渾身の一撃が、バッタの腹部に炸裂ッ


「──グハァッ!?」


 ショウより少し大きい蟲人の体は、宙で綺麗な弧を描く。

 かの蟲国騎士団を率いる『三甲』が筆頭──『躍甲』のニツクダが、一人の棒人間に吹き飛ばされたと言う事実に、周りの観客は言葉が出ない。

 地面にひれ伏し、お腹を抱えるニツクダを見下しながらショウは言う。


「ふっふっふ、この“土下座アッパー“は俺がジンとの空手の試合に勝つために三ヶ月にも渡る研究で生み出した究極の技。あんたは強いみたいだが、ジン程みたいではないようだな。ジンは見破った上に、カウンターを繰り出し、俺は一撃で敗北したぞッ」


 自慢げにそう言い切って「どうだ!」と胸を張る。


 だが周りの反応は当然だがよくない。どこか引いている感じである。

 はじめはその卑怯さに声も出なかった観客たちであったが、すこし時がたつとざわざわざわ。やり口について文句がはじまる。


「卑怯だぞ!」

「きたねぇ!」

「このヒョロガリが!」


 言いたい放題であったが、それも当然か。卑怯な手段で自分たちのリーダーがやられたんだから、黙ってみてるというわけにもいかない。

 ショウも、こういうことを言われるのは分かっていたので堂々としていて。


「おい誰だ! 今ヒョロガリって言ったやつ!!」


 ヒョロガリはどうやらアウトだったようだ。

 だんだんとショウを非難する空気ができていく。

 しかしその時──


「グ……ま、まぁまぁ落ち着けや、お前さんたち」


 ニツクダが立ち上がった。まだ腹部は痛むらしく抑えたままだ。

 その一言でざわめきがピタッと止んだ。風が葉っぱを撫でる音が聞こえるぐらいには、あたりは静かになった。

 ニツクダという男は、それだけ言葉に重みがあり、それだけ強い腕を持っている。


「確かに今のは卑怯だが、戦場ではそんなことは言ってらんねぇ。卑怯な手は使い尽くせって言う奴もいたもんだ」


 ──戦場。本物を知る者。

 一歩、ニツクダはこっちに寄る。

 踏み締めた大地が、ぐしゃりと泣いた。

 そこに込められるは怒り。卑怯者を報復せむとする憤怒である。

 あまりの迫力に喉は乾いていて、声は引っかかって出なくなっていた。


「オイラは少しばかりは遊んでやってもいいって思ってたんだが、そっちがその気なら、いいぜ?」


 殺気。先程のは造物だったと言うことを嫌でも分からせる、氷柱の如き殺気。


「お前さんが言ったんだ。殺せ、ってな」


 迫りかかる殺気に乗せて、硬い装甲を纏った拳がショウに襲いかかる。

 自慢の細身で避ける──が、ニツクダの赤黒い眼光はまだショウを捕らえていて、

 ──カン。 小さく金属が擦れる音。直後、ポサと何かが落ちる。


「ぁ」


 ショウからそんな声が漏れ出る。

 小さく鳴った金属の正体は剣。ニツクダが腰に据えていたものだ。

 しかし、ショウが今見ているのは地に落ちた“それ”であった。


「うで?」


 そう、腕である。黒い、鉛筆の芯のような腕が、豆腐のように切れた。

 切断面は鮮やか。

 棒人間は短くなった我が右手を見て、それが自身のものだと理解する。

 痛みはない。だが、コレで一つ攻撃手段を失ったことになる。

 ──と思った刹那、腕が伸びて元の大きさに戻っていく。


「へぇ、再生するのか」


 ニツクダは口をぐちゃと歪めて、嗤った。

 邪悪な笑顔にショウは肩を震わせる。その正体は、恐怖と、疲労。

 この身体は痛みがない。しかし、ダメージが疲労に直結する。

 その何重にも重なったかレンズのような、こちらを見透かすようなニツクダの眼を見据えて、ショウは拳を固めた。

 もう飽き程のような手は通じない。ここからは純粋な戦闘なのだ。


「おらッ」


 ショウは手を鞭のようにしならせて、左フックを放つ。

 空気を割く音を立ててニツクダの首目掛けて──


「へぇ、良い」


 ニツクダはそう一言。

 拳は剣で受け止められていた。

 それを認識した瞬間、剣は回転。うねり、さらにうねり、まるで舞踊のように脚にかけて切断する。

 脚が消え、ショウはバランスを崩して倒れる。


「──ッはぁ!」


 先程よりも再生が遅い。どうやら体の中心に近い部分ほど再生が遅く、負荷がかかるようだ。

 再生とともに、漏れ出す疲労。

 ニツクダも勘付いたのか、ニヤリと笑んでいた。


「なんだ? 思ったより早く終わりそうじゃないか」


 剣をこちらに向けて、構える。


「ちょっと気になったんだが、首元を切ると生えてくるのは頭か? それとも胴体か? 見せてくれるかい?」


 まるでこの一回で終わらせにくるかのような気迫。

 ──このまま切られてちゃ駄目だ。頭なんて切られれば、死んでしまう!

 恐怖と焦燥感がショウを襲う。


 ──駄目だ落ち着け。思考を巡らせろ!


 第一、このままじゃ駄目だ。斬られて、動けなくなって、終わる。

 じゃあどうする? 卑怯な手はもう効かない。

 かと言って、今までただの学生として過ごしてきた俺に何ができんだ。

 駄目だ、ダメダメ。過去に頼ってちゃダメなんだ。


 編み出すしかない──今。俺だけのオリジナルを。

土下座アッパー。どうぞ皆様ご利用ください。土下座頭突きもおすすめです。

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