3.『火山の巨人イオスパイデ』part 3.
次の日、急な土砂降りは始まったときと同じように急に止んで、私たちは火山と谷の調査に出かけられることになった。
火山灰問題は、町に結界を張るんじゃなくて、火山のほうに働きかけてみようっていう私の提案が仮採用になって、取り敢えず調査後に具体的な決定をする予定。
いわゆる工場の煙みたいなもんだと思えばイイのではないか?
現実世界なら無理な話でも、結界だの魔法だの使えそうなファンタジー要素があるんだから、ぼくがかんがえたさいきょうの解決策が実現可能なのではないか?
……と、思った。
あくまで思いつきの段階だけど、なんかトポロジーみたいなグンニャリした煙突を結界で作って、火山灰を火口に戻す作戦である。
本当にできるかどうかはわかんないけど、マーヤークさんが支持してくれたので、何となくできそうな予感がしている。
でも漠然としかイメージできていないので、実際に火山の噴火具合を見て、どのくらいの規模でどんな強度でどんな形の結界を作ったらいいか考えてみようという流れ。
町長さんも、昨日の今日で解決するとは思っていないとのことで、調査に行く私たちを快く送り出してくれた。
さすがに自然災害と隣り合わせの町を運営するだけあって、フツーに優秀な町長さんらしい。
政治的立場だの見栄だのでパワハラかましてくるような、クソ無能じゃなくて良かったよ……
とはいえ、登山となると、どうしても自力で歩かなければならない。
前回、私は超ゼエハアしながら必死で山道を登ったような気がするんだけど……
あの頃よりは、運動して体力上がってるつもりだけど……
でもやっぱ登山は好きじゃないし苦手だぁあぁぁあぁぁぁ!!
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「はぁ……はぁ……今どの辺ですかぁ……?」
荷物は全部執事さんが手のひらに吸い込んでくれたので、私たちはほとんど手ぶらの状態なんだけど、それでもかなり太ももを上げるのはキツい。
今回は吹雪を起こす魔物がいないようで、赤土が剥き出しになった無機質な山肌を、汗だくで進むハメになっている。
一応、風魔法や水魔法と結界を組み合わせた、着るクーラーみたいなものを纏っているけど、ヘロヘロなのはどうにもならない。
「大丈夫か? 俺の……いや何でもない」
ベアトゥス様が、何かを言いかけて最後をうやむやにごまかす。
たぶん、ファレリ島の図書塔で、妖精王女のアイテールちゃんに怒られたことを思い出したのだろう。
安易に女性を「おんぶしてやる」とか言うのは、この世界では失礼に当たるんだとか。
あれから、何回か王城で本格的なマナー講座を受けたっぽいから、ワイルドな勇者様もちょっと紳士的な振る舞いが身に付いたらしい。
それに、私の前には騎士団の方に両脇を固められた元彼が歩いているし、またマナー違反だとか嗜められでもしたら、元彼に対して格好がつかないと思ったんじゃないかな?
さすがに元彼は全然疲れてないみたいで、こちらを振り向きもせずにサクサクと登っていく。
聞き耳は立ててるかもしんないけど、そんな素振りは一切見せない。
「ごめんねぇ、一応ミドヴェルトに合わせて緩やかな登山道を選んでみたんだけど、距離的には長くなったかもぉ〜」
「いえ……お気遣い……ありがとう……ございます……」
先頭を歩いていたキシュテムさんが、わざわざ私の所まで降りてきて、回復薬をくれた。
怪我は治るけど筋肉痛は治らない、微妙な薬である。
まあ、気休め程度に飲んでおけば、体のどこかの炎症は抑えられるだろう。
いただいた回復薬を口に含みつつ、私は何気なく傍らの石に腰掛けた。
すると、グラッと石が揺れて、瓶を持って斜め上を向いていた私はバランスを崩す。
「ひぁ!?」
「おい、大丈夫か!?」
とっさに勇者様が私の腕をつかんでくれたおかげで、まさかの滑落はまぬがれたけど、回復薬のほとんどが石の上にこぼれてしまった。
「あ、ありがとうございま……す!?」
なんか変な感じがしてお尻の下を見ると、ゆらゆら揺れていた石が、急にせかせかと左右に傾きながら生き物のように歩き去って行った。
あいつ……偽岩モドキだったんか……
「何だ今の岩!?」
ベアトゥス様も初めて見たらしく、軽くドン引きしている。
前回の調査で、偽岩モドキの可動域は1日数cm程度と報告されていたけど、いざという時は逃げ足が早いのかもしれない。
年に1回ぐらいは本気を出すタイプなのか?
気を取り直して、火口までの道のりを進んでいくと、稜線の向こうにモクモクと噴煙が上がっているのが見えた。
キシュテム隊長が、青空にそびえ立つ煙の柱を見ながら、ノールックで隣に居るマーヤークさんとフワフワちゃんに話しかける。
「噴火した当初よりは、だいぶ収まってきているそうだけど……どう思う?」
「ここからではよく見えませんが……やはり火口に行かないと巨人とは話せないのでしょうか」
「ムー! ムー! ムー!」
フワフワちゃんが興奮して飛び跳ねている。
何かあったのかな……?
なんて悠長に考えていると、急にすぐ近くの山腹がぽっこりと膨らんで、斜めに噴火した。
どっふ……!!!
「ええええぇぇえぇぇぇ〜!!?」
私は慌てて調査隊全員を守るように物理防御結界を展開し、一瞬あとに魔法防御結界も重ねがけした。
私以外の面子は、ぶっちゃけ大丈夫そうな雰囲気あるけど、スピロさんとジョシュさんは……もしかしたら体弱いかも知んないし、アジュガ族の元彼は……そもそも避難させられてたんだから、火山の噴火には弱い可能性大である。草だしね。
新たに開いた噴火口からは、粘度の高そうな溶岩がモリモリとハミ出てきて、黒っぽい炭にまみれて赤く光る中身がギュルギュルと動いているのがわかる。
取り敢えず合同調査隊に被害が無さそうなのを確認して、私は水魔法と風魔法のどっちを強めに結界に流そうかと考えていた。
このまま、溶岩がどんどん出てきて熱くなるんなら、やっぱ水魔法がいいんじゃないかと思うけど、噴煙が多くなるなら風魔法が有効だろう。
すると、みるみるうちに溶岩は大きな顔のようになって、聞いたことのある声がした。
「おー! 来てくれたかー! すまんなぁー坊主!」
「ムー!!」
……火山のおじさんじゃん!!!
え? 火口から動けないワケじゃないんだ!?
火山の領域内なら、どこでも顔出せる感じなのか……?
状況把握に手こずっていると、マーヤークさんが仰々しく頭を下げて、火山の巨人に私を紹介してくれた。
「イオスパイデ様、こちら王子殿下の教育係を務める天才魔法使いのミドヴェルト様です」
「おー! よろしく!」
「ミドヴェルト様、こちら火山の巨人として名高いイオスパイデ様です」
「あ、どうも……」
「ムー!!」
私の腕にぴょんと飛び乗ったフワフワちゃんは、そのまま頭の上にスルスルと移動して帽子みたいに収まった。
変な呼称の追加は固定化されたのね……
まあ無駄に『天才魔法使い』って部分を否定して時間を取るのもアレだしなぁ……と思いながら、私は大人しく火山灰の結界についての相談をすることにしたのだった。




