2.『コリオリちからに逆らうな!』part 14.
「いやぁ、ご協力に感謝するよ諸君!」
キューリックさんは、楽しそうに捕まえた寄生松を見ながら、くるりと回ってハンマーを肩にかけた。
とりあえず第一目標は達成できたみたいで何よりですが……
哀れなのは、ボロボロで汗だくのまま蹲っているパート家次男、リヴァル君であろう。
「ハァハァ……くっそ……美味しいとこ……持って行きやがって……」
うむ、無駄口を叩けるほどには元気そうだ。大丈夫であろう。
私は、捕まえた松の木に寄生されたと思われるアジュガ族の方に話しかけてみた。
「こんにちは〜! 私の言葉がわかりますか〜? あなたのお名前は何ですか〜? 生年月日と年齢は言えますか〜?」
暴れ松の枝がなくなってすっかり意気消沈してしまったのか、はたまた脳天をハンマーで直撃されて気を失っているのか、寄生されたアジュガ族の方はウンともスンとも言わない。
……し、死んでないよね……?
「キューリックさん……これって死……」
「ミドヴェルトさん! 見つけましたよ! 松の実です!!」
私が伝説のプラントハンターに業務上過失致死の容疑をかけようとしていると、植物学教授で特別研究員のスピロさんが、そこかしこに散らばった暴れ松の枝をまとめて抱えてやってきた。
その枝には、まだ開いていない松ぼっくりがたくさん付いている。
「この毬果を乾燥させれば、中の種子が取れますよ。後は無事に帰還すれば、貴女の使命は果たされるでしょう」
スピロさんを見ながら、キューリックさんが笑顔で言う。
最低限の礼儀を尽くしてくれては居るけど、もはやこちらに興味はまったく無いようで、寄生されたアジュガ族のほうに気を取られている。
とはいえ、帰るにはこの結界をどうにかしないと……
アジュガ族の方が沈黙しているままでは、今日はもうできることはないのではないか?
「この空間の異常は、まだ解消されていないみたいですね……」
試しにチョコ魔法でも……と思ってやってみたけど、全然うまく行かない。
私の苦心惨憺する様子を見ながら、スピロさんも簡単な魔法を試していた。
「あれっ!? 使えましたよ、火魔法!」
「え? 本当ですか先生!?」
スピロさんの声に反応して、あっちで松の実の処置をしてくれていた助手さんが急いで駆けつけてきた。そんでもって、二人して何だかんだと話し合いながら、何やら細々と紙に書きつけている。
なぜ私はできないのか……?
悔し紛れにファイヤーボールを上空に向けて撃ってみると、想定外の巨大な火球が発動して、周囲の空気が一瞬で持っていかれた。
上空に吸い取られた分を埋め合わせるように、周囲から一気に空気が押し寄せて、上昇気流が発生した。
「ぶはっ……すみません!!」
凄い風に巻き込まれて思わず目を閉じると、風に巻き上げられたマントが人の形になって、私の首元に細い腕を巻きつけた。
「ん〜……ミドちゃんの魔力は良い匂い……」
「ひぇっ……ベリル様!?」
急に精霊女王のベリル様が復活して、私の耳元でふにゃふにゃと喋るので、思わず変な声が出てしまった。
ベリル様は、寝ぼけたように大きなあくびをすると、急に鋭い目付きになってキューリックさんに開いた手を向ける。
「そいつか……我が加護を害するものとは……!」
「え? キューリックさんがどうしたんですか!? ご紹介しましたよね? 彼は伝説の……」
「違う違う! 退け、プラントハンター! そいつを殺すぞ!」
え、何で? 何で? 私は状況が飲み込めず、とりあえず反対した。
「駄目です! 殺さないでください! まだ寄生植物との分離が済んでいなくてですね……あっ!!」
ジュッ……!
私の嘆願は虚しくスルーされ、有無を言わせぬ早業で、精霊女王様が寄生松を焼き切った。
ベリル様の攻撃魔法は、キューリックさんの首筋のすぐ近くをかすめて、アジュガ族の方の頭部に命中する。
「ギヒャアァァアァァ!!!」
キューリックさんは微動だにせず、すぐ後ろで何が起こったのかまったく見ていない。
にも関わらず、状況を正確に判断しているようで、伝説のプラントハンターは少々イラつきながらベリル様に苦言を呈した。
「信心深い僕としては、精霊女王陛下のご決定に異議を申し立てるのは大変心苦しいのですがね……」
ベリル様は攻撃し終わった手をゆっくりと下げ、顔を斜め上にあげて、キューリックさんを見下ろすように睨んだ。
「ほう……? 何か言いたいことがあるのか? 言ってみろ。許す」
なんかもう、勇者様とプロレスしてるときよりヤバい顔してるベリル様に、私もビビり倒すことしかできない。
だけど、そんな精霊女王様の視線を真正面からしっかり受け止めたキューリックさんは、不敵に笑っている。
もしかして……結構強いのか?
いやでも、暴れ松にボロボロにされてたけど……
いやいや待って、チュレア様を抑え込める実力者のマーヤークさんだって、結構いつもボロボロになってるよ……?
じゃあ、精神が強いのか??
しばらく無言で視線を合わせていた二人は、何をどう通じ合ったのか、お互いに「フッ……」と笑みを漏らして目を閉じる。
するとキューリックさんが、首を振って「いや、それとこれとは別だ……」と呟いて前を向いた。
「ベリル女王陛下、かの松の木は大変貴重なサンプルだったのです。火魔法以外の攻撃方法があったのではありませんか?」
キューリックさんの問いに、ベリル様は一瞬きょとんとして、その後なにかに気付いたように大きなため息をつく。
「はぁあ〜……何だよぉ、お前もそっち系? ん? まあ良いけどさぁ……あの生物は細胞が寄生種に侵されていたんだ。ほかの種族に蔓延するのを防ぐには、焼き切るしかない。残念だったな」
「つまり、あの場所自体が汚染されている……とおっしゃりたいのですか?」
「お前の大切な場所……だったかな?」
「対処法は無いと?」
「閉じた世界でなら、存在を許してもいいよ? でも外に出すのは駄目だ。俺の管轄で、厳格に処分しなければいけなくなってしまうからね」
「たとえば、この空間のような……?」
キューリックさんは、焦ったように答えを求める。飛び出したいのを我慢しているかのような動きを見せ、拳を強く握りしめて口元を抑えると、目を閉じて考えながらゆっくりと言葉をひねり出した。
「隔離……そうか、その手があった……」
「キューリック、大丈夫か? 何がどうしたというんだ?」
スピロさんが騒ぎを聞きつけてやってきた。心配性のスピロさんは、キューリックさんが必ずトラブルを起こす……もしくは、巻き込まれると信じているようだ。
こんな親友がいるって、けっこう宝物みたいな奇跡だと思うよ、キューリックさん……
しかし、そんな親友の心配を知ってか知らずか、キューリックさんはスピロさんを完全にスルーしてベリル様に声をかける。
「では、必ず封印すると申し上げよう! アナタですら太刀打ちできないほどの隔離空間にね!」
ベリル様は、新しいオモチャを見つけてイジり倒す気マンマンな顔をしている。
頑張って……キューリックさん!!
私たちの話が一段落すると、悪魔組が目覚めたようだ。
「あれぇ……? もしかして……いつの間にか問題解決してる?」
「あ、キシュテムさん、おはようございます。お加減はどうですか?」
「ふわぁ〜あ……まだ眠いけど元気だよ、ありがと☆」
「あの、マーヤークさんは……?」
「あの子は、少しダメージを受けちゃったみたいだね。まあ、心配はいらないよ」
キシュテムさんは、眠ったままのマーヤークさんを軽い感じで抱き上げると、軽く微笑んでその寝顔を眺めた。
あれ……? 絵になる……
「あいつ結局、何もしないで寝てただけだな。ミドちゃんは騙されるなよ?」
ベリル様は忌々しげに私に耳打ちすると、地獄耳のキシュテムさんに「何か問題でも?」と聞かれて「べっつにぃ〜!」と答えていた。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「いいですかぁ〜? みんなちゃんと隣の人につかまりましたかぁ〜? では帰還ボタンを押しますよ〜?」
「ミドヴェルト、いいから早く帰ろ☆」
「はい、じゃあ行きまーす!」
ポチッと……!
あたりの雰囲気が一瞬で変わる。
よかった……前回みたいに何も起きなかったらどうしようと思ったけど、今度はうまく行ったみたい。
まごうことなき静かな植物研究所の中庭だ。大きな木がたくさん生えていて、遠くで小鳥がさえずっていた。
ただし、松の木は消えている。
ベリル様に確認してもらいながら、松の枝は向こうで全部焼いて、松の実だけを持ってきた。
何だか、汚染がどうこう言ってたけど……
「……この松の実、食べても大丈夫なんでしょうか……?」
「大丈夫だよ、俺も確認したし。ミドちゃんの話じゃ、すり潰して塩入れるんでしょ? 怪しい効果は消えるって」
「な、なら良いんですけど……」
植物研究所の中に入ると、なぜか皆さんがざわざわと大忙しで、客間に勇者ベアトゥス様と、妖精巫女様の分身体であるちびっこアイテールちゃんが居た。
「お二人とも、どうしたんですか!?」
慌てた私が駆け寄ると、勇者様はホッとしたように無言でお茶に口を付けた。
アイテールちゃんは、ひらひらと飛びながら私の肩に止まり、しっかりと座り心地を確かめながら事情を説明する。
「きょういくがかりどののそんざいが、このせかいからきえたのじゃ。われは、ねんのため、ゆうしゃどのにいけんをもとめた」
「妖精王女に、お前が消えたと言われてな……スキルも反応しないし、特別に休みをもらって探しにきたのだ」
「あ、ありがとうございます……」
魔道具で未来に行ったからか、もしくは隔離空間に閉じ込められていたからなのか、私が消えたと知って勇者様はかなり焦ったらしい。
一応、結婚して一緒に暮らしてるってのに……ベアトゥス様は、隙あらば私が逃げ去るとお考えである。
私としては、絆は充分深まったと思ってたんだけど……
「ふっふっふ〜ん……♪ これ、だーれだ?」
微妙な空気の私たちに、後ろ手で近寄った精霊女王ベリル様が、ぐったりしたアジュガ族の首根っこをつかんで見せつけた。
あ、生きてたんだね。良かった……ほぼヘッショされてたからダメかと思ってたよ……
「師匠! ご無事で!!」
「今度は何だ? いい加減に面倒を持ち込むのはヤメロ!」
アイテールちゃんとベアトゥス様がそれぞれに反応すると、ベリル様は満足気にニヤリと笑って爆弾発言をぶちかましてくれた。
「コイツはねぇ……ミドちゃんの元彼で〜す!!」
「「「は!?」」」
私は、思わずみんなと一緒にハモってしまったのだった。




