2.『コリオリちからに逆らうな!』part 13.
「いいかね? 僕の合図で行動してくれたまえ!」
大きな岩の陰で、キューリックさんが素早く片手を上げる。
「わかった」
「わかりました!」
なんか……ツツジ的な花の咲いてる下木に隠れ、私とスピロさんが同時に答える。
「よろしい、では行くよ! そらッ!!」
キューリックさんの合図で、私たちは協力して、寄生裸子植物に刺激を与えることになった。
作戦はこうだ。
まず、キューリックさんが寄生裸子植物を捕らえるワナを仕掛ける。
そこに、私とスピロさんがいろいろな音を立てて追い込む。
寄生裸子植物がワナに近づいたら、キューリックさんが横から光と音で攻撃する。
びっくりした寄生裸子植物はワナに掛かる。……はず。
以上。
うまく行くかな……?
手負いのキューリックさんは、気持ちは元気みたいだけど、体力的にまだ正面切って戦闘行為を維持することができない。
なので、ちょっとは戦える私とスピロさんが頑張らなければいけないのだ。
カンカンカンカンカン!!
カンカンカンカンカン!!
思い切り金具を木の棒で叩いて、私はとにかく泣き叫ぶ寄生裸子植物の注意を引こうと話しかけた。
「落ち着いて聞いてください! あなたは今、裸子植物に寄生されています! でも、私たちに協力してくれたら、助けてあげますよ!」
アジュガ族と思われる人部分は、感情を抑えきれないとでもいうかのように、体全体を使って泣き叫んでいて、まるでミュージカル演劇の俳優かバレエダンサーのようだ。
両手を大きく開いて天を仰いだり、頭を抱えて丸まったりしながら、超音波みたいな高い声を出している。
こりゃ、私の声は届いてなさそう……
キューリックさんの勢いに当てられて、なんだか積極的に行動してしまったけど、冷静に考えたら私……誰かを説得したことなんてあっただろうか……?
急に弱気になって、私は何を言ったらいいかわからなくなってしまう。
「あー……えーと……大丈夫ですかー?」
「ダイ……ジョウブ……?」
お……? これは……?
私のテキトーな呼びかけに、人部分が反応する。
効いてるんでしょうか……?
私は、思い切って一歩近づきながら、口元に手を当ててさらに大きな声を出してみた。
「しっかりしてくださーい! あなたは今、裸子植物に寄生されています! 助けたいので、私たちに協力してください!」
「キィエェェエェェェ!!」
やっぱ駄目だぁ!!
金切り声を上げるアジュガ族らしき人物は、ひとしきり苦しんだ様子を見せると、今度は私を目掛けて襲いかかってきた。
「ミドヴェルトさん、落ち着いて! 枝を折るんです!!」
「はい!」
スピロさんのアドバイスに従って、私は動く松の枝をナイフで払う。
事前に戦ったキューリックさんから、この魔物の攻撃パターンは聞いていたので、攻略法はバッチリである。
まあ……思ったように私の体が動けばの話だけど……
冒険用のナイフは、基本的にちょっと枝を切ったり蔓を切ったりするためのものなので、リーチがない。
でも暴れ松の枝は、それほど自由自在に動くってわけじゃなくて、遠心力でブンブン動いてるだけだから軌道は読みやすかった。
「チッ! 何なんだこの枝!?」
私の護衛を買って出てくれたパート家次男のリヴァル君は、騎士団で見習い訓練をしながら王立警察で働いてるだけあって、なかなかの剣捌きだった。
真面目に私を護衛してくれているので、もし無事に帰れたら……帰れるのかわかんないけど……マーヤークさんかキシュテムさんに、リヴァル君を高評価するよう報告しておこう。
なんてことを考えていると、暴れ松が次の枝をぶん回してくる。
「キリがない! 刈り込む!」
そう言うと、リヴァル君は私から離れ、勢いよく暴れ松に向かっていった。
マジか! 無理すんなよ、オイ!!
私の心配をよそに、パート家次男は鮮やかな太刀筋で暴れ松の枝を幹付近から断ち切った。
「おお……凄いですね、彼は……」
スピロさんは驚いたのか、すっかり動きを止めて見入っている。
「そうですね……でも、アンチン君はもっと凄いですよ。彼はまだ騎士見習いですが、御領主様のご子息は、現役の騎士になってらっしゃいますから」
「おお……頼もしいですね!」
何となくパート家次男を手放しで褒めることができず、私は思わず蛇男くんを引き合いに出してしまった。スピロさんは、そんな私のモヤモヤには気付かず、自分が仕官する主の息子を褒められて素直に喜んでいるようだ。
すまん、リヴァル君……でもなんか、まだ許せない。
何がって言われると、はっきり理由は思い浮かばないけど。
だかしかし、ソレとコレとは話が別だ。
私は頑張ってるリヴァル君に声をかける。
「さすがですね! これはポイントが狙えますよ! その調子で寄生された人物を傷つけないように、暴れ松の枝だけを無力化してください!」
「好き勝手言いやがってッ……! いや、かしこまりました!!」
相変わらず毒付きながらも、パート家次男はチュレア様のために頑張っている。
それでも、疲労は蓄積されているのか、着地した足がふらついてきた。
「ああっ! 右! 右です〜!!」
「うるさいんだよ、外野が!!」
リヴァル君は、フラフラになりながらもギリギリのところで対応している。
憎まれ口を叩く余裕はまだあるようだ。
暴れ松の枝も、だいぶ刈り込まれて、今は大きめの枝が2本しかない。
「あと2本!」
なんか運動部の部活を思い出しながら、私はリヴァル君に声をかける。
ハアハアと、大きく肩で息をしながら、リヴァル君は間合いを測っていた。
もう足が動かないのかもしれない。自分から詰めていく余裕がないようだ。
私の掛け声にも文句を言わなくなってしまったので、これはいよいよヤバそうですね……
暴れ松のほうも、確実に攻撃を当てようとしているのか、無闇に幹を回転させることはせず、ジリジリと根をうねらせながら歩き回っている。
私たちは、暴れ松を混乱させるように大きな音を立てたり、リヴァル君を応援したりして、予定の位置に魔物を追い込む計画続行中だ。
「くそッ……!」
私がワナのある場所を確認しようと目を逸らした瞬間、暴れ松の攻撃がリヴァル君をかすめたようだった。
声に驚いて視界を戻すと、払った剣の軌道が枝を落とし、遠心力のままに空高く暴れ松の枝が飛んでいったのが見えた。
それと同時に、グハッ……と騎士見習いが血を吐いて膝をつく。
「リヴァル君!?」
「うるせぇ……名前呼び……すんな……」
ああ、元気だよかった!
だがしかし、暴れ松の枝はまだ1本残っているのだ。
これは駄目元で私が行くしかない……のか?
これでも山育ちだから、枝払いぐらいはできるぜ!!
などと思っていると、弱ったリヴァル君を仕留めようと、暴れ松が最後の枝をぶん回してきた。
「あ、あぶない……!」
私が駆け出す前に、暴れ松の背後から目をギラつかせたキューリックさんが現れた。
「ギヒャァアァァ……!!」
伝説のプラントハンターは、見事に最後の枝を落とし、暴れ松の天辺を大きなハンマーで叩いてワナに格納したのだった。




