2.『コリオリちからに逆らうな!』part 12.
「ひ、人に寄生……!? そ、そんなことって……!」
「以前、植物研究所に配送されてきた種族が居たろう? 彼らの仲間に、あの松の木は親和性が高かったようだ」
それって、もしかしてアジュガ族!?
確かにアジュガ族は、植物系の亜人みたいな感じだったけど……
「ど、どなたが寄生されていたか、わかりますか!?」
「ん? どの個体かはわかりませんでしたが……ラリティー君、ミドヴェルトさんはどうしたというんだ?」
「実はキューリック、君を待っている間に、ミドヴェルトさんにはアジュガ族の通訳をしてもらっていたんだよ。彼らの言葉を理解できるようになって、お互いの意思疎通が可能になったのだ。彼らは谷に帰りたがって騒いでいたが、火山の噴火でその谷が消滅したことを伝えると、すっかり静かになったんだ」
「なるほど……面白い! そうなると、いよいよ僕のアプローチは間違っていたようだな……よし、善は急げだ! ラリティー君、ミドヴェルトさんを連れて、明日もう一度あの松の木に向かうぞ!」
具合が悪そうだったキューリックさんが、急にイキイキと目を輝かせて躁状態になったので、スピロさんは慌てて患者の体を押さえながら言った。
「キューリック、落ち着け! 明日出かけるなんて無茶だよ! その松の木は君をズタズタにするほど凶暴なのだろう? そんな危険なところにミドヴェルトさんを連れていくわけにはいかない。考えてもみろ、彼女は王城からの使者なんだぞ!?」
「あ、いえ……私は別に……」
「ラリティー君、いいかね? これはチャンスなのだ! 我々に課せられた使命を果たし、尚且つ、君の研究を大いに飛躍させるために謎を解きに行くべきだよ!」
キューリックさんはもう前しか見えていないようだ……
こういう人、たまにみるけど、何ていうか……優秀な人って、やること見つけると本当すごい行動力を発揮するよね……
きっと今、この伝説のプラントハンターの頭の中は、むちゃくちゃシナプスが繋がりまくってニューロンがぐるぐるに活性化しているのだろう。
しかし……謎解き……いい響きですね。
暴れ松は怖いけど、アジュガ族の誰かが被害に遭ってるとしたら助けたいし、もしかしたらご意見ご要望をお聞きしたときに言葉を交わしたりして知ってる人かもしれない。
「行きましょう! もし私が役に立つなら、ぜひ協力させてください!」
「あんた、魔法が使えないんだろ!? わざわざ危険に近づくような、バカだったのかよ!?」
パート家次男が、失礼極まりない正論で私を止めようとしてくれたけど、この選択肢は譲れない。
「いいんですか? キシュテムさんが眠ってるうちに、ポイントを稼ぐチャンスなのに」
私だって、こんなやつにチュレア様と結婚して欲しいわけじゃない。
でも、向上心が強くてチュレア女公爵様の配偶者の座を狙っているパート家次男なら、この言葉で動くと思った。
私の読みどおり、女公爵様の婚約者候補末席であるパート・リヴァルは、不承不承ながらも納得してくれる。
「そ、そうですね……ではその松を確認するだけなら……私がお守りしますので」
「では、決まりだな!」
側で聞いていたキューリックさんが、上機嫌で人差し指を振り上げる。
なんだか無理矢理だけど、キューリックさんと私がノリノリなので、スピロさんはそれ以上反対しなかった。
助手さんは、無表情で目を伏せているので、どんな感情でいるのかわからない。
とにかく……今夜は寝て、また明日頑張ろう!
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「あれが……寄生されたアジュガ族の方なんですね……?」
次の日、距離をとって松の木を観察することになった私たちは、アウクバ・キューリックさんの指示どおりに物陰に隠れながら行動した。
植物系魔物さんは、あまり視力がよろしくないみたいで、何となく音や光に反応するらしい。
だから、できるだけ刺激しないように遠くから見てる。
でもちょっと遠すぎて、寄生されているアジュガ族の顔は判別できなかった。
……というか、けっこう阿鼻叫喚……?
なんつーか……穏やかな顔じゃなくて、ムンクの「叫び」みたいな顔になってるから……もし会ったことあるアジュガ族さんでも、ちょっとわかんないかもしんない。
わりと絶叫してるっぽいけど……果たして話は通じるのだろうか……?
「キィイィィイイイィィィイィ!!」
寄生されたアジュガ族の方は、苦しいのか悲しいのか、涙を流しながら頭を掻きむしっている。
これは……レベル高そうですね……
「あの植物は、本来なら攻撃性はないはずなんだが……どうもあの寄生された人物の影響が大きいようだ」
「じゃあ、この結界はあの方の能力ということですか?」
「ああ……かの人物の感情や能力を、松の木が増幅させ、結果的にこの空間を発現させていると考えられる……だから、まずは植物と分離させる必要があるだろう。方法はわからないがね」
「なんだって!? キューリック、方法もわからないのに、一体どうやって分離させるというんだ!?」
「ははは! 常に仮説と実験あるのみだよ、ラリティー君! 僕と君の仕事は、本質的に同じなのだ!」
スピロさんに苦言を呈されても、キューリックさんは楽しそうに笑っている。
よくわからないけれど、私もキューリックさんが居ればなんだか大丈夫なような気がしてきた……
スピロさんは植物学の教授として、そしてキューリックさんは、その豊富な経験を活かして物事に対峙してる。
どちらもお互いを信頼してるから、足りない部分を補い合えるのだろう。
私も自分に何ができるのかちゃんと把握して、迷わずに行動できるようになりたい。
すぐワタワタしちゃって、なんか無駄な時間を浪費してるような気がするしなぁ……
「では……とりあえず、何から試しましょうか?」
よし! 寄生裸子植物、分離作戦の始まりだ!!




