2-66 精霊レストラン?
リナとそんな会話をしている間に、七合目まで着いてしまった。
この高さから見下ろす眼下の景色は最高だった。
祈りの塔から眺める聖都の超どアップの街並みとはまた違った大パノラマの景色だった。
雲海の切れ目から聖都が見下ろせた。
やはり、ここから見ても祈りの塔は結構目立つな。
人間がゴミのようにしか見えない状況でも一目で判別できるのだ。
あの聖都で一番目立つランドマークだからなあ。
この山はかなり標高が高いので、ここも空気はかなり薄い。
実は風魔性が使えないと苦しい場所なのだ。
だから、ここへやってくる人というのは、実はそれなりの人だけだったりする。
お金持ちなら、そういう人を雇えば登ってこれる。
俺は『蒼穹のアイドル・ライトリー・ウインディア』様にお願いして、周囲の空気を濃くしてもらってあるのだ。
リナは優秀な魔法使いだから自力でそいつがやれる。
この山は険しく、また七合目は相当高いので、ここまで来るのにへたすると体力のない人なんか歩いて何日かがかりなのだ。
まあ俺達みたいに強引な真似をする人も少なくないはずだ。
観光登山客を除けば、ここへ登るのは修行中の神官や、息抜きに来た冒険者も多いのだし。
こんな山は絶好の修行場だからね。
大昔はそういう方以外は大概寄り付かないような場所だったらしい。
俺達はズルして登ってきちゃったけどな。
別に普通に登れる力はあるんだけど、ランチの時間の件があるから。
「うわあ、景色が綺麗ねえ」
「しまったな。
最初は自分の足で歩いてくれば、きっと大感動物だったのに」
「それじゃ今日のランチに間に合わないじゃないのさ」
「まあそうなんだけどね」
実はそれでも俺だけだったら間に合ったりするのだが、それは言いっこなし。
そして昼食には早すぎる時間なのに行列している店を見つけた。
「あ、あそこじゃない」
「本当だ。早く行こう。
きっと山小屋に宿泊していた人が来てるんじゃないかな」
「朝遅めの時間からランチ目当てで登ってくるなんて、あたしらくらいじゃないの?」
俺達は近くまで行ってから狼から降りて、頭を撫でて労ってやってから消しておいた。
「霊獣って便利ねえ」
「うん、狼は頭もよくて忠実だから助かるよ。
蜘蛛の追い込み猟にも使えるし」
「でも霊獣なんて本当は、ありがたい滅多にいないような存在なんじゃないの?」
「さ、さあ。
俺も霊獣については詳しくはないから、よく知らないな」
そして列はもう二十人以上並んで待っていた。
みんな二列の木の柵で区切られた通路の中に並んでおり、あと数人で締め切りだから係員が客の人数を数えていた。
みんな観光客の人ばかりだった。
神官は修行に来ていて、せっかく登ってきてもすぐに山を下ってしまって往復しているんだろうし、今は冒険者もダンジョンでお宝捜しに血眼なんだろうから、こんな観光地にはいないはずだ。
「うわあ、ぎりぎり間に合ったくらいねー」
「本当だ、噂通り人気のランチなんだなあ」
俺達が着いて三分後に列は締め切られ、高山に咲く花を模したカラフルな布製の飾り紐で最後尾が仕切られた。
そこから、のんびり話をしていたら、一時間くらいあっという間に過ぎてしまった。
前後に並んでいた人にも話を聞いてみたが、特に山に異変は無さそうだった。
まあ聞き取り調査の相手は、観光登山で物見遊山の方々ばかりだったけれど。
「うおお、待ちくたびれた~」
「ちょうど、お腹が空いてきたね」
「今度は自分の足で登ってこようよ。
汗をかいて、お腹を空かせてきたら、きっとランチが美味しいよ」
そして出されたものは、まず美味しい果実水が水差しごと一人ずつに出される。
食事は豪華なお盆のセットで、聖山野菜の聖なるサラダ、聖山胡桃パン、聖山の様々な材料を奢った精進スープ、聖山山羊のパイ包み、メインは聖山鳥の蒸し煮の聖山胡桃ペースト仕立て、デザートは聖山で採れる果実の干果のリトルキューブと聖山プリン。
これで銀貨三枚は結構お値打ち。
人気になるのもわかるわあ。
何故か一緒に精霊用という事で小皿にあれこれと並べてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ、精霊様に来ていただけるのは光栄ですから。
しかも精霊様が五名もまとめてご来店は開店以来初めてですよ。
精霊様の分は店の奢りですから」
なんだかよくわからないのだが、精霊は聖山では、かなりありがたいものだったらしい。
精霊にとってもランチプレートはありがたいものなのらしかったが。
みんな、夢中で被り付いていた。
そして世界のアイドル様が叫んでいらした。
「聖山プリンはいつ食べても最高~」
それにしても、ランチは最高に美味かったぜ。
可愛い女の子と一緒だから、味もまた一入だ。
おっと、聖女様から頼まれていた仕事があったのを忘れそうだぜ。




