2-65 聖山食い倒れツアー
「狼、結構早いね!
乗り心地も悪くないし」
「おう、なかなかいいだろー。
これも霊獣ならではの性能なんだぜ。
こいつらって割と地形も選ばないしな」
そして俺達は、あっという間に麓の入山口まで着いた。
一応狼は見えないように隠しておく。
連中、普段はどこにいるんだろうな。
契約者である俺にもよくわからないのだが。
この街って、彼ら隠蔽された霊獣の事が見える人が多いので困る。
まあ街中は走ってきちゃったんだけど、警備隊の人達は勇者リクルの狼の話を知っているから。
「ここまで来たの初めてだな」
「ね!
迂闊だったよね。
こんないい観光スポットがあったのに。
何しろ、国一番のシンボルみたいなものだから」
「ある意味で、ここバルバディア聖教国回りは世界でもっとも注目される地域だからなあ」
そして、俺達はお役所の書類提出コーナーみたいに立ったまま書類に記入できるところで入山届を書いた。
名前や職業、年齢とここでの連絡先などだ。
「へへ、勇者リクルっと」
「あはは、それ職業なの?」
「いいの、いいの」
それから入山口に立っている眼鏡の男性にそれを渡した。
「おお、勇者様が聖山に」
「はい、ちょっと聖女様のお使いで。
管理事務所ってどこですか。
ルバート司祭はおられますでしょうか」
「ああ、すぐそこだよ。
あの建物だ。
司祭は大概あそこにいますよ。
今から行くのですか」
「いえ、先に限定の雲海ランチへ行くので。
聖女様並びに俺の契約精霊のお勧めだから」
「ああ、あれは美味しいですよ。
行くのなら早めに行って並んだ方がいいです。
もうかなり並んでいるはずですから」
「嘘!」
まだ時間は十時前なのだが。
「大変、リクル。
今すぐ行かなくちゃ」
「すいません、聖山の中で霊獣の狼を使っていいですか?」
「ええ、どうぞ。
ただし狭い所は気をつけてください」
「大丈夫です。
そういうところは祈りの塔みたいに自分の足で壁を走っていきますから」
「ちょっと、リクル!
そういうの、あたしは出来ないからね」
「リナも今度一緒に塔で修行しようよ」
「そういう問題じゃないと思うの」
修行デートも悪く無し?
「ああ、そうそう。
聖山で何か変わった事はありませんでしたか」
「さあ、特にこちらでは聞いていないですね」
「そうですか。
じゃあ、後で管理事務所へ行きます」
「お気をつけて~」
それから俺は狼達を呼んだ。
「シリウス1、シリウス2」
俺は彼らをナンバーで呼ぶ事にしたのだ。
名前を一匹一匹付けるのは蜘蛛で懲りたんだ。
もう、名前で呼ぶとややこしくて。
結局、今はあいつらもナンバーで呼ぶ事にしている。
ターワン1から31と、ラスタワン1から31だ。
俺達は快調に聖山のくねくねと曲がった九十九折の道をショートカットしていった。
「うわあ、豪快ねえ」
「祈りの塔を這い上がっている人の方が凄いよ。
最近、塔の外壁をよじ登っている人も見かけたし」
「うわあ、ここの人達って修行とか鍛練に対する本気度が凄いよね」
そういう理由からマロウスは聖女パーティにいるのかもしれない。
ここが聖女様のための本尊というか本拠地というか、そういう物のような気もするし。
「相手が、あの邪神並びにそれに付随するものだから。
だって、ちょっと聖女が来ただけで、ドラゴンが二十二匹も湧くんだぜ」
「勇者が必要な訳ね」
「いやあ? そいつは怪しいもんだ。
そもそも聖女自体が最強で、あんなドラゴン退治なんて、ただの勇者の鍛練代わりだし。
あいつら、俺一人にドラゴン退治をやらせて誰も応援に来ないからな」
「うーん、無茶なパーティだね」
「あんなの、まだ優しい方さ。
きっと本番だと『よし、リクル。そこの邪神を三分足止めしておけ』とか平気で言われそう」
これ本当にやられそうで怖いので、本当は鍛練を続けたかったのだが、今は心も体もついていけていないのだ。
俺は先輩やマロウスのような、ある程度完成されたような冒険者じゃないのだ。
「あ、あんまり無理しない方がいいと思うわよ」
「でも邪神が起きてきたら封印しておかないと、今度こそ人類大絶滅だからなあ」
「うわあ。
頑張ってね、リクル」
「おう。
頑張らないと限定ランチも食えなくなってしまうからな」




