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2-58 意外な昔話

「俺はあれこれと無意識に構えちゃっているのかなあ」


「あまりにも日頃からふてぶてしいから、とてもそうは思えんのだがな」


「あ、先輩ったら酷いな。

 俺だって、先輩ほど、ふてぶてしくはないつもりだけど」


 他のメンバーもそれを聞いて、なんか自然な感じに笑みを浮かべている。

 え、そう?


「馬鹿だな。

 俺とお前じゃ年季が違い過ぎるだろう。

 俺だってペーペーだった時代があるのだぞ。


 忘れたか、俺は王の落胤。

 だが継承権があるわけでもなし、王宮で暮らせる人間でもない。


 王である親父と会えるのも、あの工房でたまたま会うような時か、勅命を受けるような時くらいのものよ」


「え!? マ、マジでー?」


 あの王様と一緒にいる時には全然そんな風に見えなかったんだけどな。


 ああ、自分が無駄に力の入っていた頃があったから、俺みたいな奴を見るとすぐにピンときちゃうのか。


「俺は認められたかった。

 世が世なら、たとえ正妃の息子でなくとも、王の息子として大切に遇されたかもしれん。


 だが実際には孤児院育ちで、たまたまスキルだけはいい物をもらっただけの無一文の餓鬼だった。

 俺を放り出した者達を見返してやるために、俺はただただ強くなりたかった」


「先輩、あんた……」


 王宮から見捨てられ、孤児院育ちか。

 しかもあの王都、王宮ゾーンとそれ以外が見事なくらい真っ二つになって別れているからな。


 それだけの力がありながら、まさか生まれながらの追放者だったとは。


「あの頃は、俺も意地を張っていてなあ。

 スキル頼みで肩肘張って、並みの冒険者が行う下積みさえ嫌がった。


 馬鹿にされたくなかったのさ。

 捨てられた王の落胤、そんな過去はすぐバレる。

 お前も冒険者パーティがどういう物かよくわかっているだろう」


「あ、ああ」


 先輩みたいな粋がった奴が、肩肘張って生意気を言っていたら、それはもう虐められるだろうなあ。


 王の捨てた子か。

 この先輩だって大人しく虐められてはいないだろうしなあ。


 いや、むしろ大暴れコースだっただろう。

 さぞかし、その当時は荒れていた事だろうな。


 新人の頃、そういうトラブルで、既にもう何人か殺しているんじゃないの。

 おーこわ。


「強くなっていく過程で、常に力が入りまくって身体はガチガチさ。

 ダンジョンに潜っても思うように体が動かなくて、この俺がたかがオーク一体にさえぶっとばされていた。


 それはもう最悪だったさ。

 格下の荒くれ冒険者相手に喧嘩して負け、有り金を盗られた経験さえある」


 こ、こっわー。

 この先輩にそんな真似をしたなんて、そいつ絶対にもう死んでいるよな。


 そうか、あれこれ教えてくれるパーティの先達がいないなら辛いだろうな。


 まあ、俺だってパーティを出てからは整備費の節約のために素手で戦っていて、コボルトにさえ棍棒で叩かれていたけど。

 あれはまあ、あれでいいとして。


「まあ、体に妙な気負いとか力とか入れていたって、いい事はないから力は抜いておけ。

 万が一邪神が出たところで、そこの聖女にでも任せておけばいい。

 その時にお前が何かやる必要があるなら、その時に聖女様が指示を出してくれるさ」


「へーい」


「まあ返事だけでも力が抜けているのは良しとしておくか。

 本気でその辺が駄目な奴は、そこすら駄目だからな」


 どっちかというと粋がった新人冒険者なんかがそうかな。

 そして、その勢いのままダンジョンへ突っ込んでいって、そのまま帰ってこない。


 俺は新人の頃からこうだった。

 気負うなんて、農民の子だった俺には縁がないといった感じだった。


 それが、一気に強くなり過ぎて強敵と戦い過ぎて、こんなに力んで駄目駄目になってしまっているなんて、あの頃には想像すらできなかったろうな。


「まあ、成人して冒険者になったような農民なんて、大体こんなもんすよ」


「は、俺とお前、どっちが幸せなペーペー時代だったものか」


「そんなの俺に決まっているじゃないですか。

 俺は、とにかく一年間殴られまくりましたからね。

 その分は栄養になっていますから。

 先輩って見習い時代に殴られている量が足りていないんですよ」


「指導用の拳骨と本気の拳を一緒にするんじゃない。

 まあ、お前もまったく殴られていない奴よりはよっぽどかマシだ」


 はは、まさか先輩とペーペー時代に食らった拳の量を自慢しあう事になろうとは。


 はあ、この先輩も思ったよりアレな人生を生きているんだねえ。


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