2-53 宴の後のお楽しみ
神殿に帰るそうそう、またしても聖女様から怒られました。
一応、怒られたのは俺だけではなく全員ですので。
「まったく大概にせんか、この馬鹿どもが」
「さーせん。
でもティムした蜘蛛のいる、味方の詰所が十個に増えましたし。
ね!」
「まあ、いろいろとわかった事もあったので有意義でなかったとは言わぬが、今回の探索が思いっきり明後日の方向へ行った事は否めんな。
概ね、お前のせいだぞ、リクル」
「へーい。
でもまあ、蜘蛛共の装備も大量に湧きましたしねえ」
なんと、一つの宝箱の中から蜘蛛用の魔法鎧が十個まとめて出て来たなんて事もあって実に凄かった。
あれは過去最大の大きさを誇る宝箱だったなあ。
出て来た一つの巨大な箱に蜘蛛用鎧がギッチギチに入っていて、あれにはびっくりした。
最初は何が出てくるのかと全員で警戒してしまったほどだ。
だが、あっという間に待ち構えていた蜘蛛達が群がって、鎧はすぐに分配されていったけれども。
それが全部で五個もあったし。
あと指揮官用の鎧はまた別だった。
小隊長用のターワンの鎧と同じ物が一つ、副隊長用も兼ねた分隊長用の鎧が十個。
もう鎧の数が合計六十二個とピッタリ賞だ。
これって偶然じゃないよね、絶対に。
「はい、誰か蜘蛛用鎧の必要数をダンジョンに『発注した』人、正直に今すぐ手を上げて」
「きっと誰かがどこかで見ているんだろうなあ」
「さっきも、俺達の武器をぴったり人数分もらえていたよね」
いや本当にさ。
さすがは盟主って感じだよ。
絶対に盟主なる者の仕業だよな、これ。
「盟主か……一体何者だ」
先輩も感慨深く呟いた。
あれだけの数の大量の蜘蛛を、狩れるだけ思う存分狩ったからなあ。
リベンジを果たした今は凄く満足そうな顔をしている。
だが俺は誤魔化されないぞ。
本当は、先輩は盟主なんてどうでもいいんだろう。
「それより、他の物品の話をしようよー。
えへっ」
俺はちょっと、だらしのない笑顔を浮かべている。
あれからティムしまくった蜘蛛共に護衛を任せて周辺を制圧し、宝箱を沸かせるのに邁進したのだ。
まあ魔物自体もエンカウント数が少なかったのだが。
俺は未だにこのダンジョンで湧いた通常の魔物を倒していない。
はじめ、姐御は俺達の狼藉に対してカンカンだったのだが、沸いてきた物品を見てさすがに黙った。
彼女は、この聖教国の最高責任者でもあるのだ。
ここで生きる神官達の心配もしてやらねばならない。
所詮、大司祭なんて『代官』だの『宰相』だのの役どころに過ぎないのだから。
姐御は聖女として財政関連にも気を配ってやらねばならない。
この聖教国を支えてくれている国家達だって大変なのだから。
そう言う訳で、その辺は俺も姐御の足元を見てみました!
「そうそう。
えへへ~」
エラヴィス閣下もちょっとだらしない笑顔を浮かべている。
お目当ての品物があるものね!
そして、このお方のいい笑顔と来た日には。
「ほお、だいぶ暴れてきたようだのう」
「爺、今度行く時は、お前も来てくれ。
一人で子守りは大変過ぎる。
躾のなっていない餓鬼を一匹混ぜただけで私のパーティが崩壊したぞ」
それはもしかしたら、俺の事なのだろうか。
まあ、まだまだ暴れ足りない若者でありますので。
他にも俺より二つ上なだけで、かなり欲望に負けて、はしゃいでおられた方々もいたのだけどね。
「ふっほっほ、楽しそうで何よりじゃのう。
それにしても、あの蜘蛛をティムしてしまうとはな。
まあ勇者に認定されるような者のやる事など、このようなものよ」
そう言いつつ彼自身も、目の前にある御土産に魅入られたように心を奪われていた。
そんな彼に向かって姐御も釘を刺していた。
「あー、バニッシュ。
念のために言っておくが、この宝箱カーニバルは永遠に続く事はないからな」
「そんな事は知れておるが、まあわしらは、お前さんのように長生きするわけでもないしの。
今日は、しばしの至福に身をやつすとしよう」
「ミイラ取り爺が、そのままミイラになった……」
「まあまあ、姐御」
そんな中、落胤の伯爵様は無言で目を閉じ優雅なスタイルで泰然としていらっしゃる。
この人、意外と言っちゃなんだが、聖女様の次に物欲に欠けるよね。
俺への殺戮欲求は世界一なんだけど。
沈黙の殺戮者サイレント・スラーフェー!




