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2-37 その場所は

 そして、俺は市場へ無理やりに引き立てられていかれる子牛のように、その空間へと連れ込まれた。


「ブモオオオウ」


 まるで冥府に続くのかと思うような、ほぼ真っ暗な階段で、前を歩いていた姐御がちょっとビクっとしたのが笑える。


 まさか、この子牛の物悲しい鳴き声の鳴き真似が、邪神を封じるほどの聖女様に通用するとは意外だった。


「なんだ、いきなりおかしな声を出すでないわ。

 びっくりしただろうが」


「いえ、なんとなくそういう気分だったもので」


 ちょっと地下へ続く薄暗い階段では響いてしまったかな。

 実を言うと、それを発した自分でもビクっとしてしまったくらいだ。


 こう見えて俺は、村では子牛の鳴き真似をさせれば一番だった腕前だからな。


「まったく子供は碌な事をせんな」


 このお方にかかれば、年齢的にはもう棺桶に片脚を突っ込んだ老人でさえ子ども扱いなのだろうが、俺に少々というか、かなり子供っぽい部分があるのは否めない。


 だって、まだたったの十六歳なんだぜ。


「おい、スキルの準備をしろ。

 まずはこれからだ。

 ライト!」


 その地下大空洞のような広大な空間に、煌々と物凄い光量の明かりが灯った。


「うわ、すげえ。

 一発でなんて明るいんだ。


 それにここは凄く広いなあ。

 わざわざ作ったの?」


「五分くらいで消えるようにしておいた。

 次に灯りが消えたら、お前がやってみせろ。

 ここは王都の協会にあったような魔法を吸収してくれる仕組みを組み込んである。


 ここは遺跡の地下大空洞だ。

 そして、その上に大神殿を建てたのだ。

 リクル、それは何故だかわかるか?」


「さあー?」


 彼女は、その直径三百メートルはありそうな、まるで闘技場のような擂鉢状(すりばちじょう)の空間の底まで進んでいった。


 途中で俺がライトを唱えると、凄まじい光量であたりが照らされ、その壮大な雄姿を見せつけた。

 またこれは凄いものだな。


 何故、このような施設がこんな大神殿の地下なんていう場所にあるのだろう。


 そして俺がそこにいる姐御の隣に立った時に、彼女は言った。


「この真下に邪神と、我が叔母バルバディアが眠っておるからだ」


「な!」


 俺は驚いて飛びのいたが、さすがにその場で飛びのいただけで避けられるような大きさではない。


 ここは!


「そう、ここはかつての邪神開発施設の一部であり、今ではただ邪神とのみ呼ばれるマンタグリスタの格納庫だった場所よ。


 本来のマンタグリスタとは古代の宗教書に登場する魔神であり、邪神とはその能力を模して作られた兵器なのだ」


「まさに、それそのものじゃないですかあ!」


 誰だ、そんな宗教書を書いた馬鹿は~。

 なんてこった。


「だが、ここで開発されるまで、それは実在のものではなかったのさ。

 人間というものは、ひ弱で短命なくせに恐ろしいものだ。


 いや、むしろそうであるから、知恵により自ら創り上げた力へ過剰なまでに頼ろうとするものなのか」


「すると、この大神殿というのは」


「むろん、極力邪神を封じるための施設として作ったものさ。

 あれが本気で目覚めた時に、どれだけ通用するものかはわからぬがな」


「あのう、そんなところで大魔法をぶっ放して、その邪神が起きないの⁇」


「安心せい、あれは封じられてさえおれば、その程度で起き上がってきたりはせぬ。

 元々は魔法の吸収障壁も、むしろ邪神に魔力を与えぬように外界から遮断しておくために付けた物なのだ」


「それをこうやって有効利用しているだけなのか!」


「その通り、逆に起き上がったのなら、もう何をどうしようが無駄だ。

 その効果も切って、こちらの魔法を通すようにするのだ。

 何をどうやろうと、いかなる犠牲を払おうとも奴を封印せねばならんのだからな」


「あのう、それでは姐御はどうやって前回ここに眠っている邪神を封じましたので?」


「それはな」


 彼女は周りの少し変わった色合いの、人工物らしい岩肌を見回しながら説明してくれた。


「この場所は、元々邪神を眠らせておくように作られた格納施設だからだ。

 壁も開閉式の格納庫の天井も、そういう材質で作られておる。

 お前もこのような材質は見た事があるまい」


 確かに、魔法金属ですらなく、石材のようでもない。

 何かの人工的な特殊建材のようだ。


 たぶん、壊されたら今では技術が失われているだろうから復旧は難しいかもしれない。

 よく風化しないで千年にも渡って強度を保てているな。


 エルフ達が魔法で何かの処理をしているのだろうか。


「我が叔母バルバディアも、そしてこの私も、この中で起動した邪神を、そのまま寝かしつけたのに過ぎん。

 もしここから一歩でも出しておったら世界は再び滅びておっただろう」


「うっわ、じゃあ奴にここから外へ出られたら」


「もはや、我らエルフとて打つ手はない。

 そして、もう一度人々を眠らせておく術を我らエルフも持たぬ。


 それは人族の持つ古代の英知だからな。

 地上に蘇った者の子孫は既にその技術を持ってはおらぬし、また解読する事もできん。


 お前が呼んだ『あれら』のようにな」


 あの訳のわからないオブジェやナタリーなんかの事か。

 なるほど、そいつは無理だわ。


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