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2-34 聖都の孤児院

 それから日用品や文房具なども、しこたま買い込んでから孤児院へと向かった。


 孤児院なんて施設は日陰者で比較的街の隅っこの方にでもあるのかと思ったら、なんとこの街の顔である大神殿の一角にあった。


 裏口らしき場所から行くので、いつもは行かない目立たない場所だったのだけれど。


「へえ、孤児院ってこんなところにあったんだ。

 その割に子供の顔なんて見なかったなあ」



「別に大神殿と行き来が自由になっているわけではない。


 優秀な子は、まだ小さなうちから神殿内にある神官になるための学校へ通う子もいるぞ」



「そいつは知らなかったなあ」


 そもそも、俺なんか村育ちだから学校へ行った事すらないもんね。


 読み書きや簡単な計算は村の教会で習ったよ。


 後はブライアンから拳と共に叩き込まれたのだ。


 ここの孤児院の子達なんか聖都の大神殿で勉強を習っているから、むしろ世間一般の子供と比べればエリート!


「お前だってここへ来て間もないし、だいたい殆ど神殿におらんではないか。


 子供達も昼中は勉学に励んでおるし、帰れば遊んでなどおらず孤児院でお手伝いだからな」



「そうなんだ。

 王都で御土産を買って帰って、今度ラビワンの孤児院でも行ってみるかな。


 ああ、そういや御土産を買っていくなら、自分の村にも行ってこないと」



「そうか、お前は村を出てから一度も帰ってないんだったな」


「うん、どうせならこっちへ来る前に行ってくればよかったんだけど、姐御達を紹介してもらったから。


 旅に慣れていないのに、一人で北へ向かうのも大変だから」



「はは、冒険者だって普通はそうそう一人では旅をしないぞ。


 今のお前なら自分も強くなったし、狼どもが一緒にいるから問題ないがな」



「まあ、道中で先輩とかカミエみたいな奴が出てこないならね」


 何しろあの先輩が一番危ない。


 どこかで俺が活躍したなんて噂を耳にしようものなら、取るものも取り敢えず、またすっとんでくるかもしれない。


 王の落胤で自らも貴族で大金持ちなのだ。


 いかなる手段を取ってでも駆けつけてきそう。


 また股間と、一段と美味しくなった俺を仕留める妄想を大きく膨らませながら。

 

 貴族のくせに領地なんか全部他人任せなのだし。


 いっそ、あのラスターを一匹でいいからティムできていたら対先輩用のいい護衛になるのに。


 あいつは、ちゃんと先輩を捕まえた実績はあるのだからなあ。


 だが、そんな事をしてきたら、また皆から激しく怒られるのが関の山なので、それだけは当面無しにしておこう。


 少なくとも、ほとぼりを覚ますまでは。


 あの求道者のドラゴナイトは、先輩相手にどれくらいやれるものだろうか。


 並みのドラゴナイトじゃ完全に雑魚扱いされるだけだからな。


 あいつも、いつか自分で倒す。


 そんなくだらない事を考えている間に、孤児院へ着いてしまった。


 大神殿に付属する施設だけあって、なかなか立派な施設だった。


 何よりも建物が綺麗だった。


 うちの村の教会なんか、協会のマークが屋根についているんじゃなきゃあ、誰も特別な建物なのだと気がつかないようなレベルだった。


 あれだって俺には懐かしい学び舎なのだけれど。


「へえ、なかなかいい感じじゃないですか」


「まあな。

 こういう事はきちんとするよう申し付けてある」


 ああ、ここで一番偉い人は、あの大司祭なんかじゃなくてこのお姉さんだったのか。


 よく考えたら当り前の事なのかもしれないけれど。


 この聖女様って邪神なる物を封印した、この聖教国のフロントラインにいる人なんだからな。


 もうすぐ第二ラウンドが始まる可能性すらあるのだ。


 きっと、この人が大祭とやら以外にこの街に現れるのは、ここの責任者達が大いに緊張する事態なのだ。


 しかもまた勇者なる者まで指名して連れてきちゃったのだから。


 そして入り口のノッカーを叩くと、すぐにドアが開いた。


 躾が行き届いているなあ。


 きっと、当番で誰かかれかが玄関口に詰めているのだ。


 貴族家の執事さんか!


「あ、聖女様。

 こんにちは、お久しぶりです」


「おお、マチルダか。

 大きくなったな」


「はい、今はここの年長組です。

 来年いっぱいでここを出て神殿務めになります」


「そうか、よく頑張ったな」

「ありがとうございます」


 赤毛で蒼碧の大きな目をした、おそらくここでは年嵩になるだろう十四歳くらいの少女が出迎えてくれた。


 姐御の顔を見てパッと顔を明るくしたところをみると、姐御はここでも慕われているようだった。


「みんなー、セラシア様がおいでくださったわよー」


 子供達が、ちょっとしたホール状になっている玄関へわらわらと集まってくる。


 そうか、子供や職員の数が多いから、入り口はこれくらい広くないといけないんだな。


 よく見たら左右に設けられた靴箱にたくさんの靴がある。


「リクル、ここは子供の多い施設だから、裸足で走り回る子もいるので土足厳禁だぞ」


「へーい」


 うちの村なんか、小さな子は外だって裸足だったけどね。


 靴を履くのは農作業のお手伝いをするようになった年齢の子だけだ。


「わー、聖女様だ」

「セラシア様だー」


「せいじょさま?」

「だあれ?」

「きれいなひとー」


 まだ小さい子は姐御の顔がよくわからないらしい。


 まあ、姐御だってそうそう孤児院へも来られないんだろうしな。


 聖都へ来たら、あれこれと忙しいのに決まっている。


 姐御の顔が判別できる子は、以前に姐御が訪問した時に物心がついていて、当時に大人の顔を覚えられるようになっていた子だけなのだ。


 普通の街の子なんか、この英雄姫を物語なんかの絵でしか見た事がないだろう。


 俺なんか怒られている時はいつも、「おいこの馬鹿者、目を背けているんじゃない。こっちを見んか」とか言われて、ドアップでの御対面なんだけど。


「前回は何年前に来たの?」


「前の大祭の時だから四年近く前か。


 大祭はもう一年後なので本来なら訪問は来年なのだが、今は騒ぎが起こっているので今年やろうかとも考えている。


 ドラゴンのお蔭で聖都が大変な有様なので、そいつは実現するかどうかもわからんのだがな」


「あらあ」


「まあ、お前がドラゴンを拠出してくれたので、その分は復興も早いだろう」


 そして、子供達の中から十二歳くらいの男の子が進み出て訊いた。


「聖女様、もしかしてその人が噂の勇者リクル様?」


「ああ、そうだ」

「わあ、凄いなあ」


「ゆうしゃさま、おはなしきかせてー」

「お、おう!」


 やべえ、冷や汗しか出ないわ。


 勇者なんて、そこのばば……もとい、聖女様が勝手にそう呼んでいるだけで、俺自体はただの村出身の冒険者に過ぎないので、学のある子供達に話す事などそうない!


 一応は、ラビワン冒険者協会において最終試験でレーティング一位を獲得し、あのブライアンに一年間殴られまくったので、新人冒険者教育なら任せておけというものなのだが。


 一応、ここもダンジョンの街なんだから、それも悪くはない物だ。


 ラスボスの邪神って奴がちょっと洒落にならないのだけれども。


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