2-28 鉱山の死闘
「ナタリーっ!
お前の主を守れ。
これを貸してやる」
俺は予備の槍であるミスリルの槍、突撃槍グランドフレイムをナタリーに向かって投げた。
奴は既に左手に出土したばかりのパイルバンカーを装着させられていた。
これは杭を自動で引き抜き、再利用するタイプだ。
予備の杭が五本装着されていたので、そっちもしばらくは持つだろう。
右手に槍を装備して、奴も目が燃えていた。
ヤベエな、こいつ。
バトルジャンキー系のオートマタだったか。
それ、ただの純粋な戦闘機械だから。
「いくぞ、シリウスども。
ここは一歩も通すな。
こんなものをダンジョンに解き放ってしまったら、姐御達に殺される。
俺は、只の御遊びみたいな暇潰し代わりの修練で、なんて物を呼んじまったんだ。
ここは命にかけても全部倒すぞ!」
俺はいくつかのスキルを起動した。
面白い事にスキルの中には使用していても、他のスキルを枠いっぱい使える物もある。
【マグナム・ルーレット】や【一瞬だけスキルのコピー】なんかがそうだ。
【祈りの力×Ⅹ】【神々の祝福】【スキル封印】【冒険者金融】を発動した。
バフ・デバフ・そして敵の糸以外のスキルを防げたらと思ってスキル封印を試す。
こいつは特別に三十分持つからありがたい。
これで糸が防げたらよかったのだがな。
最後の奴はリナの格闘スキルを、とりあえず十分だけ借りるのだ。
この期に及んで、もうそれしかない。
どうしようもない。
そいつで数秒から十数秒を凌ぐしかないシーンなのだ。
ああ畜生、先輩ったらこんな時にサボっているんじゃないよ。
今すぐ助けに来いよ。
美味しく育つ前に、俺が死んじまうぜ。
あんたが俺を食うんじゃなかったのか⁉
「おらあ、行くぜー」
相手が相手だけに、接敵の衝撃だけで俺は12. 0へのバージョンアップを果たしてしまった。
俺が槍を両手に、万能武闘家であるリナの身のこなしを用いて、なんとか対応する。
シリウス達も頑張ってくれているが、はっきり言ってラスターは強い。
全部で五十頭くらいいたラスターはまだ一体も倒せていない。
一体ずつなら、うちの子だって負けないのだろうが、さすがにこれだけいると集中して一体だけと戦えないのだ。
こちらも数がいるだけまだ助かる。
ナタリーも憤激した感じに猛将ぶりを発揮していた。
お蔭で、彼女の主は未だに無事らしい。
リナの聞くに耐えないような喚き声が、戦闘の隙間を縫って聞こえてくる。
彼女もマグマム・ルーレット六倍の恩恵に預かれているが、さすがに相手が悪い。
せいぜい、自分が生き延びるのが精一杯だろう。
そして俺のスキル・バージョンは上がっていたのだ。
【レバレッジ多彩な12.0】へと。
基本機能は【派生スキル同時に二種類】!
それなら今出来る事はこれしかない。
長くは持たないだろうが、これしかないのだ。
リナのスキルで敵をギリギリで往なしながら、命懸けのスキルの選択を行っていく。
そして特殊技能スキルは【運命の決断】。
どうやら絶体絶命で腹を括った崖っぷちの時に、起死回生の力を生み出すものらしい。
内容が書かれていないところをみると、どうやら出たとこ勝負のスキルらしい。
まさに今使うには相応しいスキルが出てしまったな。
相変わらずだぜ。
そして、ここで初めて攻撃スキルを選択した。
それはなんと!
【斬撃強化百倍】
ずっと攻撃スキルの選択をサボっていたら、いきなりこんなスキルが来やがった。
だいぶ配当が溜まっていたのかな。
サイコロの出目が一の中でこれかよ。
すでに攻撃力二倍、全能力十倍スキルがあるので、レバレッジ12倍、さらにルーレットで6倍、最大で通常の1440倍の威力の斬撃を放つ。
その百倍だから中級冒険者の、いや鍛練に鍛練を積んだ今の俺の、最大で十四万四千倍の威力の斬撃となる。
並みの中級冒険者の三十万倍くらいの威力の斬撃ではないのだろうか。
これならば、大概の敵を斬撃のみで倒せるのでは。
そして死闘に死闘を嵩ね、ボロボロになりながらも耐えきり、クールタイムが終了するまで持たせた俺達。
命のスキルは無事に禊を終えた。
「おっと、サイコロやルーレットの使える時間がやってきましたか。
運命のサイコロ、最初から居座って来た厄介なスキルめ、手前の出番はもう終いだ。
どっかにすっこんでいろ」
【マグナム・ルーレット】で先にブーストをかける。
そしてルーレットの出目は当然の六。
気合だけで出した六。
命を張った分の六。
そして【運命の決断】【斬撃強化百倍】【神々の祝福】【祈りの力×Ⅹ】を起動する。
「よっしゃあ、こうなりゃ、とことん行きやがれ!」
現在最強の十四万四千倍の威力の斬撃が、俺が持つ現在の最強装備であるオリハルコン槍に命を吹き込んだ。
「よし、こいつの名は今決まった。
斬撃無双マッチレス」
マッチレスは無比・無双の意だ。
こいつは切れ味二倍の付与と、インパクトブレイク効果でまた二倍の威力を放つ。
並みの中級冒険者の放つ最大の一撃の、実に百二十万倍見当の斬撃を放てる、神話の英雄レベルのモードだった。
俺は腹を括った。
ここで必ず生き残るという『運命の決断』を行ったのだ。
そのスキルは俺の力を、そこからさえも著しく増大させた。
もう自分の能力をまともに数字でカウントする事など不可能だった。




