2-25 バトル系コンビ
「おい、新人の見習い下積み期間はどうしたんだよ」
「そんな物はパスしたよ。
運否天賦でスキルを刻んだら凄いのが出ちゃった。
全格闘奥義免許皆伝よ。
しかもダメージが蓄積するとウルトラブーストがかかって限界突破するわ。
大概の魔物なんかフルボッコに出来るもの。
速攻即戦力扱いで中級パーティからスカウト来たわ」
ついにこの人生において、下積み修行を抜きで冒険者になった奴と遭遇したな。
しかも凄まじい大当たりを引き当てた奴と。
あの、お姉ちゃんも止めなかったのかね。
こいつの場合は止めても無駄だったのかもしれないが。
「嘘っ‼
そもそも、君ってお姉さんと同じで魔法使いだろうに。
本当に滅茶苦茶だな。
なんか、すげえ反則な奴がおる」
だがリナは腕組みし、そっくり返って胸を張った。
「へへん、元々そっちの方も才能あったのよ。
体を動かすのは好きだしさ。
魔法は別にアイテムで強化できるしね」
まあ魂が欲するもの、渇望する物がスキルに現れるのだから、それも決して間違ってはいない訳なのだが。
「よくそんな事を冒険者協会が許してくれたな。
人生一発勝負なんてありえないぜ。
俺なんか下積み生活で一年間殴られまくった上に、そこから更に何度死んだと思った事か」
しかも、そこまで慎重に頑張ったのに、究極の外れ野郎とまで言われちまったのだから。
世の中は本当に不公平だぜ。
リナの奴なんか魔法使いとしてはスキルを完全に外している上に、近接最強ってなんだよ。
さすがにその二枚看板は反則じゃないか。
「あははは、人生なんて楽観的にいった方がいい感じよ」
「お前って、いつか人生ルーレットで身を持ち崩す気がする~」
「望むところよー」
そして、なんとそこでメイドさんが突然にこう言ったのだ。
「お嬢様、敵が現れました。
オークナイトです。
殺りますか」
こいつ、声が重厚というか重低音が利いているというか、えらくドスが利いていやがる。
これのどこがメイドさんだよ。
まあ人間じゃあないんだしな。
しかも、機械のくせに殺る気満々じゃねえかよ。
「おい、ここっていきなり上層の上っ面でオークナイトが出るのか⁉」
「最近は、そういう事も含めておかしいみたいよ。
初級立ち入り禁止になるわけだわ」
「ああ、確かこいつって、普通のオークの五倍くらい手強い奴だろう」
「うん、それに武具がね、また強力なのよ」
ここのオークナイトの野郎どもは豚頭の癖に、なんてスタイルしていやがるのか。
フルプレートを着込んで、手には馬上騎士用の槍を持っていて、まるで魔物騎士であるかのようだ。
まあ確かに自力で馬並みの突進力はありそうだけどなあ。
そいつがまとめて五体か。
上等だ、やってやらあ。
だが最初に突っ込んでいった奴はメタルゴーレム、いやリナの自称オートマタだった。
なんていうか、重量級同士の戦いだったのだが、そいつの抜き手は見事に相手の金属鎧を裏側まで見事に貫通した。
こ、これだから、からくりの機械って言う奴は。
「おい、こいつって全身がヤバイ金属でできてないか?
特殊鋼製らしきフルプレートが、まるで薄紙同然にぶち抜かれているし。
それに、なんてパワーだよ」
「みたいね。
ねえナタリー、そいつらの首だけ落としてちょうだい。
穴を空けると鎧の価値が下がるわ」
「かしこまりました、お嬢様」
殊勝な事を言っているが、メイドにしては異様に声が野太いな、ナタリー。
大体、名前が全然似合っていないし。
まあ本人達がよければいいんだけどさ。
そして次に風のようにお嬢様が舞った。
「へえ、こいつは」
彼女は、瞬く間に二匹のオークナイトの脳天を両の足を使って片方ずつ使って砕き、すかさず飛び込んできた三頭目の大剣を腕でブロックした。
これがコーティングの威力って奴なのか。
やたらと堅い音を弾かせて、しかもオークは仰け反った。
コーティングの力だけじゃなくて、リナも力が強いんだ。
いや、上手くタイミングに乗せて弾いたのもあるのか。
それに格闘技関連スキルのお蔭で力も上がっているのだろう。
先輩じゃないけど、今の俺はどれくらい固いのかな。
さすがの俺も、かなりパワーのありそうなオークナイトの、渾身の力を込めた大剣に切りつけさせて耐久性を試す気にはならない。
リタは、もう最後の一体になったそいつが仰け反った姿勢のままナタリーの方へ向かうようにと空中で蹴り出し、ナタリーは間髪を入れずにチョップですっぱりとオークの首を切り落とした。
おい!
手刀が、まるで包丁並みに切れ味がいいな。
結構ヤバイよ、ナタリーの奴は。
さすがは六×六の最強出目に、主の運否天賦も合わせて出現した特大宝箱の恩恵を受けているだけの事はある。
主とのコンビネーションもバッチリだし。




