2-20 リナ
「内部は本当に坑道なんだなあ。
こんなところで魔物と戦闘をしたら崩れないのかねえ」
だが、背後からくすくすと笑う声がした。
振り向けば女の子の冒険者が一人立っていた。
冒険者にしては珍しく伸ばした髪の金髪の煌めきが眩しく俺の目を焼いた。
イエローピンクの瞳と整った目鼻立ちが印象的だな。
「あなた、どこの田舎から出てきたのよ。
このダンジョンは聖なる力に護られているから大丈夫よ。
元々、ダンジョンなんてそう簡単に壊せるものでもないのだし」
「護られているだって」
「そうよ」
その女の子はすらっとした御御足を見せつけるような紺色の短パンと、カーキ色のタンクトップのような格好をして、少し丈夫そうなタイプのショートブーツを履いている。
手には指の部分を強化した、指先が出る仕様の拳闘用の鋲付きグローブを嵌めている。
腰には剣帯を装備し、そこにはシンプルに短剣とポーチ、それになんだかよくわからない薄青色の小箱だけというラフな格好だ。
あの先輩だって、そこまで軽装じゃないのだが。
幸いな事に、この子の場合、色合いだけは先輩ほどイカれていない。
女の子らしいお洒落な色合いで、白やピンク色なども各所に散りばめられているのだが。
まあ拳闘士らしいので動きやすさを重視しているのだろうが、それにしてもダンジョンにおいては度が過ぎる軽装だ。
「ふん、そんな顔をしないのよ。
あたしの肌はコーティングされているから大丈夫なの。
あなたこそ一人なの?
あら、もしかして一緒に従魔でも連れているの?
見えないけれど気配を感じるな」
この子もうちの狼の気配がわかるのか、結構優秀な冒険者なんだな。
俺と歳はそう変わらないように見えるけど。
俺が白狼軍団を見えるようにしてやると、彼女は顔を綻ばせた。
「あら、可愛い~。
もふもふな奴がいっぱいじゃない。
いいなあ」
「へへ、いいだろ。
なあ、ところでコーティングって何だい?」
「これよ」
彼女は、うちの子達の頭を撫でながら、剣帯に付けた薄青色の小箱のような魔道具を見せてくれた。
「ここの宝箱からの発掘品の一つなのよ。
これで、重装特殊金属鎧並みの防御力を体の表面に発生させてくれるの。
特殊な布鎧よりも防御力が高いわ。
いいでしょ」
「へえ、そっちのピンクのポーチは?」
「あら、目聡いわね。
こいつは収納バッグといって、このサイズで背嚢どころか馬車一杯分は荷が入るわ。
まあ買えば、物凄く高いんだけれど、あたしは自力でゲットしたから」
「うお、すげえ。
ねえ、ちょっと使う所を見せてよ」
「ふふん、いいわよ」
そう言って彼女は中からお弁当を取り出して、また仕舞ってみせた。
まるで手品を見ているかのようだった。
結構ドヤ顔のところを見ると、本人も自慢したかったものらしい。
「凄い。
それがあればダンジョンの中で豪華弁当が好きなだけ食えるじゃないか」
「しかも、ずっと腐らないみたいだから、もう最高。
お蔭でみんなの荷物持ちよ」
「よーし、俺もダンジョンで魔物を狩りまくって、そいつを買いに行こう」
「そんな物、ここの宝箱から自分で探しなさいよ。
まあ、なかなか出ないレア物だけどさ。
それに、そうそう収納アイテムは売っていないわよ。
これって自分で使うと凄く便利だからさ」
「そうかー、みんな冒険者なんだものな。
そいつは、どこで見つけたの。
遺跡の扉の中?」
それを聞いて彼女は眉を寄せた。
「こっちの坑道ダンジョンの宝箱よ。
遺跡の方は危ないわよ。
欲をかいて扉を潜った奴なんて、殆ど戻ってこないんだからね」
「ああ、知っている。
昨日は俺もヤバかった。
その前は賞品として、こっちのオリハルコンの槍をもらってきたけど」
「わ、凄いじゃないの。
賞品?
やっぱり、あっちから出たのは普通の武器と違うんだ?」
「凄い高性能だよ。
さらに、うちの凄腕の鍛冶師が弄ってくれたから最高の出来さ」
「へえ、でも扉はやめておいた方がいいよ。
マジで」
「昨日は仕方がない。
扉を捜しまくっていた、うちの先輩が捕まっていたんだもの。
あれは扉を開けた時点で負けなんだ。
扉を潜っていなくても、中に放り込まれる物もあるから気をつけなよ」
「げ、開けただけでアウトなのかあ。
ありがとう、うちのパーティにも言っておくわ。
あんた名前は?」
「リクル」
「あたしは『リナーっ』、という事よ」
彼女は坑道の蔭から顔を出した、自分のパーティのメンバーに手を振ってから俺に言った。
「あれ、お姉ちゃんなのよ。
うちは家族皆が冒険者なの」
「パーティじゃなくて、ファミリー⁉」
「あはは、親は来てないわ。
後はお姉ちゃんの彼氏と、その友達よ。
ちょっと噂の北のダンジョンの異変を覗いてやろうと思ってね」
「同じや、発想がうちのパーティとほぼ同じや」
「あっはっは、みんな冒険者なんだもの。
じゃあねー」
「ああ、君も気を付けて」




